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侵入者

 理由もわからず一人置き去りにされた少女は空を見上げていた。

 血のような深紅の瞳には満点の星空が映し出されている。艶やかな黒髪と、どこか日本人離れした顔立ちの白い肌が夜の闇の中で透けて見える。


 微動だにせず空を見ていた少女が突然周囲を見回した。


「結界は破られていないのに。どうやって?」


 異変を察知した少女は音もなく走り出すと、離れの屋敷に飛び込んだ。風のように縁側を走り抜け、障子に手をかけると前置きの言葉をかけることなく開け放った。


「何者かが結界の内側に出現して、こちらに集まってきています」


 少女の突然の報告に、風真はオーブから差し出されていた手を無視して縁側に飛び出した。目を細めて周囲を確認すると、風真は少女に訊ねた。


「結界は何も反応していないけど?」


「はい。ですが結界の内側にいます。出現場所はバラバラですが、ここに集まってきています」


 はっきりと断言する少女に、室内の男たちも立ち上がって縁側へ移動する。


「本当か?」


「だが、罠にも反応はないぞ」


 そこに屋敷から離れたところで爆発音が響いた。その音に男たちの表情が引き締まる。


「どこの罠にかかった!?」


 男の一人が縁側に出て黒煙が上がっている位置を確認して叫ぶ。


「西の七だ!近いぞ!」


「何故ここまで接近に気づかなかった!?」


 慌てる男たちの後ろから重く静かな声が響く。


「落ち着きなさい」


 その一声で慌てていた室内が静かになり、全員が上座に注目した。


「相手が何者か把握することが先です。三人一組となり、虎の陣形をとって迎え撃つ準備をしなさい。風真は社に行き、結界の確認をしなさい」


「はい!」


 長の指示に全員が動き出す。少女も部屋から出ようとしたが、それを風真が止めた。


「ここにいろ」


「ですが……」


「君が狙いの可能性もある。自分の身を守ることだけを考えろ」


 そう言い残して風真も外へ走り出した。風真の後ろ姿を見送っている少女に、立ち上がった長が声をかける。


「風真の言う通りです。あなたは客人とともに、ここにいなさい」


 そう言うと紫依の返事を聞くことなく長も部屋から出て行った。


 部屋に残された少女は少し考えた後、縁側から周囲を見回した。四方から爆発音が響き、その音が少しずつ近づいてきている。


 少女が外を睨んだまま両手を強く握りしめたところで、存在を忘れられたオーブが声をかけた。


『何か起きたの?』


 オーブは状況が理解できず少し困惑しているといった表情をしている。少女はそんなオーブに視線を向けることなく、真っ直ぐ外を見つめたまま英語で答えた。


『あなたが何故、日本語を話せないフリをしているのか分かりませんが、今はこの部屋にいて下さい。この部屋にいれば安全は保障します』


 その言葉にオーブは悪びれた様子もなく口角をあげて面白そうに日本語で言った。


「ありゃ、バレたか。どこでオレが日本語を離せないフリをしているって分かった?」


「あとで話します。とにかく、ここにいて下さい」


 少女はオーブを一度も見ることなく外へ駈け出して行った。その後ろ姿を見ながらオーブが楽しそうに頷く。


「全然、オレのことを疑っていなかったな。まあ、日本語が話せることを見抜いたぐらいだから、この騒動の原因はオレじゃないって分かったのかな?と言っても、まったく無関係ってわけじゃないんだけどなぁ。とりあえず、どんな状況か見てくるか」

 オーブは軽い足取りで縁側に出るとそのまま姿を消した。





 社の前にあった舞台が消え、塀の四角にある物見やぐらより高いやぐらが建っていた。この短時間で誰がどうやって建てたのかは不明だが、誰も気にしている様子はない。

 長は物見やぐらの上から山中で響く爆発音を聞いていた。その後ろでは竹筒を抱えた男が控えている。


 男が険しい表情で呟いた。


「結界が反応しない侵入者とは……何者なのでしょうか……」


「わかりません。ですが……数が多いですね……」


 侵入者は警戒していないのか、あちらこちらで罠にかかっては爆発音をさせながら、まっすぐ屋敷に向かっていた。今は距離があるが、このまま侵入者がまっすぐ進めば屋敷は隙間なく囲まれる。


 ふいに男が右手を耳に当て、何度か頷くと長に報告をした。


「偵察班より報告です。侵入者は人型をしており、詳しく確認しようとしたところで攻撃をしてきたそうです」


「わかりました。攻撃態勢に変更します。敵を屋敷に近づけないように」


「はい」


 指示を受けた男は抱えていた竹筒を下ろすと、素早く導火線に火をつけて狼煙のろしを上げた。打ちあがった狼煙は花火のように輝き、夜空をまっすぐ切り裂いていった。


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