エントリーNo6、ゾンビネタでなんかやりたいジョージ氏
大きな扉。パイプ椅子が二つ(一つは破損)。天井も無いのに上から変な紐が下がっていて週刊ねじり鉢巻きの魚河岸特集号やダーツやダンボール等が白いテーブルの上に広げてある。
そんな真っ白な空間。
「次の神、どうぞ!」
入ってきたのは髭のおっさんだった。
「どうも。吊天井・ジョージといいます。率直に言いますが、ゾンビいかがですか! 死んだ人間が生き返るという不条理! 終わりの中からはじまってしまうという逆転の中で、人間が人型をしてはいるが決して会話も成立しないし和解もできないたモノにおそわれるという恐怖が描けます! 見た目もグロいし部位欠損とか頭吹き飛ばしてもまだ動いてるとかやりたい放題できる世界ですよ!」
こいつも直球だ。だいぶウザい。
「流行ってますよねゾンビ。でもパニックムービー的な世界とかろくな死に方しないの確定じゃないですか。スーさん楽しませるために生きたまま食われるとか、右半分だけゾンビになって左半分は生身にのままだったりとか、ゾンビと一緒に軍隊に火炎放射機でまとめて汚物は消毒されるとか、そんな死に方するのがわかるからヤダね。安全な世界がいい」
一息に言いきって却下と言いきろうとする俺とジョージ氏は必死で止めようとする。しつこいな、ゾンビか。
「待ってくたさい! そこでチートてすよ! アンデッドに強い属性とかもっていれば、ゾンビだらけのベリーハードなショッピングモールも瞬く間にイージーモード。無双できますよ無双!」
無双。それにはちょっと憧れる。ヤバい。脈ありとみたのかジョージ氏が畳みかけてくる。
「レア属性持ちのSランク魔力でガーッと世界の一つも征服しちゃいましょうよ!」
そう言ってさしだしたのは『闇属性のススメ 週刊ネクロマンサー』とかかれた冊子。
ゾンビ倒す方じゃないのかよ。なんだよ鳥葬からの欠損ゾンビ特集ってニッチにもほどがある。特集するなら『火葬する宗教は早めに滅しちゃえ☆』とかもっと有効な特集くめよゾンビ作成的に。
「編集神にそのアイデアつたえとくよ」
後ろの一度ジャージ着たはずなのにいつの間にかまた全裸になってた金髪が堂々とパクる宣言。出版してるのおまえらか!だめだろ神なのにゾンビとか作っちゃ!
「いや、邪神とかも俺らの自給自足なんで」
まぁ、神様っていう言葉から想像するイメージとはかけ離れてるってのはわかってたよ!
「あのー、作るの楽しいですよ。格闘技系の技術持たせて少林ゾンビとかしてもいいし、いっぱい作り過ぎたらゾンビサッカーとかできますし。
ゾンビサッカー・・・だと?
※お試し、開始※
グラウンドにホイッスルの音が響き渡る。地平線の向こうの敵陣ゴールまで、外見で見分けがつかない位に腐りきったゾンビが、ずるりびしゃりとボールをゆっくりドリブルしていく。「う゛ーー」とか「あー」しか話さないチームメイト。瞳の無い空洞な眼窩でそれを見つめる観客達。
ペナルティーエリアのラインギリギリで大きく体を前傾させてシュートの体制に入るエースゾンビ。片足に全体重が掛かった事で重さに耐えきれなくなったのか、骨が崩落して崩れ落ちるエース。そのままう゛ぁ~と叫んでボールに齧りつく。破裂するボール。
敵陣ゴール前に置かれているのは上半身だけのゾンビ、一歩も動けない。
「やめましょう! ゾンビにサッカーやらせるのはやめましょう!」
「トール君、なんで君は監督ポジションなの? 選手やろうよ」
自陣のゴールキーパーをやっていたスーさんがクレームをいれてくる。全裸でグラウンドにいるのってサッカーの規定とかで罰則ないんだろうか。
「まだだ! 他にもゾンビ野球とかもいいんじゃないか? ゴブリンだってできるんだからゾンビもイケるはず」
「いや、だめだわ。そもそも異世界でゾンビ物ってあわないよ。ゾンビはやっぱり現代じゃないと」
わざわざサッカー場と22人の選手ゾンビと大量の観客ゾンビを作ってお試しさせてくれたジョージ氏には悪いけど、全否定させて貰おう。スーさんがキーパーやるって駄々こねたのでゾンビのうちの一体はマネージャーやってる。高校サッカーの設定らしい。
「え、ゾンビなんてモンスターとしてメジャーだと思うけど?」
「いえ、異世界でゾンビだとモンスター扱いになっちゃうんです。現代だからこそ『死んだ人が起き上がって襲いかかってくる』っていうありえない状況がホラーになるのに、異世界だとそれがありえないっていう前提があるとは限らないので、良さが消えちゃうんと思うんですよ。
ゾンビものってのは宇宙人襲来とか怪獣襲来とかの、人型バージョンだと思うんですよ。宇宙人とか巨大怪獣だと逃げ惑うだけだろうけど、人間の形したモノだったらアクセル踏んで車で牽いたりできるじゃないですか。戦争って言う状況以外で、人型したモノを轢いたり滅多打ちにしたいっていうニーズに答えるのがゾンビだと思うんだ。だから異世界でやっちゃダメ」
ゾンビは現代を舞台にするに限ると思った俺は長広舌をぶち上げる。
「すっげークズな考察ですね。俺が君で遊びたい理由とほぼ同じだよそれ。で、それで?」
「よって、ジョージ氏の提案する『異世界でゾンビ作っていろいろやろう』はダメ!」
そこまで聞いて震えだすジョージ氏。なに震えてんの? 会いたいの?
「ふざけんな! 大前提として『世界を作ってトール君に提案する』なんだから、例え現代風世界を作っても全部異世界だろ! ゾンビに襲われる側だと嫌だろうから作る側って事でネクロマンサー勧めたのに」
「却下!却下! まともなネクロマンサ―はゾンビ集めて健全なスポーツとかしないんだってば!」
裁定者の権能を振い、提案した世界もろとも却下されたジョージ氏が砕け散る。
「サッカーはともかくゾンビでなんかやらせるっていう目のつけどころだけは面白かった気がするね?」
全裸のままで高らかに脚を組んでパイプ椅子に座るスーさん。確かに。ちょっとグッと来た。ゾンビでシンクロナイズドスイミングとか、カーリングとかだったら危なかったかも。
いや、絶対転生しないけどね?
知人と、最近ゾンビ物はやってるけど、ゾンビ物の面白さってのはどういう要素なんだろねって話してたらドンドン脱線した。それだけの話でした。