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空白のリネン  作者: さちはら一紗
2章 the doll = the girl
9/44

2−3 ずれた歯車

 光の差し込んだ部屋の中で、オギは自身の耳を疑った。

 人形。

 リネンが。


「なんで」


 知っているのか。

 逆光の中でソフィーネはこてんと首を傾げる。


「そんなの、見れば分かるもの」


 そっと雲が陽を覆う。光が弱まった。

 オギが次に疑うのは目だということを、空は知らず。

 童女が問う。


「あなたも、分かるでしょ?」

「君は」


 陶器のような肌は比喩ではなく。

 硝子玉のような碧眼も例えではなく。

 その言動だけはきっと嘘ではなく。

 ソフィーネ=ディグは童女の姿を象った、ビスクドールの自動人形(オートマタ)だった。


「最近の人形はすごいのね。本当にただの女の子みたい!」


 ソフィーネはリネンの周りをくるりと回る。

 明るい場所で見れば、彼女は確かに人形と分かる容姿をしていた。じっと座って静かに黙っていれば、誰が彼女が動くと思うものか。

 リネンが人にしか見えない人形ならば、ソフィーネは時折人と見間違えてしまう人形だ。 

 作りは明らかにリネンに劣るというのに、ころころと変わる表情はあまりにもしっくりときていて、オギは戸惑う。不快ではない。違和感を感じないことに危機感すら覚えた。


「それで、私はあなたの友人になるべきなのですか。友人とはなにをすればいいのですか」


 平然とリネンは問い直す。驚きは無いようだ。

 ソフィーネがにっこりと、


「あ、やっぱりあなたも分かってたのね。そうよね、ソフィに分かるんだもの、あなたに分からないわけないものね」


 などと言う。

 つまりオギだけが置いてけぼりだ。諦めて深呼吸をする。


「もう一度、尋ねた方がいいですか?」

「ううん、だいじょうぶ。ちゃんとわかってるのよ? ソフィはできる子なんだから!」


 ソフィーネの言動は余計な物ばかりだった。

 幼気だからだろうか。キフェよりもひと回りふた回り、ぐらぐらとしている。

 元はリネンの方が作りが良く、人らしいというのに、感じるのはちぐはぐさではなくうっとおしさだ。人に対して感じるものと、そう変わりない。

 不気味の谷の縁で、ソフィーネは軽やかに踊っている。


 心無しかリネンが苛立っているように見えるけれど、それはおそらくオギの気の所為だ。基本となったリネンの仏頂面がそう錯覚させてしまう。


「返事は『もちろん』。お友達はお友達になるだけでいいの。それでおしまい、完璧よ。これでいいのよね? よろしくね!」


 リネンが曖昧に頷いて、オギの方を顧みた。


「オギ、これはちゃんと会話として成り立っていますよね?」

「うん。多分この子……子? いや、今はいいか。ソフィーネは多分、キフェと同じタイプだ」

「つまり、要点以外は聞き流していいですね」


 もしかするとリネンは本当に困っていたのかもしれない。

 二人のひそひそ話に、ソフィーネは首を傾げていた。

 オギがぼやく。


「ああ、もう何かどうでも良くなってきた」


 とりあえず、悪戯じゃなかったと分かっただけましだと自分に言い聞かせた。

 理解は追いついたけれど肝心の納得感が置いてけぼりなので、もはや積極的に置いていくことにする。


「本題に入ろう……いや、入りましょうか」


 オギの見ている景色を、非日常から日常に戻すのだ。



 解いて欲しい魔法があるのだと、彼女は言う。


「おとうさまには絶対絶対知られたくないの」


 秘密にしなければならないのだと、彼女は言う。


「午後三時半から、決まっておとうさまは庭の手入れをするの。だから、そのときにね?」


