エントリーNo8、一度でいいからザマスって言ってみたかったチマツリさん
大きな扉。パイプ椅子が二つ(一つは破損)。天井も無いのに上から変な紐が下がっていてビールサーバーの乗った白いテーブルの上には『週刊ねじり鉢巻き』の魚河岸特集号やダーツやダンボール等が広げてある。
そんな真っ白な空間。
「次の神どーぞー」
「はーい」
珍しく普通に返事して入ってきた男性は、黒いマントを羽織っていた。
「チマツリといいます。吸血鬼ってどう思う?」
「どうって言われても」
中二の友。能力も多く弱点も多い、敵にしても味方にしても面白い、手垢のついた最強種族。もちろん大好きです。
「君のゾンビについての見解は聞かせてもらった。ファンタジーで出てきてもただのモンスターになってしまう、と。人型の生き物を刺したり車で轢いたりする所に意味がある。そうだね?」
「そう聞くと外道のようですが、そうですね。人型モンスターは現代に出てきた方が面白いと思いますよ」
「ならばこの勝負、私の勝ちだ。私のアピールする世界は『現代』ほぼそのまま。ただし魔女狩りが無く、中世の魔女やゴシックな化け物が現代までひっそりと生き続けている」
ヤバい、惹かれる。
「ランダムに決定する部分は、あそこに置いてあるダーツのでかい的を使わせて貰おう。吸血鬼の特殊能力や弱点をあそこに貼って行って、ナイフを投げて当たった所を採用する」
そういうと、自分の影からズルリとデカい本棚を取り出した。
古今の様々な吸血鬼関連の本やゲームが詰め込まれているようだ。
吸血鬼ドラキ○ラ、夜明けの○ンパイア、ミッドナイト〇ルー、吸血鬼ハン○ーD
ヘルシン○、吸血〇戯、ブラッド○ローン、エンジェルフォイ○ン、亜人○ゃん。見境無いな。
ゲームもキャッスル○ァニアからエターナル○ロディにと、ホント見境ないな!
プレ○テ2の蚊2まで…え、これ2でてるの?!
その頭のおかしい本棚に驚愕している俺をしり目に、チマツリさんは黙々と準備を整えていく。
「どんな能力がいいか、じっくり話し合いましょうか。候補に上がったのを回転ダーツボードに貼っていきます」
これは…なんか手ごわそう。今までにいないタイプだ。
「まず聞きたいんだけど、俺は吸血鬼になるの?それとも吸血鬼ハンター?」
「どっちがいいですか? 吸血鬼の友人とか彼女を匿う第三勢力サイドも熱いですよ」
くっそ。こっちの希望を聞いてくるとか、断る隙を与えてくれん。
「吸血鬼ハンターになるのってどう? 俺はオススメよ?」
なんだかんだで戦うのが好きそうなスーさんはハンターをお勧め。弱点の設定次第だよなぁ。勝てないと話にならないし。旦那みたいなの敵に回したくない。
「吸血鬼って弱点いろいろあるじゃん?
十字架に弱いとかきくけど、漫画なんかだとその弱点もってるやつ少ないよね」
「ふにゃこ先生のドン・○ラキュラだっけ?あれは腕を交差しただけで悲鳴上げるギャグだね。あのレベルで十字架に弱いとどうにもならないね」
とりあえずビールを注ぎながら、吸血鬼談義に花を咲かせる。三つのジョッキをドン。適当にその辺探してオツマミを盛る。
「流れる水を渡れないってのはなんなの? チマツリさん詳しそうだから教えて」
「不浄な存在だから清浄な水に触れられないってことじゃない?
流れてるってことは澱んでない水って事だし。根拠のない私見だけど、国境とかの領土の境目って見方もあるかもしれない。ヴラド公もエカテリーナさんも貴族ですし」
「おー、その土地で強い力を持っている、と」
そんな話をなぜか書記と化したスーさんが紙に書き出していく。
・吸血鬼側か、ハンターか。第三勢力か。
・貴族か下賤なとか言われちゃう側か。
・ギャグがシリアスか
・弱点の強度(銀。陽光。流れる水)
「あとさ、心臓に杭ってやばくないですか。それ吸血鬼じゃなくてもなんでも死ぬって」
「そこまでしないと死なないってのが、弱点って言われるようになったのかな。魔女狩りの浮いてきたら魔女で沈んだら人間みたいのに近い無茶を感じますね」
「俺もいい?少し前の漫画に稀に良くあった心臓の位置が逆って設定、あれ吸血鬼と相性良くない?」
「ないです」
選ぶべき設定は書記のスーさんが書いててくれるので、俺はビールのお代わりを注ぐ。チマツリさんの影から勝手に丸鳥とトマトとニンニクを取り出して調理開始。ささっと煮てコンソメ放り込む。
「いや、隠れ潜むタイプもかっこいいけどさ、吸血鬼は醜いのはいかんよ」
「それは選んでもらうかランダムでいいと思うんですよ、いろんな氏族がいるわけで」
「その設定使うと能力がばらつくって」
もう何の話してるのかわからない二人の前に料理の小ドンブリを置いた。
ビールのお代わりをしつつ、数分後。
ニンニク食っちゃって悶絶してのたうち回るチマツリさんの姿が。
「ニンニクに弱いってのはなんかギャグ度高いね」
「これ、もう却下しちゃっていいですか? 設定いろいろ楽しかったけど、たぶん九時の次は何時?って聞いたら死ぬタイプですよ」
その通りだったので灰は箒で集めて川に流してもらった。却下だ却下!