姫と従者な関係
艶やかな髪。
鋭くまた愛らしさも魅せる瞳。
しなやかなその肢体からはどこか特別な血筋…気品さえも感じさせる。
そんな…多くの目を集めて止まない『姫』と呼ばれる彼女。
彼女こそこの凡庸な高校の中で多くの者たちが認め認識する特別であった。
文化祭も二週間前となり皆にもようやくエンジンが掛かり始めた最中。
「すまんっウチの一年が『姫』を怒らせやがった」
顔馴染みな友人からの最近良く聴くお決まりな一言。
「はぁっまたかよ!つい三日前にもやらかしたばっかじゃねぇか」
言葉通り、ついこの前一悶着やったばかりだというのに…
反省という言葉を知らんのか。
「ふっコレも我が部の伝統。こんな所で途絶えさせる訳にはいかんだろう」
「ったく会場の設置に追加でまた部員何人かもらってくからなっ。写真部部長さん!」
「…了解、料理部部長さん」
コレもまた最近の決まり文句。
哀しいかな、我が料理部には男手が足りてないのだ。
「ったく、何でまたこう毎回忙しい時に限って」
公然と人手が徴収できるのはいいが、流石にボクばっかり苦労するなんて普通にイヤだ。
かといって校内で『姫』を何とかできるのは…
………はぁ〜
「で、場所はどこ?この時間帯なら…屋上?」
「イヤ校内を逃げ回ってる」
時間もない事だし直球で終わらせたいボクの心情をバッサリ裏切ってくれる素敵回答。
しかし…
「逃げてるって凄いなソイツ。なんだよホントに文化部員か?」
直前までの心情すら忘れて、ソコは素で感心。
生まれもってな狩人だったりする『姫』。
普通現役運動部な連中だってそう簡単には逃げられない。
そんな姫から1人で逃げ続けられているという。
「中学ん時は陸上で長距離走ってたって、あっあと趣味はサバゲーらしい」
「なっ!?なんでんな奴がお前んトコに」
サバゲー…サバイバルゲームとかっていうヤツかな?
確か山の中とかでやる戦争ごっこ?
みたいな感じだっけか?
「将来の夢は戦場カメラマンだそうだ」
「なっ……なんつーかまた…」
「ふっウチの秘密兵器さっ」
何故か誇らしげなバカ1人。
コイツもそうだが、まともな部員は居ないのか?
…っていうかまさかわざと?
わざと『姫』を怒らせた?
いや…いやいや流石にソレは…あはっあはは…
「何か体育館の方が騒がしいな…とりあえず行ってみるか?」
「…あぁっああそうだな」
まぁともかく、今は何も考えないでおこう。
うんソレが良い。
今はさっさと『姫』を抑えて労働力確保っ。
つーかそういえば今日はボク自身既に時間切羽詰ってるんだった。
生徒会に提出する書類。
提出期限が…はぁ〜。
と、まぁ軽く現状を悲観してた所前方から飛び出してきた影一人。
「あっ部長」
ボク達に気付いての一言と、振り回されてるカメラを見て正体確信。
その背後、まだ姿は見えないがすぐソコにはきっと…
「来るぞッ!!」
「了解っ!」
思考を一気に戦闘態勢に。
教室に常備させている『ソレ』にいつもの『粉末』を仕込んで準備完了。
後は『姫』が現れれば…
………
……
…
サバーゲーな後輩君と接触。
問答無用で確保。
…
…
そして…
…
「ヒッてーーっ」
窓から飛び込んできたアクロバティックな強襲者の一撃に後輩君の悲鳴が響く。
予想外な方向からの襲撃に場は一瞬硬直。
しかしながら例外はどこにでも居る。
『姫』との付き合いの長さは伊達じゃない!
ターゲットに襲い掛かるのに夢中な【姫】
『対姫捕獲用麻袋』を頭からスッポリ。
即座に口を閉じてそのまま押さえ込む。
途端に暴れ始めた『姫』。
暴れる。暴れる。
それはもういつも通り凄い勢いで。
叫び。
爪を立て。
身を跳ねさせて。
ボクだって負けず劣らず必死で押さえ込む。
暴れる。暴れる。
『姫』必死。
ボクだって必死。
だってココで失敗したら次の標的は間違いなくボクな訳だし。
そりゃ必死にもなりますって。
…そして…
…長い様で短かったかもな時間。
ようやく『姫』の抵抗がなくなった。
強く握り締めてた麻袋の口を開けると、案の定中には酩酊状態な『姫』。
「ふーーーっ」
ココでようやく安堵の溜息。
脇ではアイツに怒られてる後輩君。
『姫』相手に引っ掻き傷一つというのはなかなか。
幸運だったのか…
後輩君の実力だったのか…
まっボクには関係ないか。
「んじゃ『姫』は連れてくから」
幸せそうにだれているしてる『姫』を腕の中に抱えて。
「約束忘れんなよー」
更に一言残して部室に向かう。
「まったく…大方昼寝の邪魔されたか何かだと思うけど人騒がせな…」
軽く喉元を掻いてやるとゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らす。
「いつか保健所送りにされても知らないから」
言って軽くコツいてやるが、コレもまぁいつもの事。
「マタタビ粉もそろそろ追加しとかなきゃいけないし、やる事いっぱいっ」
分かってるのか。
分かってないな。
「本当に困ったお姫様だよキミは」
そんな『姫様』は甘える様に…
ただ今という時が至福だというかの様に…
「にゃ〜♪」
ボクの腕の中で嬉しそうに一声鳴いた。