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羽佐間和久が勤める会社「アズスコープ」は世界最大手と言われるアンドロイド製造会社である。当時産業用ロボットを開発していたアズスコープが今から50年前に最初に製品化に向けて着手した。そして今から19年前に世界初となる人間型ロボットの製品化に踏み切ったのだった。当時はまだ、足りない労働力を補うために様々な会社が導入するだけにとどまっていたが、ここ7、8年で一般家庭向けに改良を重ね、普及し始めていている。そして今から5年前の大地震で本社ビルが半壊したため、広大な土地を買い取り、新たに本社を構えた。
「我々のコンセプトは創立当初から変わりません。これからも世の中に明るい光を照らし続ける一企業として精進して参ります」
3年前の新ビルの建設完了時の2代目社長、目黒友助の言葉は様々メディアで取り上げられ、アズスコープの社会に対する影響力の大きさが話題を呼んだ。
だが、あまりに急速に成長するアンドロイド産業に法整備が追い付かなかったという問題も少なからず取り上げられた。アンドロイドをネット上の闇市で売りさばく事案が続出し、しまいにはアズスコープ本社のサーバーがダウンしたりと、アンチの影がちらついているのもまた事実である。やっとこの1、2年特に大きな事件も起きなくなったというのが現状であった。しかしながら、若者の間では都市伝説的にアンドロイドに纏わる怪奇的な現象や事件は掲示板等で囁かれ続けている。アズスコープは頭ごなしに「事実無根」としている点がやや不自然であるとアンチ派の評論家も発言したりして、結論アズスコープは「トップシェアを誇る大企業」という事実的面に則したイメージが定着した。
ただ、ここ10年でアンドロイド産業に新規参入が目立ち、アズスコープだけの独占事業では無くなりつつあった。アズスコープは独自規格を厳密に定め、OSに関してもアズスコープのオリジナルソースによって組み立てられたものだった。だが、その規格に脅威的に迫りつつある全く別の規格を打ち出し、現在アズスコープの次にまでのぼりつめた新手が話題を呼んでいる。その会社の名前は「スラッシュキューブ」。頭文字をとってS&Cという愛称がついている。S&Cはアズスコープに比べて既存のコンピュータOSを基盤にしたオリジナルOSで高品質なアンドロイドの動作を実現したため、従来のコンピュータとの互換性を多く兼ね揃えていた。それが決め手となって、オフィスで稼働するアンドロイドのシェアの半分を占めている。従来のコンピュータソフトウェアのデータをそのまま頭脳部に記憶出来るため、大量の文書の記憶媒体としても使用可能であり、アズスコープに中々の痛手を食らわせたのだ。そして近年アズスコープはアンドロイド産業がまだ手を出したことない一般大衆を顧客にすることに舵を切り始めた。巷ではS&Cにオフィス系の立場を奪われ、逃げ道を作ったのではと囁かれていた。