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2-4 女神の温泉 オダワラから徒歩半日

 今度は問題無くトンネルを抜けて、湯河原に到着。パウルさん達に合わせて往路よりゆっくり目の移動だった。


「魔族ってもっと強いと思ってました」


 湯河原の宿屋にて、昨日の感想を述べる。昨日の魔族、最後はマルレーネの一撃で沈めた事があって、あんまり強くないんじゃないかって気がしてきた。


「魔族が弱いんじゃなくて私が強いのよ」


 いや、マルレーネが同年代より強いのは知ってけどさ。


「魔族は実力が物を言う社会だ。将たる実力者はあんな使いっ走りに出て来ない」

「人族は実力がある人が前に出るからね。魔族の使いっ走りと人族の実力者がやっと互角よ」


 ギードさんやイーリスさんは実力者に含まれる。ハコネを除いては小田原で一番との評価だ。おかげで道場も商売繁盛。


「それじゃ、魔族の実力者が出てきたらどうするんですか?」

「もちろん逃げる。そして、お前らに任せるさ」


 夕食時は、パウルさん一家も同じテーブルに就く。


「この町には宿がここだけだ。どうしてなんだ? 昔からこうなのか?」

「ずっと昔はあったそうです。今はこうなってしまいましたが」

「何かあったんですか?」


 熱海から何かされるのかな?


「アタミは領主様がいらっしゃり、それを支える方々もおられます。商業も盛んです」

「そんな感じだったね」

「用事のついでに温泉宿に泊まるので、宿に泊まるお客さんが多いのです」


 熱海で泊まった宿も、お客さんは何組も居たっけ。


「宿が快適さを競い、良い宿がしのぎを削っています。アタミに行けば良い宿に泊まれると評判です」

「実際に良い宿だったよ」

「ユガワラは目的地で無いので、ユガワラで節約してアタミで豪華にする方が多くなりました。その結果が、ユガワラの宿の衰退です」


 近所に大型競合店が出来た商店街みたい。


「とは言え、アタミも戦争でお客は減りました。このままでは衰退して行くでしょう」


 計画を打ち明けようか? でも、ハコネとも相談してからかな。




「ハコネ、パウルさんは信用できると思う?」


 宿の部屋で、計画実行について相談。

 計画と言うのは、箱根に温泉を作る事。温泉と一緒に温泉宿を作る事。ハコネと箱根湯本を歩いていた時に、二人で考えたアイデア。


「宿を任せるに適任じゃな。あれ以上の者をとなると、繁盛しておる宿からの引き抜きとなろうが、それは難しかろう」

「僕もそう思う。じゃあ明日スカウトしようか?」

「野望への第一歩じゃな」




「パウルさん、小田原到着後の事についてご相談したい事があります」


 湯河原から真鶴への道、昨日の話をパウロさんに。


「オダワラの西に新しい温泉と宿をですか。それは大変では?」

「そうかのう?」

「街道からも外れ、通りがかる旅人もいませんよね。温泉があるだけでお客さんが来るなら、ユガワラの宿はもっと栄えても良かった筈です。ユガワラにも温泉は出ますから。人の行き来が多い、もっといい場所を探してはどうでしょうか?」

