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1話 プールの彼

 痛いくらいの太陽の光と、耳障りな蝉の大合唱に辟易する。夏は嫌いだ。特に、真夏の体育が嫌い。

 夏、体育、とくれば、プールである。私はプールに入れない。泳げない、ではなく、入れない、のだ。

 昔、海で水難事故に遭った事が原因で、それ以来、私は水に入る事が怖くなってしまった。バスタブくらいなら平気だが、少し大きめの温泉浴場だとか、浅いプールですら入れない。足が竦んで動けなくなってしまう。

 体育の先生達はそれを知っているので、病欠扱いにしてくれるけれど、クラスメイトは知らないから、説明しなきゃいけない。これが、実に面倒臭い。最終的に、同情の目を向けられるのにも慣れてしまった。気にしたら負けだ。

 そして、今日の体育も水泳。私は紫外線たっぷりの陽射しを避け、いつも通りに日陰で見学中。

 今日は男女ともに、タイムを計測するらしい。普通は見学の人間が先生の手伝いをするのだが、私は免除されている。プールの近くを歩いて、もしも落ちてしまったら、という先生の配慮らしい。余計なお世話と言いたいところだが、万が一の確率もあるのでラッキーだと思う事にしている。

 しかし、ラッキーではあるが、ヒマだ。私が出来る事なんて、泳ぐクラスメイト達をぼぉーっと眺めるくらいしかない。


「おーい、真白ましろー」


 こちらに気づいたクラスメイトが、手を振ってきたので、私も振り返す。

 ふいに、女子の黄色い悲鳴が上がった。

 何気なく、そちら側に目線を向けると、背の高い男子が泳ぎ始めるところだった。

 成る程、彼が泳ぐから、女子が騒いでいる訳か。

 ホイッスルの音が鳴る。

 次の瞬間、泳ぐ彼の動きに目を奪われた。さっきまで聞こえていた音が、急に静かになった気がした。

 綺麗。まるで――


「あら、そんなに見つめちゃって。王子が気になるの? 真白ったら、案外面食いだったのね」

「……早苗さなえ。別に、そんなんじゃないよ」


 思いの外、長い間眺めていたようだ。いつの間にか横にいた早苗が、私を茶化す。彼女の目は、面白い物を見つけたように輝いている。

 早苗とは、そこそこ長い付き合いだが、こういう顔の時は決まって、私にとって、都合の良くない展開になる。


水城みずき あおい、水泳部のエース。引き締まった長身の体と整った顔立ち、性格は無口だけど、そこがクールで格好いいと評判。その見た目と実力から、王子と呼ばれている我が校の有名人ね」

「いくら噂に疎い私だって、それくらいは知ってるって。クラスメイトだし……」


 まぁ、クラスメイトじゃなかったら、知らなかったかもしれないけどね。


「私、真白の事応援するわよ。知りたい事があったら、なんでも言いなさいね。新聞部の威信にかけて、徹底的に調べ上げるから」

「だから、違うってば」


 早苗は、まるで話を聞いてくれない。基本的には、人の気持ちに聡い子だし、本気で嫌がる事はしないけれど、悪ノリが過ぎるところがある。


「よかったら、今ある情報だけでも教えましょうか? 身長、体重から住所くらいまでなら知ってるわよ?」

「……早苗、そろそろ怒るよ?」

「あら、ごめんなさい」


 早苗は悪びれもなく謝った。反省の色は全く見えない。


「でも、珍しいじゃない? いつもは、恋愛に興味ないですって顔してる真白が、王子の事気にするなんて」

「興味ない訳じゃないよ。面倒臭さそう、とは思うけど。それに、水城くんを見てたのは、……」

「見てたのは?」

「やっぱり、早苗には言わない」

「なんでよ? まだ怒ってるの?」

「怒ってないよ。でも、言わない」


 だって、絶対早苗は笑うもの。

 水城くんが、まるで人魚みたいに見えた、だなんて、……言えないよ。


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