馴れ馴れしい美丈夫
「私はロボットですので空気は関係ありません」
「ロボット……つまり、機械ですか?」
「その通りです」
紫依はオーブから教えてもらった言葉の実物を見て深紅の瞳を丸くした。獅苑は元がヒトであるため、そこまで驚かなかったが、アークの存在は想像を超えていた。
どう見ても普通の人間と変わらない表情や仕草。これが全て機械によるものだという事実に紫依が珍しく表情を崩した。
「私の役割は指示を出すだけですから、どこにいても問題ありませんので、私が代表としてきました。この世界のヒトはこの基地に入れませんので」
穏やかに頷くアークの隣で朱羅が補足説明をする。
「文明が発達したこの世界では造ることは難しいことではない。ただ目的もなく人間型ロボットを造ることはないから数は少ない」
「すごいですね」
少しだけ驚いたような表情をしている紫依を見ながらオーブが楽しそうに話す。
「驚いただろ?でも、この世界ではヒトが指揮をとるよりロボットが指揮をとったほうがいいんだよ」
「どういうことですか?」
「神はヒトが集まることを極端に恐れているって話をしたのは覚えているか?この世界では生まれた時からヒトは独りなんだ。身の回りのことは育児ロボットがするから問題ないけど、他人と関わることがないからコミュニケーション能力が極端に低いんだ」
オーブは説明をしながら思い出したように言った。
「そういえば仕事なんかでも、四人以上でチームを組んで仕事をすることを神が禁止していたけど、実際にはそんなにヒトは集まらなかったよな。個人で動くから、二人以上っていうかチームでの行動の仕方がわからなくてさ。神を落とす同志だってアークがいなかったら、まとまることはなかったと思うぞ」
紫依はふと浮かんだ質問をした。
「そんな中でラファエルさんたちは、どうやってコミュニケーションをとっていたのですか?」
オーブが朱羅に視線を向ける。朱羅が顎に手を置いて少し考えながら言った。
「普通なら仕事関係で少し会話をする程度だが……俺たちは神のところにいるときから例外の存在だったな。プライベートでは四人で行動することも多かったし、ラファエルやウリエルは作成したロボットを娘とか息子とか、まるで自分の家族のように呼んでいた」
「そうなのですか」
あまり表情が変化しない紫依にアークが声をかける。
「ラファエルが造ったロボットにお会いになりますか?」
アークからの突然の質問に紫依は少し考えた。
「私は前世の記憶を思い出していないですし……お会いしても相手の方が不快に思われるのではないでしょうか?」
紫依の答えにアークが嬉しそうに言った。
「あなたは優しい人ですね」
「え?」
「あなたの世界ではロボットをただの機械と考える方も多いでしょう。それを人格があるヒトとして、人間と同じように考えて下さる。ラファエルが製作したロボットではないですが、あなたに礼を言いたいというヒトがいますので、お会いして頂いてもよろしいですか?」
紫依は頷きながらも首を傾げた。
「会うことは構いませんが……私は礼を言われるようなことをした記憶がありません。人違いではないですか?」
「いえ、あなたで間違いありませんよ」
そう言うとアークは壁に向かって声をかけた。
「どうぞ、お入り下さい」
黄金に輝く髪を後ろで一つにまとめ、海のような紺碧の瞳をした二十五、六歳ぐらいの青年が部屋に入ってきた。彫りは深く、精悍な顔つきをしている。身長は高く二メートル近いがそれを感じさせないバランスがとれた体格をしている。
長身の美丈夫が両手を広げて紫依に近づいてきた。
「初めまして。ラファエル博士の生まれ変わりが、こんなに可愛らしいお嬢さんとは嬉しいね。オレのことはブローディアと呼んでくれ」
そのまま紫依を抱きしめそうなブローディアの勢いを、朱羅が鋭い視線で遮った。
「礼を言いにきたのではないのか?」
それ以上、紫依に近づいたら斬るという無言の圧力もブローディアは意に介さず、人懐っこい笑顔を紫依に向けた。
「そう、そう。獅苑が電脳空間で世話になった。ありがとう」
その言葉に紫依が初めて電脳空間で獅苑に会ったことを思い出した。
「獅苑さんをご存知なのですか?」
「ああ、オレの可愛い後輩でね。紫依ちゃんのおかげで本当に助かったよ」
いきなりのちゃん付けに朱羅の片眉が吊り上る。だが当の本人は気にしていないのか平然と話を続けた。
「どうして獅苑さんは、あのようなことになっていたのですか?」
その質問にブローディアから明るく軽い雰囲気が消え、そのまま悔しそうに紺碧の瞳を伏せた。
「神の情報をアークに横流ししていることがバレてね。神の内部から逃げるとき、オレ達を逃がすために獅苑は一人で足止め役をしたんだ。助けに戻ったときにはボディはバラバラ、精神プログラムはあんな状態でオレ達では手出し出来ない。再起不能になるのは時間の問題だと思って覚悟していたんだ」
そこでブローディアは顔を上げた。表情は晴れやかで嬉しそうに笑っている。
「けど、紫依ちゃんが獅苑のプログラムを救い出してくれた。どんなに礼を言っても足りないぐらいだ。本当にありがとう」
「それは良かったです」
ブローディアが差し出した手に紫依も手を伸ばす。そこに別の手が入った。
「そう言って握手をした瞬間、抱きしめるつもりではないでしょうね?」
釘を挿すような言葉に導かれて紫依が手の主に視線を向ける。
「あ……」
その顔を見て紫依は思わず声を出していた。