 依然として内容は伏せられたままだが、相場が分からないと言いつつ提示された上限金額は十分過ぎた。


「分かりました。けど今、一つだけ聞きたいことが」

「なぁに」

「あなたは何者ですか」

「ソフィ、って呼んでくれないの? 呼んで」


 面倒くさい。

 そういう思いはなんとか表情には出ずに済んでいた。


「あと、よそよそしいお喋りも禁止なんだから!これがオギの、『おしごと』よ!」


 面倒くさい……。

 どうやら今度は顔に出た。


「ソフィ」

「えへへ、うれしい! オギって優しいのね」

「ああ、うんありがとう……。質問に答えては貰えないのか……」


 あくまで場はソフィーネのものだった。

 気心知れているから多少の理不尽には耐えられるのであって、初っ端から振り回される趣味はない。が、話が通じるだけ、オカルトに理解がありそうなだけ、圧倒的にましなケースだ。

 この人形は妙に毒気を抜いてしまう。仕方ない、そんな笑みをオギは浮かべた。


 しかし唐突にソフィーネから笑顔が消える。


「ソフィはソフィで、紛れも無くおとうさまの娘で、それ以上でもそれ以下でもない。それだけ、よ?」


 それは答えのようで答えでなく。

 童女の人形は、やはりオギに応えやしなかった。


 ◇



「そろそろ行かないと、おとうさまが寂しがるから」


 カーテンを閉め直して、ソフィーネはまた暗い廊下の方へと向かおうとする。


「僕も一緒にいいかな」

「ええ、もちろん」


 振り返らずにソフィーネは扉の外へと出て行く。

 オギが突っ立ったままのリネンに呼びかけた。


「すみません、考え事をしていました」

「そっか」


 ドアノブに手を掛け直す。

 ぽそりとリネンが言った。


「ソフィーネのことを知りたいです」

「僕も同じことを考えていた」



 ソフィーネが"おとうさま"と呼ぶその人は、コルチ=ディグで間違っていなかった。 

 先を行くソフィーネに気取られないよう少し距離をとって、リネンに耳打ちする。


「あのさ、キフェに教わったように振る舞ってくれないかな。特に、あのお爺さんの前では」

「よろしいのですか?」

「うん。頼む」

「了承しました」


 リネンは頬を両手で押し上げては下げた。ぎゅっと目を閉じて、次に開く。先程よりも目はぱっちりと開いていた。

 小さな咳払いを一つ。

 場は明るくなかったけど、何をしているのかはオギにも見えていた。

 ふ、とリネンが頬を緩め、目を細める。

 オギはまじまじと見てしまった。


「これで、よろしいでしょうか……?」

「え、ああ、うん」


 いつもよりちょっとだけ高く、柔らかい声。

 リネンの笑顔は久々に見た。以前よりもうまくなっている。

 なんだかなぁ、と思う。複雑な心境だった。



 明かりが乏しいのは廊下だけではなかった。外からでも分かっていたように、大抵の窓は雨戸まで締められているか打ち付けられているか、もしくは分厚いカーテンで光を遮られているかだ。

 コルチのいた部屋も例外ではなかった。灯りは暖炉の火のみ。

 彼の自室ではなく、広間なのだろう。

 絨毯、長机、ソファ。

 分厚いカーテンの下から、光が漏れて絨毯の模様を露にする。

 火が温かみを醸し出しているからか、部屋に陰鬱な雰囲気は漂っていない。

 だが、静かだった。薪の爆ぜる音が良く聞こえる。


 ソフィーネが無言でコルチの元へ駆け寄り、ちょこんと隣に腰掛ける。窓側だ。

 コルチはソフィーネの方を見ず、扉の方、オギとリネンを見た。


「ノックぐらいしたらどうだ」

「え、……と。したはずですが」


 ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「聞こえないノックにノックとしての価値があると思うのか?」


