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ラストカナブン

「なんでこんなことになっちゃったんだろーなあ」


暢気に木を降り始めると、また声がした。

今度はなんだよ?

頭の中で顔を見せたのは、あの病室ですれ違った不愉快なおっさんだった。


「カナブン?いるわけがねえ」


頭の中で再現されたおっさんは、3割増しでむかつく顔をしている。

体内の血がざわめき始めた。

降りたら、あのおっさんに負けたことになるのだ。

冗談ではない。


僕はまた木を登り始めた。

待っててやるから登ってこい、とカナブンが言ってる気がする。

しかし、9メーターのところで再び動きが止まった。

ラスボスの影を感じる。

そう、恐怖心という名のラスボスだ。

そのラスボスは、9メーターのところで仁王立ちしている。


「あのお、どいてもらってもいいですか?」


「やだぴょん」


恐怖心は僕の頼みを聞かないで、あぐらをかき始めた。


「くそっ、くそっ、どけよっ、くそおっ」


リズミカルに愚痴っても消えない。


動きが止まっていると、またしても声が聞こえる。


「カナブンを捕まえるのは任せた」


昆虫ショップの中村さんだ。

でも、僕は八つ当たりみたいに怒りをぶつけた。

何でこんな面倒なことを押し付けたんだ!

僕に期待するのはいいけど、ダメだったら失望するんだろ!

期待してたのにとか言って、ふざけんなっ!

勝手に期待して、勝手に失望すんなっ!


しかし、僕の叫びは闇の中に飲まれていった。

もう蛍しかいない。

蛍!

もう一度僕の前に現れて、僕に力を貸してよ!

蛍っ!


しかし、その声は届かない。

蛍はもういないのだ。


僕は心の中で蛍の出現に期待していた。

僕がこうやって苦しんでいれば、助けに来てくれる。

またふわーっとホタルがやって来て、僕を導いてくれる。

ハズだったのに……


何も現れはしなかった。


僕は大人たちを見返してやりたいと言った。

しかし、結局のところ自分の力ではなく、蛍を頼ろうとしていたのだ。

頼っていた対象が、親ではなく、蛍に移行しただけに過ぎなかった。

この状況は当然だ。

いざとなったら他人任せだったのだ。


中村さんは、僕に自立心が芽生えてきていると言ったが、実は全くそんなことはなかった。

単なる反抗期だ。

ダサすぎる。


蛍に頼るな。

僕は、僕の力を発揮してここを乗り越えないといけない。

カナブンは僕が捕まえたいから捕まえるのであって、周りは関係ないんだ。

今ここで、僕は精神的にも自立して見せる。


「蛍、何も言わなくていいから、見ててくれっ!」


僕は一歩を踏み出した。











あれからどれくらい経ったのだろうか。

田舎から上京して、今は都内で働いている。


あの時、少年だった僕は大人になった。

今は偉そうに大人を否定することはできない。

周りが自分のために働いているように、僕も自分の欲求のために働いているからだ。


この世界は競争社会だ。

自分が出世するためには、誰かを蹴落とさなければならない。

資源は有限で、みんながみんな幸せにはなれないのかも知れない。


それでも、カナブンを追った夏の日に手に入れた力で切り開くんだ。


終わり





おわってもうた

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