「場所はそこが良いのじゃが」


 場所は箱根じゃないと意味がないんだよね。信仰集めするから。


「何かそこでしか得られない良い事があれば、お客さんが来るかもしれません。何日も滞在して頂ける理由があると良いですね」


 現時点では保留になった。パウルさんを口説き落とせる良いアイデアを考えないと。歩きながら考えていたが、これと言ってアイデアが出ない。




 小田原に着いたら、パウルさんは礼を言って町に消えて行った。まずは親戚を当てにするらしい。何かあったら連絡くださいと、行先を教えてもらった。


「温泉を見つけるのね。お風呂と泊まる場所があれば、時々は行きたいわ」

「師匠、その時は合宿をするのじゃ」

「ものを作ってから言ってくれ」


 いくらか需要はあるかな。頑張って準備をしよう。




「湯気があるぞ。ここらは出そうじゃ」


 箱根の小田原から近い場所で温泉を探すと、適地はすぐ見つかった。湯本の西側の山に、温泉が湧いている。


「熱くて触れんわ。この湯を麓まで引いて風呂を作るかのう」

「次は、大工さんを探しに行こう」


 再び小田原に戻って、冒険者ギルドに顔を出す。大工さんの伝手は無いかと思って。


「アタミは良かったか? 旅先で魔族に襲われるとか、勇者らしくなって来たじゃねえか」

「そんならしさ(・・・)はいらんのじゃ」


 情報はかなり早い。


「ついでに、槍落としのボンボンに因縁付けられたか。事件が向こうからやって来る。それでこそ勇者」

「それじゃ。冒険者が落とした槍だとは聞いておったが、その本人があんな奴とは聞いておらんかったぞ」

「あー、すまんな。アタミに向かうと先に聞いていたら教えたんだが」


 そういえばビリーさんには言わずに出発したっけ。


「槍を返せとは言われんかったのか?」

「人前では一度も使って無いからのう。我が持っておるのも、知られてないんじゃろう」


 ハコネが槍を取り出す。勇者として成長したハコネは、部屋ではない空間魔法が使える。僕の部屋に置くに邪魔な物は、ハコネに持ってもらってる。

 あの事件の後、この槍はビリーさんからハコネに譲られていた。使って無いけど。


「呪われた槍じゃ。物騒で使う気にならん」

「呪い解いたり出来ない?」

「お主が使いたいなら、やってみたらどうじゃ?」


 女神ってそんなことも出来るの? 10年経たない?


「今から言う通りやってみるんじゃ」




「色変わったけど、うまく行ったの?」


 紫だった槍が、青に変わった。


「聖なる槍が呪われた物じゃったか」


 色だけで分かるのか。


「これは刺した相手の生命力を奪い取る槍だった。今度はどんな効果になったんだ? 鑑定させるか」


 ビリーさんは一人の女性を連れて来た。耳が尖ってて長いって、エルフだ!


「レアクーマ、この槍を鑑定してみてくれ」

「畏まりました。この槍は…… 触れたものを癒すかもしれない(・・・・・・)槍です」

「触れたものを癒す槍かもしれない(・・・・・・)? 」

「いいえ、癒すかもしれない(・・・・・・)槍です。魔素が満ちている時には触れたものを癒し、満ちていない時は効果はありません。また、癒すと魔素が溜まるまでその効果はありません」

「触れた者ってのは?」

「穂先に触った者が癒されます」


 効果発動にクールタイムありの、聖なる槍ってことか。でもそれ、攻撃に使えないよね?


「魔素はどうすれば溜まるの?」

「私達の魔素と同じく、時間が経てば溜まると思われます」


 有用な槍になったのか、元の方が良かったのか分からない。でも呪いのアイテムって言うより、この方が良いかな。


「レアクーマ、ご苦労だったな。戻って良いぞ。それで、ハコネとサクラは何か用事があって来たんじゃないのか?」

「温泉を作るために、大工を探しておるのじゃ」


 部屋を出掛けていたレアクーマさんが振り返る。


「詳しく!」

「レアクーマ?」


 作りたい物の構想を説明する。源泉から湯を引く施設、温泉の浴槽と建物、宿泊施設。


「ぼ、私はハダノの出身です。あちらに居た頃はツルマキの温泉によく行きました。オダワラには温泉が無いのが残念だったのですが、近くに温泉を作ると言うなら手伝えます。里から最高の職人を呼びます」

「レアクーマ? ギルドの仕事は?」


 温泉大好きエルフ。さっきまでの「お仕事です」って態度が一変。




「ここじゃ」

「熱いお湯、周りは山と川。良いですね。外が見えるお風呂も作りましょう」


 ぜひ現場を見たいと言うレアクーマさんを連れ湯本に戻って来た。もうレアクーマさんの脳内にはプランが出来てそうだ。


「ここを良い温泉地に出来るように、精一杯協力させていただきます。まずは大工を呼んで来ます。費用はどれほど出せますか?」


 レアクーマさん、ギルドの仕事は良いの?