 彫りの深い顔に皺は強く刻まれたまま。

 初対面の時に向けた鋭利な空気は、湿度を上げてそこにあった。


「おとうさま、ノックをしたのはソフィよ。ごめんなさい、音が小さすぎたかしら?」

「おお、すまない。お前の手は小さいからな。大きな音なんか出せば、痛めてしまうだろう」


 怖いほどに、温和だった。正確な表情は読み取れずとも、声の調子と物腰で分かる。

 まるでソフィーネの言葉一つで、敵意も警戒心も消えてしまったかのようだ。

 まさかとは思いたくないが。


「これでも客人に茶を出すぐらいの甲斐性はあるんでね。座って待っていろ」


 針金らしさは相変わらず、ちくちくと刺すような機嫌のままコルチは台所へと向かってしまった。

 オギは横目に骨張った後ろ姿を見送りながら、そっと腰を下ろす。身体が沈み込んだが、埃っぽい臭いはしなかった。

 長机を挟んで、ソフィは身を乗り出した。


「ほら、おとうさまは怖くないでしょ?」

「ごめん、何を言っているのかよくわからない」

「でも、私たちのことを怪しまないんですね」


 予想外に飛び出した隣からの言葉に、オギはぎょっとした。リネンの纏う雰囲気が異質だった。すぐに先程自分がリネンに出した指示を思い出して、ばつの悪い顔になる。


「ソフィは信頼されてるの」


 得意げに、童女は笑った。


 コルチの背筋はしゃんとしていて、足取りも危なげない。

 盆に乗ったカップの数は四つ。飾り気の無いシンプルな陶器のものだ。

 オギは茶葉について詳しいわけではないので、分かるのは普段買っているものとは違う味がするということだけだ。美味しい、とコメントをすれば「それは皮肉か」なんて返ってきかねない。いただきます、と言った後は無言だった。

