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桐の祠  作者: するめいか英明
第1章 静稀と吾朗
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第2話

「ご存知の方も多いかもしれませんが、占いというのは、洞察と信頼が基本です」


 うんうん、と頷きながら私は占い師の言葉に聞き入った。ボロボロの机がギシッときしんだが、私は気にせず腕を置いて体重を預けた。


「まずこの場所。路地のちょうど真ん中にございます。本当にお客さんを寄せたいのでしたら、明るくてもっと目立つ路地の入り口に机を置いたほうが良いでしょう。わざわざ暗くて人目につきにくい奥まった場所にいるのにはわけがあります」


 もったいぶったような占い師の説明口調にうんざりしたのか、それとも先に種明かしをされてしまうことが嫌だったのか、吾朗はそこで口を挟んだ。


「その方が雰囲気出て騙しやすいからだろ?」


 すると占い師は笑顔を絶やすこともなく首を横に振った。


「騙すなんてとんでもございません。その印に、こうしてちゃんと理由を話しているではありませんか。しかし雰囲気が出やすいというのは紛れも無い事実。さすが塾帰りということもあり彼氏さんは頭の切れるお方のようですね」


 急におだてられてキョトンとする吾朗。何だか肩透かしを食らったようで、警戒心よりも照れが勝ったような表情を泳がせていた。相変わらず吾朗はチョロいな、と思った。


「塾帰りってことも分かるんですか」


 私が当然の疑問を口にすると、吾朗も遅れて気付き、再び占い師への警戒心を取り戻したようだった。吾朗も片肘を机に預け、ギシッと音が鳴った。


「ええ、こんな時間にここを通る学生さんは、この先にある塾へ通っている人くらいです。単に夜遊びしたいだけならこちらよりも反対の通りでいくらでも魅力的な場所がございます。そしてこの先の塾を下調べしておけば、進学目的の偏差値が高い塾であることも分かります。ですから、少なくとも平均的な学生より頭が切れ、そしてそれを自負する人が多いことでしょう」


 なるほど、言われてみれば当たり前のことだった。私は事情聴取をする探偵のように顎に拳を当て、うんうんと頷いた。吾朗は多分めちゃくちゃ嫌な顔をしていると思うから、そっちは見ないことにした。


「では何故明るい路地の入口ではなくここで待ち構えているのか、と言いますと、要するに私のところに歩いてくる人を一方的にある程度の時間観察できるからです。こちらのほうが暗いので、この占いの提灯くらいしか相手にはよく見えません。しかしこちらからは相手の表情や仕草を存分に観察できるわけです」


 ということはナニかね、私と吾朗が付き合っていることを当てたのも、路地を歩いてくる間のやりとりを遠目にずっと眺められていたということかね。私はそうツッコみたい気持ちを抑え、吾朗の方を横目でチラッと覗き見た。口元が綺麗な「ヘ」の字を描いていた。


「後は簡単な話です。お二人のどちらが積極的にここへ来ようとしていたか、計画的にきたのかそうでないのか、渡された1枚の紙をどちらが先に取るか、字はどのように書くか、もう一人に紙を渡す時に机に置いて渡すか直接手渡しするか、二人が書き終わった後に紙をどのように私に返すか、などなど。これだけの情報がございましたら、お二人の関係や性格、どちらに主導権があるか、何を目的でここに来たか、という程度のことは推察できます」


 名前を書かせたのはてっきりそういう占いだからなんだと思い込んでいたので、私は思わず「あー」と間の抜けた声を出してしまった。吾朗はというと、「人のことを影からコソコソ覗き見てドヤ顔して恥ずかしくないのか?」という言葉を脳内で占い師に吐きつけながらも現実ではそんな強い言葉を使えないので「なるほど……」と呟く以外にできなさそうな顔をしていた。


「なるほど……」


 ていうか呟いた。


「さて、種明かしも済んだところで何かご相談にでも乗れることがございましたら何なりとお話し下さい。占いというのは、一種の人生相談のようなもの。成り行きでここを通りがかったようでしたので別段占って欲しいことを用意していたわけではないと存じますが、改めて何か思いつくことや、聞きたいこと、聞いて欲しいことがございませんか?」


 そう言われ、私は1つ思い当たることがあった。最近学校で流行っている、ちょっとしたことについてだ。そしてこれが、私たちが「桐の祠」を訪れるきっかけとなった。

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