孤軍奮戦
時間は少し遡り、朝食を食べ終えたオーブはジャングルの中にいた。うっそうと茂る木が音を立てながら一本、また一本と倒れていく。
「あぁ!またダメだった!」
黄金に輝く巨大な弓を持ったオーブがその場に座り込む。その拍子に周囲の木に弓がぶつかり、再び木が倒れる。
狭い場所での有効な戦い方を一晩考えたが、結局は何も浮かばなった。そのため、ぶっつけ本番とばかりに朝一でジャングルに出向き、模擬戦をしようとしたのだが無駄に木を倒すだけで、矢を放つことさえ出来なかった。
「こういう場所なら最悪、周囲の木をなぎ倒して矢を放つスペースぐらいなら確保できるけど、それが出来ない場所の場合が問題だしなぁ……」
オーブが頭を抱えていると、突き刺さるように差し込んでいた太陽の光が途切れた。
「ん?スコールか?」
ジャングルでは晴天だったのに、突然分厚い雲が出てきて大雨が降ることはよくある。オーブが空を見上げると、そこには雲ではない何かが太陽を隠していた。
「なんだありゃ!?」
小さな黒い粒が大量に集まり団体行動している。遥か上空にあったそれは徐々に地上に向かって降りてきていた。
「なんかイワシの群れを思い出す光景だな」
空の青が海の青となり、逆光で黒い影になった小魚の群れが自由に泳いでいるようにも見える。
「たぶん神関係なんだろうけど、どうするか……ヘタに手は出したくないよな」
オーブが空を眺めているとバンドから通信が入った。
『オーブ、紫依が地上に行ったと思われます。紫依が暴走しないように、そこで捕まえて下さい』
「は?紫依が暴走?なんで?」
アークからの返事を聞く前にジャングルの一角から上空に向かって竜巻が現れた。
「まさか!?」
空をおおっていた黒い影の一か所に丸い穴が開く。そこからは青い空と、その先に白い翼を羽ばたかせたルシファーの姿が見えた。
「あのヤロー!」
オーブが空に飛び立とうとしたところで、地上から一筋の線が穴を突き抜けて空へと上昇した。
「今のは!?」
艶やかな長い黒髪と大鎌が太陽の光を弾く。
「紫依!?」
驚くオーブを置いて黒い影が再び空を閉じた。オーブが慌ててバンドに声をかける。
「紫依が空に上がった!追いかける!」
『空にはルシファーがいます。そちらは朱羅が行きますので、オーブは偵察機の殲滅をお願いします』
「偵察機?あの黒いやつらのことか?」
『はい』
黒い影がジャングルの真上にまで迫ってきている。
このままでは地下の基地を攻撃されるのは時間の問題だと判断したオーブは渋々頷いた。
「……わかった」
『お願いします』
その一言で通信が切れる。オーブは弓をかまえようとしたが、その前に周囲の木々をなぎ倒した。そのことに反応したように黒い影の一部が一糸乱れぬ動きで空を一回転すると、そのまま突撃してきた。
「ヤバイ!」
オーブが弓で戦える場所を探して移動する。だが、ここはどこまでも広がるジャングルで、空は黒い影で塞がれていた。オーブは逃げながら手持ちの武器で戦うことを考えたが、効果的な方法が浮かばない。
「クソッ!こうなったら……」
袖から出した銀のナイフを前方に投げる。
「全てを飲み込め!」
銀のナイフが突き刺さった場所から土が盛り上がり木々を飲み込む。ジャングルの中にできた小山の頂上にオーブが立った。
「よっしゃ!」
オーブが素早く弓をかまえて矢を放つ。放たれた矢は分裂して黒い影を突き抜けた。矢が通った後は黒い影が消えて道ができるが、それもすぐに黒く埋まる。
「多勢に無勢かよ!」
愚痴を言いながらもオーブは次々と矢を放った。矢は一本で数十本に分裂するため一回の攻撃でかなりの数の偵察機を落としている。だが一機、一機が小さい上に数が多すぎるため、黒い影は少し色が薄くなった程度で、あまり変化しているようには見えない。
「クソッ!いちいち矢をかまえるのが面倒くせぇ!」
悪態をつきながらオーブが叫ぶ。そこに黒い影の一部が蛇のような形になり矢の攻撃をすり抜けてオーブに突進してきた。
「ヤバイ!」
オーブは矢を放つのを止めて小山から飛び降りた。黒い影の蛇は勢いを殺すことなく突進して小山の頂上を削り、そのままオーブを追いかけてくる。
「こっちが攻撃する時は分散して逃げるくせに、こっちに攻撃してくる時は固まって力を上げてくるなんて卑怯だよな!あぁ、もう邪魔だな!」
オーブは逃げながら、左手に持っている自身の身長ぐらいある弓を睨んだ。前世からの相棒であり、何度も窮地を救ってくれた頼れる武器である……のだが、このジャングルの中では完全にお荷物となっていた。
「おまえなあ!空気を読んで、もう少し小さくなれよ!」
オーブが無茶ぶりを承知で弓に命令する。だが相手は武器であり、返事をする機能などないため反応はない。
わかっていたことなので、オーブは気にすることなく視線だけで背後を確認した。すると、蛇となった黒い影がジャングルの木々の隙間をぬって迫ってきていた。距離は徐々に縮んでおり追いつかれるのは時間の問題である。
「こうなったら、このジャングルごと消滅させるか……いや、ダメだ」
この騒ぎで姿を隠しているが、このジャングルは様々な動物や昆虫など多様な生命に溢れている。自分たちの争いで平穏だったジャングルを荒らしているため、これ以上の被害はだしたくない。
打開策が浮かばないオーブは大きな弓を片手にジャングルの中を走り抜けていった。




