夕陽の万華鏡
リサイクルショップで買い求めたのは1000円ちょっとのちょっとお高い万華鏡だった。
万華鏡なんて近所の百円均一で材料さえ揃えれば自分でも作れるというのに、どういう訳か、普段なら視線が行くこともないものなのに、一目惚れしてしまった。
一目惚れ、という表現は生温いかもしれない。
ワイン色をした縮緬の筒に、端に控えめに、しかししっかりと主張するラインストーンが綺麗なその万華鏡は、まるで磁石のように僕を吸い寄せた。
手にとったそれはまるで僕の手の中にあるのが理想の状態と言うように、しっとりと馴染んで、手放す気にはとてもなれなかった。
会計を済ませ、店の外に出る。
街は夕陽のオレンジに包まれ、こころなしか暖かい空気が流れていた。
ゆっくりと家路につく。
そういえば僕は中古の扇風機を買おうとリサイクルショップに行ったのに、結局買えずじまいだ。
なんだか悔しい気持ちになり、小さくため息がでた。
ビニール袋の中の万華鏡に目を遣る。
僕はなぜこれを買ったのだろう。
理由は言い表せないが、ひどく惹かれたのだけは確かだ。
僕は万華鏡の中を覗いて見たくなり、近くの公園にあったベンチにこしかけた。
適当に座ったベンチはとても西日がキツい位置にあり、尻の下の温かさが不快感を増加させた。
しかし今更移動するのも億劫で、僕はそのまま万華鏡を取り出した。
少しお高いだけあって、状態も良いし、なんなら材料もいい物なのではと思う。残念ながら僕にその真偽を鑑定する目はないけれど。
覗き穴から中を覗く。
俯いて見ているせいか、影になってしまってよく見えなかった。
顔をあげ、もう一度覗き込む。
夕日が入り込んで、先ほどは影になっていた万華鏡の中に色が挿した。
夕陽のオレンジのせいで、すこし橙色が強くなってはいるが、鮮やかな極彩色が、きゃらきゃらと舞っていた。
ゆっくり、万華鏡の筒を回す。
模様を変え、色を変え、色彩の洪水が僕を突き刺しつづけた。
実家からみた、夏祭りの花火が脳裏を過る。
母と父とともに食べたスイカの味は、とても甘く、瑞々しかったように思う。
万華鏡から目を離し、力なくうなだれる。
足元にぽつりと、シミが落ちた。
鮮やかに輝いたあの故郷は、もうないのだ。