 リネンがそろりとカップを口元に運ぶ。当然ただの振りだ。

 ソフィーネも手慣れたように飲む。おそらく彼女のも演技だ。

 オギは固くなったまま、コルチの様子を窺い続ける。

 彼はオギの視線に気付いて、眉間に皺を寄せたまま、口を開いた。


「娘が友人なんて連れてくる日が来るとはな」


 ならば尚更に、どこで知り合ったか、友人になった経緯だとか知りたいものだろうにコルチは詮索しない。


「僕は、リネン(いもうと)の付き添いで……」


 嘘は残念ながら続行である。


「え、オギったらソフィのお友達じゃなかったの!?」

「あ、ごめん、その」


 ちらりとコルチを見やる。


「ふん。娘の交友関係に横槍を入れるほど、偏屈なじじいでもない」


 十分に十分ではないか。

 どうやら追求する気は本当に無いらしい。

 ソフィーネに全幅の信頼を置いて居ると言ってしまえばそれまでだが。

 それはあまりにも、


「娘は昔から、身体が弱く人見知りでな。あまり外にも出してやれなかった」


 ──薄気味の悪いままごとだった。


「宜しく頼む」


 呟くようなその一言は、異彩を放っていた。

 オギとリネンはぼろを出さないように最低限の言葉で受け答えをする。

 予感は的中した。

 ふわふわとした甘い笑みをたたえたままのソフィーネから目を逸らす。

 気が重かった。


 コルチ=ディグはこの人形のことを娘だと疑っておらず、ソフィーネ=ディグを名乗る人形もまた、自らを"娘"であると信じきっているのだ。


 精神がいかれているのか、或いは脳が年波に負けたのか。彼は耄碌していた。

 オギは全身から空気を抜くように、ぐったりと息を吐く。

 テーブルに置かれたソフィーネのカップが、寂しげだった。


 コルチが立ち上がり、カーテンを半分ほど開けて陽を確かめる。部屋に時計は無かった。


「ソフィ、昼食は何がいいと思うかね」

「なんでも好きよ。 あ、でも柔らかいものがソフィは特別好き!」


 ソフィーネがくるりと振り返り、ごっこ遊びに徹する。

 光で再び、彼女の姿が露になる。

 キフェが少女趣味だと断じそうな赤い服。ヘッドドレスにも、レースとフリルがあしらわれている。

 ソフィーネの雰囲気と服の愛らしいデザインにそぐわない、重厚なワインレッドだった。


「では、そうしよう」


 コルチはカーテンを閉めた。



 それまで二人と遊んでくるわね、とソフィーネがコルチに伝える。

 コルチの返事と同時に、ソフィーネがオギの手を引く。彼女の小さい手はリネンとは違う。硬いのだ。爪の質感と肌の質感に区別が無い。

 固く結われた金色の、細く長い三つ編みが楽しげに揺れた。


「ねえ、オギ。これから毎日ソフィの家に通うのって面倒でしょ?」

「ああ確かにそうだね」


 此処にくるまでに大分歩いた覚えがある。

 というより、毎日通わなければならない案件ということか。どちらにしろ首尾は店に連絡するつもりでいたが、自分で大丈夫なのかと不安になる。


「泊まっていかない? ね、絶対楽しいと思うの。ね、リネン」

「私も、ちょっと興味がありますね」


 リネンは愛想よく言う。嘘ではないのだろう。『ちょっと』の幅は広い。


「えへへ、決まりね」

「いやいや、勝手に決めないでってば」


 オギが慌てて制止した。


「そんなに時間が掛かる仕事なのか? というか勿体ぶらずに早く教えてくれればいいのに」

「だーめー」


 オギの本心としては、あまりソフィーネにもコルチにも深く関わりたくはない。


「まだ時間が掛かるの。居てくれないと、ソフィが困るの。オギが困るならお金、増やすわ。 ね?」


 ソフィーネが神妙に言ったから、オギは平静を取り戻した。

 自分が何をしにきたのかを思い出した。

 たとえ童女であろうと、人ですら無かろうと、ソフィーネは依頼人なのである。


「料金の話は後ほど。適正価格以上は頂きません。必要だというのなら労力は惜しみません」


 オギの口調がとっさに変わる。

 あんな有様を知られたら、ベネットやマトに怒られてしまうな、と苦笑。

 ソフィーネはぱちぱちと目をしばたいて、不機嫌そうに言った。


「だから、そういうよそよそしい話し方は、いやだってば!」


 なかなかに注文の多い人形である。


「……私は、いいのですか?」

「だってリネンはお人形さんだもの」

「あなたに言われるのは納得がいきませんね」

「だって事実でしょ?」


 訝しげにリネンを見つめて、ソフィーネが首を傾げていた。


「まあ、ソフィもお人形なのは一緒なんだけど」


 オギが一瞬固まった。

 ソフィーネは自身のことを"人形"と認識できている?