「しばらく休ませろって言って、行っちまった。鑑定持ち探しは大変なんだぞ、まったく」

「いや、すまん。まさかあれ程食いつくとは」

「俺もレアクーマの温泉狂いは知らなかった」


 ビリーさんはイーリスさんが抜けた後に手を尽くして鑑定持ちの人を探し、やっと見つけたのがレアクーマさんだったそうだ。


「イーリスも子供は大きくなったし、手伝いを頼むかな」




「ハコネの湯まで五里半じゃ。合っておるか?」

「大丈夫」


 それからの10日間、僕らは道を作っていた。もちろん石畳の立派な道ではなく、石を除いて草を少し刈っただけ。

 戦略ビューを見て距離を確認し、それを書いた立札を設置する。1里は約4km。小田原からハコネの湯(仮称)までは六里半で、歩きで一日。日帰りできる距離じゃないと言うのも都合が良いね。


「馬車が来るよ」

「レアクーマじゃな」


 御者席で手を振るレアクーマが見える。


「お二人も乗ってください。行きましょう」




「紹介します。温泉通スヴィクーマ、最高の大工シモナッパラとスロトゥケバ」


 全員エルフ耳。そして名前が長い。


「俺はシモ。面白そうな現場と聞いて来た。最高の仕事を期待してくれ」

「スロ。勇者ハコネには昔世話になった。恩返しに来た」

「スヴィです。レアクーマの温泉仲間よ」


 大工二人に、ついて来ちゃった一人だろうか。エルフって基本温泉好き?


「レアクーマさんとスヴィクーマって名前が似てるけど姉妹?」

「レアクーマってのは、熱いレアって意味よ。スヴィクーマも熱いスヴィ」

「成人したら、名前に特徴の語を付けるのさ。俺は器用だったからナッパラ、こいつは頑丈だからトゥケバ。家族以外が呼ぶ時は省略しない」




「言う通りヒノキがあるな。木材はここで賄える。乾燥場を作るか」

「野営場所を作る」

「源泉を見に行きましょう」

「私も」


 現場付近に到着して、大工二人は早速取り掛かってくれる。あと二人は? 温泉地のためだと思いたい。


 道具は全員空間魔法で運んで来たそうだ。大工道具、野営道具、食料、入浴セット。




 大工仕事の分担は、建物はシモナッパラさんが担当、温泉を引くのと付属設備はスロトゥケバさんが担当する。スヴィクーマさんは切り出した木材の乾燥が仕事だそうだ。全員が魔法を取り入れて作業をしてる。機械が無いから時間掛かるかと思ったら、かなり速い。初日に作業用設備は完成。あと河原に穴を掘った簡易風呂が完成。風呂はクーマコンビが速攻で作った。


 穴を掘って囲いを作っただけの風呂に、明るい内にクーマコンビと入る。()神の役得。エルフはスレンダーって説に、データを2例追加。


「サクラさん、なんで()って言うの?」

「昔からだよ。私とか慣れないから」


 元は男だからとは言えないし。「私」に直そうかとイーリスさんに相談したら、「僕ってのでもかわいいから良し」と言われた。でもマルレーネに伝染らないと良いけど、とも。


「お姉さんからのアドバイス。早めに変えないと、大人になってから恥ずかしい過去になるわよ」


 スヴィクーマさんの言葉に、レアクーマさんが顔をそらす。そういう過去あるの? でも僕は大人になるのかな。この体、既に数百歳だろうし。


 順番に風呂に入り食事後、それぞれのテントへ。僕とハコネ、 クーマコンビ、大工チームの順で見張りを立てる。テントはハコネと二人一緒にしてもらったら、レアクーマさんが顔を赤くしてた。違いますからね? 自分の体相手に何もしませんよ?


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