エントリーNo5 ロボットで戦争を提案するキリ子さん
白いテーブル。大きな扉。パイプ椅子が二つ(一つは破損)。天井も無いのに上から変な紐が下がっていて週刊ねじり鉢巻きの魚河岸特集号が置いてある、そんな白い空間に鋭角なフォルムを持つ存在が現れた。
「次の神、どうぞ!」
俺がそう叫ぶと、大きな扉の向こうから変な音が聞こえてきた。
ズシン。ギュッギュイーン。デッデーデーデーデレッ。
口で効果音とかBGMとかを口ずさみながら、いかにもちゃっちいダンボール製のロボットが登場。
「鉄の騎兵が走る、跳ぶ、吼える。そんな世界に憧れませんか?」
ダンボールのMSならまだネタになるけど、鉄の匂いが大事なATでそれは許せねぇ。
「バカにしてんだろ!」
「うん……」
しばらく無言。
「あ、いや、はい」
「口のきき方じゃねぇよ。内容だよ!バカにしてんのかって聞いてYESって言っちゃっていいのかよ!」
「まぁ、ロボット的な物はあんまり好きでも無いので。ウケるかなと思ってロボットで戦争している世界創ったけど見てるとバカバカしくって。あ、申し遅れました。私、キリ子っていいます」
名前も併せてド許せぬ。
「二足歩行する重機で戦争するのは男の浪漫じゃないですか。それをバカにするとは何事さ!」
「だってすぐ転ぶんですよ」
は?
「まず、戦争がどうしても発生するように、土地や水源やらのリソースを制限して、矛盾するお告げで王権とか乱発して群雄割拠の100年続く戦争を達成させました。
そして『鋼鉄の巨人以外では破れないバリア』を神の加護として王の居る首都限定で提供しました。で、神を模した偉大すぎる巨像を作って敵対国家の首都を踏み潰せ!と夢のお告げをあっちこっちにだして、戦闘利用限定で使える永久機関『アクティブハート』と、強化人工筋肉『メカニカル・ダンシングナイト』を供与。
これでロボットでしかトドメがさせない戦争世界になっただろうと思って放置しておいたら」
「だいたいわかった。トドメは巨人だけどそれ以外は使われてないんだろ?」
「そうです。大地のいたるところに掘られた巨大な落とし穴。歩兵がロボットを狩るとかやっちゃいけない事なのに、足元がお留守だからロープひっかけられたり攻城兵器みたいので脚壊されたりで、ぜんぜんロボットバトルになりません」
下手に神の姿を模した像とか指定しちゃったせいで、多足型とか飛行型を作る選択肢を潰してしまったらしい。そして二足歩行でバランサー無し、コンピューターも無し。実質はただの超巨大ゴーレム。そりゃ落とし穴も掘るわ。
「パイルバンカー付きの鋼鉄のガラクタをあげるから、この世界に行って国取りして来て下さい」
いやいやねーだろ……と言いたいのは山々だけど、ちょっと心惹かれた。
だってさ、この世界で多足ゴーレムとか、バリアを破れるキリギリのサイズで小さめなのを作れば無双できそうじゃないか。知識チートでも貰い物チートでも無い、『現地人が考えもしなかった』行動を取る事で可能となる『概念チート』が自然に成立する。
とはいえ、死に方も簡単に想像できる。神の姿を穢したとか言われて火あぶりとか、シンプルなのだと巨大神像にジャイアントサラバされるとか。だいたい、この世界のロボットバトルは爽快感のなさそうな物になりそうだから、見てるだけにしたいなあ。
「お試しで行ってみたら? 気に食わなきゃ却下していいから」
「え、そんなのいいんですか?」
「その方がおれも楽しいし、いいよいいよ」
お試し版って事でちょっとだけキリ子さんの世界に行ってみることにする。
ロボットをちょっとだけ操縦するだけだから!
「ではまず、操縦免許取って頂くのでこのテキストを二百ページまで覚えて下さい。標識でロボットの通行禁止とか変形制限の道路は表示してますので守って下さいね。それと、車検なんですが、ロボットは脚の消耗が激しいので月イチで義務付けています。罰則規定についてはこちらのテキストにまとめてありまして」
「めんどい。却下で」
何プルプルしてんの? 進化すんの?
「ルールはちゃんと守ってくれないと困るんですよ! 私、これでも黒い剣に切り刻まれたりする由緒正しい法の神の陣営なんですよ? 車でも船でもロボットでも、巨大な乗り物を操縦するっていうのは他者を傷つける可能性のある凶器にもなるって言う認識が甘いと……」
「『却下!』主人公がある日突然強力な機体に乗りこまずして何のロボット物か! 軍人ならまだしも転生者がチートで無双しようっていうなら『なぜか動かせる』とかにして貰わないと!」
一度の却下を喰らってもまだ消えないキリ子さんは、己の存在を掛けて俺に食ってかかる。
「トリップじゃなくて転生なんですよ?! 子供の頃からコツコツ資格取ったり勉強したりして主人公機作るとか、先祖代々伝わる隠し機体があってそれに乗る為に学園編に突入したりすればいいじゃないですか!」
「幼年編で10話も20話も使うのは趣味じゃないんだ。それにロボットバトルはみたいけど操縦法とか標識とか、そんな伏線にならなそうな設定を長々と並べるのも嫌なんだ。はやくクライマックスが見たい。よって貴方の提案する世界は『却下』だ!めんどくさすぎる」
二度目の却下という言霊を受けて、キリ子さんは存在力を粉々に散らしてダンボールだけを残して消滅する。
「楽に最強になってちやほやされたいっていう人に提案する世界じゃなかったねー。ロボットっていう着眼点は良かったけど、管理神が浪漫も需要も良くわかって無いってのは致命的だね」
よーし、ちょっと心が揺れたけど、めんどくさがり屋な自分に救われたな。絶対転生しないぞ!
現代知識チートでロボット物の面白い作品があったら教えて下さい。
出版された作品は読んでますのでそれ以外で。