 問い直すべきか迷っているうちに、ソフィーネが動き出してしまった。


「ソフィの部屋はここだから。 中でちょっと待ってて!」

「あれ、ソフィはどこに行くの?」

「お手洗い!」


 ソフィーネが駆け出していく。角を曲がって見えなくなってしまった。

 リネンと顔を見合わせた。


「……待とうか」

「はい」



 部屋の電球のスイッチはすぐに見つかった。

 ソフィーネの部屋は整頓されているが少し埃っぽかった。

 調度品はシンプルで落ち着きのあるものが多い。大抵が木製だ。

 ソフィーネの部屋には、しっかりと時計があった。小さめの置き時計だ。塗装はところどころ剥げているものの、可愛らしいデザインであった。

 リネンは一つだけある椅子に、腰掛けた。

 一応は女の子の部屋である。ソフィーネの分類が難しいところだが、少しばかり居心地が悪いことには変わりない。

 ベットに座るのは気が引けて、オギは広くない部屋の中をうろうろと歩く。


 人の部屋を漁る気などさらさらないのだが、ふと本棚が目についた。

 絵本から童話や図鑑、教科書まで。

 誰かのお下がりだろうか、古びているものもちらほらあった。

 一段丸々、本の作者名はコルチ=ディグだ。

 流石に許可無く触るのはどうかと思ったから、タイトルを目でなぞっていく。

 一冊、片隅にタイトルのかき消えた古い本があった。やけに分厚い。

 出来心だ。先程触るまいと思ったことも忘れ、そっと引き抜いた。


「あ、オカルト書だ……」


 すぐに戻した。


 昼食は行き掛けに買っていた。

 コルチはオギ等の分も用意しようと申し出たが──勿論、ふんだんに嫌みを添えて──、リネンのこともあるので断らせてもらった。

 済し崩しに翌日から泊まることになったのでここら辺もどうするか問題である。ソフィがコルチの許可をもぎ取ってきてしまった。オギ達のことを快く思っていないだろうに、ソフィの頼みだから断らなかったのだろうか。甘いにも程があるだろう。

 そんなことを考えながら、ぼんやりと突っ立ったまま待つのもすぐに限界が来た。


「ソフィ、遅くないか?」

「遅いですね」


 時計を見る。先程と時間が変わっていない。


「止まってるじゃないか……」

「腕時計を見ればよろしいのでは」

「入ってきたときが何分だったか分からなくなった」


 まあしかし、遅い。


「そもそもお手洗いってなんだよ」

「単なる方便では?」

「いや、まあそうなんだろうけどね」


 流石に気付かないほどオギは抜けてない。いや、訂正しよう。あまりに自然に答えられたため、一瞬聞き流してしまった。


「嘘以外ないよなぁ……ん?」


 自分で言って違和感に気付く。


『秘密はたくさんあっても楽しいけれど、嘘は本物に変えなくちゃ』


 ソフィーネの言葉が脳裏をよぎる。


「あのさ、リネン」

「はい」

「ソフィって、こんなところで嘘をつくかな。いやまだ何も知らないし人形が何考えているとかしらないけど。僕らにめちゃくちゃ嘘を吐かせてるけど。でも、『秘密』って言うだけで済んでたんじゃ」

「確かに、そうですね」


 ぼんやりと天井を見つめた。染みを確認したが、数えることはしない。


「オギ、お手洗いってどんなときに使うか確かめてもいいですか」


 唐突にリネンが声を上げる。


「え、だから用を足しに?」

「それ以外です」

「それ以外って……」

「嘔吐」


 たった三音が重かった。


「私はあまり良く知りませんが、使いますよね」

「使うね」

「ソフィは私より、カップを深く長く傾けていたように思います」

「……まさか」


 リネンが頷いた。


人形(わたしたち)は飲食は不可能です。ソフィが紅茶を飲んでいたとしたら」


 その時部屋は薄暗く、オギはコルチに気をとられていた。


「そんなことは無い筈なのですが、可能性として」


 リネンが目を伏せる。


「すみません。姉様が居ないのをいいことに、暫く考えることを怠けていました」

「いや、僕だって全然思い当たらなかった」


 部屋を出る。


「ソフィを探そう」



 ◇



 午後6時を回る頃。電話のベルが鳴る。

 ベネットは欠伸を噛み殺して、受話器を取った。


「はい、こちらミア……」

『こちらオギです。ベネット?』

「ああ、連絡待っていたんだ。それで」

『修復液、送ってください。出来るだけたくさん。手持ちのじゃ足りないんだ』

「え、ああ」


 急な要求に戸惑うものの、在庫はどれだけあったか思い出す。


「市販品じゃ駄目なのか?」

『量が足りない上にこのへんのは質もいまいちですね……。うちで注文しているやつが一番良い』

「そのようすだと修復液以外も一通り追加で送った方がいいみたいだな」

『お願いします。詳しいことはまだ分かってないんで後でまた追加で連絡入れます。僕の手には負えないかもしれない』


 オギの声が精細さを欠いている。

 ベネットが息を吸う。


「何があった。依頼が本物だったみたいだが……。というかソフィーネ=ディグって結局誰だったんだ? どうやら故人みたいだぞ」

『……あ、だから……か』


 ベネットが下唇に軽く歯を乗せた。

 受話器越しに、オギの吐息が掠れて聞こえる。


『ソフィーネは自動人形(オートマタ)でした。それも、壊れかけの』


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