表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
語られない物語~異界の天使たちによる異聞禄~  作者:
それぞれの思惑

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/128

眠り

 時間は少し遡る。


 竜巻で黒い影を吹き飛ばした紫依は一気に上昇していた。大きな深紅の瞳は紫水晶となり、右手には大鎌を握りしめている。


 風よりも早いスピードで黒い影を突き抜けた紫依は三対の翼を広げて止まった。その姿に声がかかる。


「おや、あなた一人ですか?」


「このたびは、あなたに話があって参りました」


 無表情で紫依の声なのだが何かが違う。そのことを感じ取ったルシファーが少しだけ表情を崩して言った。


「話せるようになったのですか?ラファエルの残骸(プログラム)なのに、随分とその体に慣れてきたようですね」


 紫依はルシファーの質問には答えずに用件だけを話す。


「今すぐに冷凍睡眠(コールドスリープ)して下さい」


「は?何を言い出すのかと思えば」


 ルシファーがバカバカしいと笑う。だが紫依は無表情のまま真剣に説得を続けた。


「あなたは知っているはずです。この戦いの無意味さを」


「この戦いに意味があろうと、なかろうと私は神を守り、神の願いを叶える。そのために存在するのです」


「だからこそです。全てが終わるまで冷凍睡眠して下さい。全てが終わった時、あなたの存在が必要となります」


 紫依の訴えにルシファーが首を横に振る。


「話になりませんね。私は常に神とともにある。私は神から離れるわけにはいきません」


「全てが終わった時、あなたがいなければ神は困るでしょう」


「それは、いらぬ心配ですよ。私が消えるのは、神が消える時のみ。そして、これから消えるのは、あなたですから」


 ルシファーが大剣をかまえる。紫依はどこか寂しそうに大鎌をかまえた。


「どうしても聞き入れてもらえませんか?」


「くどいですね」


「では、力づくでいきます」


「はたして、あなたに出来ますか?」


「今度こそ、やり遂げます」


 紫依が宣言すると同時にルシファーに斬りかかる。ルシファーは受け止めようとして何かに気付き、後ろに下がった。ルシファーの残像を大鎌より先に大剣が突き刺す。


 突如現れた大剣に紫依とルシファーの視線が集まる。


 大剣を持った朱羅が紫依に視線を向けて言った。


「ここは撤退するんだ」


 朱羅の言葉に紫依は答えない。無言の紫依に対して朱羅がもう一度声をかける。


「今ここで戦うのは得策ではない」


 無表情だった紫依の顔が少しだけ困惑したようになり、紫水晶の瞳に深紅の色が浮かぶ。朱羅が畳みかけるように呼びかけた。


「紫依!」


 名前を呼ばれて紫依の体が雷に撃たれたようにビクリと跳ねる。そして大きな瞳が深紅へと変わった。


「……こ、ここは?私はいつの間に外に?」


 周囲を見ながら戸惑っている紫依の腕を朱羅が掴む。


「行くぞ」


「逃がしませんよ!」


 ルシファーが大剣を振り上げるが、それより先に橙色の光の輪が二人を包んで姿を消した。





 地下の基地に戻った二人をアークとオーブと蘭雪が出迎えた。


「大丈夫でしたか?」


「あぁ。ルシファーはどうなった?」


「引き上げました」


「そうか」


 簡潔に頷く朱羅に対して、腕を掴まれている紫依はどこか疲れた様子だった。


「あの……一体、何が起きたのですか?たしか私は朝食を食べていましたよね?」


「そこから覚えていないか……」


「……はい」


 混乱している紫依の頬に蘭雪が触れる。


「顔色が悪いわ。少し休んだほうがいいわよ」


 蘭雪の意見にオーブが頷く。


「そうだな。何があったかは後で説明するから、今は一回寝たほうがいいぞ」


「……わかりました」


 歩き出そうとした紫依を朱羅が抱き上げた。


「部屋まで送る」


「……ありがとうございます」


 今にも倒れそうだったところを気力で立っていた紫依は素直に礼を言った。


 朱羅が紫依を抱えて廊下を歩く。紫依は今にも閉じそうになる瞳を何度も瞬きしながら、独り言のように呟いた。


「私は私でいられるのでしょうか?」


 紫依の言葉に朱羅が足を止めることなく聞き返す。


「どうした?」


「私ではない私が体の中に広がっているような……眠ったら二度と目覚められなくなりそうな……そんな感じがするんです」


 朱羅は部屋に入ると紫依をベッドに寝かせた。


「俺が必ず起こす。だから安心して休め」


 だが紫依はウトウトしながらも眠ることを拒否するように話を続けた。


「このまま私は消えてしまうのでしょうか?」


「大丈夫だ。俺がそばにいる」


 朱羅が紫依の手を握る。そのことに紫依は驚きながらも、どこか嬉しそうに微笑んで深紅の瞳を閉じた。眠る時に誰かがいるということは久しぶりのことだった。


 手から伝わる朱羅のぬくもりと力に紫依が力を抜く。


「ありがとうございます」


 安心したように眠った紫依を見た朱羅はどこか苦しそうに視線を伏せたあと、決心したように立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