オーカ帝国にて、プロローグ2
実は主人公は…
私はいま何をしているのだろう?
この影の濃すぎるメンツを見ながら私は密かにため息を吐いた。
その可愛い容姿で子供から老人まで魅了するアイ・スズキ、父親はこの国の宰相であるテツヤ・アイドウ、齢四つのときから物理学の神童を欲しいままにしているケイ・シンカイ、国内有数の企業の御曹司ルイ・ジンドウ、情報関係のエキスパートである私の友人ケイコ・トウノ、そして抜群の統率力とその容姿から学院内外から慕われるカイト・ツバキ。
なんでこんなところに私はいるんだろう?
しかも揃いも揃って見目麗しいときているから、私の精神のダメージは半端ない。彼らの周りにだけ花が舞っている、彼らの周りにだけ花が舞っている、彼らの周りに……
「うむ」
「なによアキ?」
すくりと突然立ち上がった私を不審に思ったのだろう、ケイコが聞いてきた。
「やっぱり一度学年主任のところへいっぐぇッ」
「あーごめん手が滑ったー」
思いっきりお腹を殴られた。
見えついた嘘まで付きやがって。もはや隠す気もないらしい。小癪な奴め。
「あのね、一応あんたも有名人なんだけど」
自分もその有名人の一人だと思ってるあたり、ケイコの性根は腐ってる気がする。
まぁ、事実だが。
「……授業中に平気で寝ることで、だろ」
「ご名答」
馬鹿にしやがって。
そんなとき、一人の教師が入ってきた。職員室で何度か見たことのある顔だ。確か名前は……忘れた。
「アキ・ユキムラ、何をしているのです?」
涙目でお腹を抱えている私を見て不審に思ったのか、聞いてきた。
「いえ、なんでもありません。ただ机の角にぶつけただけです」
私はいい子なのだ。決してケイコのせいになんかしない。だから思いっきり憐れみの目で見られても、平気だ。平気なのだ。
「そう、では話を始めます」
教師は私を無視する気らしい。自分で言ったといえ、可哀想だな、私。
「私の名前はユキ・イシカワ、通常は七期生をみています。これから試験が終了するまであなた方のサポートをします」
さすが帝国学院、いたりつくせりだ。
「サポート役はなんでもできるわけではありません。試験に及ぼす影響を吟味した上でできるかできないかを決定します」
つまり過剰なことは最初から言うなと?
「私について質問がある人は?」
このとき、スリーサイズはなんですか、と聞くヤツはいない。低学年のときは無謀にも担任に聞いたヤツがいて、そいつは一年間成績がさんざんだった。
それ以来、それを聞くのはタブーとされている。皆、我が身は可愛い。
私も我が身は可愛い。
「では、次にミッションの内容について説明します。内容は簡単、ちょっと敵国に行ってらっしゃい」
「「「「「は?」」」」」
ルイ・ジンドウとカイト・ツバキ以外のメンバーの声が揃う。カイト・ツバキは相変わらずしかめっ面をしていた。ルイ・ジンドウも相変わらずのアルカイックスマイルだったが、その目が悪戯めいた光をたたえていた。
なんとなく、ルイ・ジンドウには注意しよう。胡散臭い。
「隣国の灮と国交を回復したのはまだ三年前のことです。そこで今回、両国の関係の修復も兼ねて交換留学が決定しました。というのは建前で実質相手の腹の中を探るのが目的です。まぁ、お互いにそうしようと考えているあたり、灮と盃を交わすのは不可能だと私は考えていますし、国もそうでしょう」
なんかレベルが一気に国レベルになったぞ。そんなのに一介の学生である我々一般人を巻き込んでもいいのだろうか。
あ、この学院にいる時点で一般人とは程遠いか。
考えるだけ馬鹿だった。
「交換留学の期間は再来月から一年間。その間に灮の懐に入り込み、内情を探ってくるのが今回のミッションです。できれば我が国が灮を相手に戦争を起こしても勝ち目があるか、客観的な事実がほしいです。これはケイ・シンカイ、とくにみてくるように。あなた方は我が国の代表です。その力を存分に発揮して灮を戦意喪失してきてください」
アイ・スズキはその頬を薔薇色に染め、テツヤ・アイドウは神妙な顔をしているが喜びを隠しきれておらず、ケイ・シンカイは黒縁の眼鏡をずり上げ、ルイ・ジンドウは最後までアルカイックスマイルでおり、カイト・ツバキは同じく最後までしかめっ面でいた。
そして我が友人はというと、まるで楽しい遊びを見つけた子供のように全身で喜びを表していた。
ああ、現金なヤツめ。
「では、何か質問のある人はいませんか?」
ミズ・イシカワが全員を見回す。
「はい」
私は手を挙げた。質問? あるとも。
「アキ・ユキムラ、何です?」
「何故私も行くのですか。他のメンバーは納得します。ですが私はこれといって取り柄もありません。そんな私が行く必要があるとはとても考えられません」
ケイコの呆れたような視線が突き刺さるが知らんぷりする。
私は行きたくないんだ。
私の平穏のために戦うののなにが悪い。
「取り柄ならあるでしょう」
ミズ・イシカワは心底不思議そうに言った。
「あなたは時渡り人でしょう?」
空気が、割れた。