エントリーNo4、ローズさんは愛ある世界で暮らして欲しい
「次の神、どうぞ!」
「失礼します」
俺の声に答えて入って来たのは、髪の毛を後ろで一本に纏めた、スーツに眼鏡の大人しそうなお姉さんだった。胸はでかい。
就職活動みたいだな。いや、ある意味そうなのか。
「エントリーNo4のローズです。神としてはまだ新米ですがよろしくお願いします」
「当社を希望した理由を教えて下さい」
「え?」
雰囲気にのまれて思わず言って見たけど、なんか滑っちゃった感じの空気になっただけだった。
「希望した理由はお金の為です。マンション買ったローンが2万年位残ってるんです」
答えるのかよ!
理由が金なんて誰でも同じだけどぶっちゃけ過ぎだよ!
2万年ってどんなマンション買ったんだよ!
「でも、君も生きてた頃に面接で言った事あるよね。お金の為ですって」
後ろでスーさんが要らん事言う。思い出させないで欲しい。面接受かったけど。
「トールさんの為に創る世界ですが、テーマは『ハーレム』です」
ローズさんがマイペースに紹介を続ける。いい子だ。神っぽくないけど。こう言う子が保険の外交員とかだとエロい妄想が止まらなくなるのに。
「世界は、私も争い事とか好きではないので、愛ある世界として設定しました。魔物無し、戦争無しです。気温はやや高めの、薄着で過ごせる気候ですが、シチュエーションの要請に答える為に雪山なんかもあったりしますので、ぜひ探検とか遭難とかも楽しんで下さい」
コンビニの店員でもいいな。「研修中」とかの札を付けてるとなおテンションあがる。
「ここのルールとして、トールさんに何か選ばせる形でランダム要素を持たせないといけないので、チート能力を選んで貰おうと思います。
私もトールさんには悦んで頂きたいので、変な能力を有無を言わさず渡して……とか、そういう罠は無しです。能力は全てフェロモン系で、『どういう相手に好かれやすいか』のみを変えています。このカードの中から選んで下さい」
ローズさんが俺に扇状に広げたカードを差し出してくる。カジノのディーラーみたいだな。胸のでかい新人ディーラー。んー、あんまりエロく無い。
「すいません、トールさん聞いてますか?」
こういう大人しい感じの人は、図書館の司書とかどうだろう。医者とかナースとかだと合わないな、薬剤師!うん、それはエロい。メニアック。
「聞こえてますかー!」
上から下までじーっと見ながら考える。ピザの配達とかガソリンスタンドとかにいたら少し嬉しいな。
後ろからスーさんがトントンと肩を叩き、耳元で囁く。
「本屋ってのが鉄板だと思うよ?制服エプロン付きでな?」
「さすが……わかってる」
スーさんと握手。
第一次、目の前にいる人がどんな職業だったらちょっと嬉しいか大会、終了。もういいから帰って貰おうかな。
「すいませーーーん、きこえてますかー!」
「うるさいな、聞こえてますよ」
「何で返事しないんですか!」
胸の前でカードを握りしめて、顔を桜色に染めたローズさんが涙目で訴えてくる。あざとい。
「だってさ、何か罠があるんでしょ?どうせ」
「ないですって!平和な世界だし、ラブ&ピースで暮らして欲しいだけですよ!」
「じゃ、そのカードの書いてある事見せてよ。どうせランダムに選ばせるなら事前に見せて貰ってもいいでしょ?」
「え、嫌です」
大体わかってるんだ。エルフと思わせてウサギとキャッキャウフフさせようとしたり、流通の便利な世界と言って置いて電車しかない世界に送り込もうとする連中だ。
ハーレムなんてロクなもんじゃないはず。アザラシとかライオンのハーレムに送り込まれるにきまってる。
スーさんの袖引っ張って、このローズさんなんか発言にアヤシイ所があったんだけど大丈夫?と聞いてみる。マトモな神なんて居ないよ? との心強いお返事。
そんな俺達のやり取りを見て、ますます頬を上気させるローズさん。思わず取り落としたカードが床に散らばる。
『筋肉質の男に好かれる能力』
『鬼畜眼鏡にやたら好かれる能力』
『ラグビーやってる人に受けが良い能力』
『ゴム長靴やねじり鉢巻きが以上に似合う能力』
「その能力は私にとってどんなメリットになりますか?」
なんなんだよ!このサウナに近寄れなくなるような特殊過ぎる能力は。
カードを踏む。踏みにじる。
「え。だってファンタジー世界が良いとか言ってましたよね?」
「俺はカートゥーンとかに行くぐらいなら、どうせなら正統派ファンタジーが良いってだけで……」
叫ぶ俺を両手でみなまで言うなと言う風に抑えて、ローズさんが異様に熱い瞳で後を続けた。
「正統派というとマッチョが剣振り回すような感じですよね?
それにロリハーレムに心ひかれないと言う事は・・・わかってますよ!」
前回、ロリエルフハーレムを提案されても載らなかった。
結論。
⇒男が良い
飛躍しすぎだろ、この神の思考回路。
大きく息を吸い込んで、力一杯に叫ぶ。
「却下である!」
ぼんっ!と音を立てて粉々になるローズさん。私物なのか、魚河岸特集とか書いてある雑誌が落ちる。新人だから神格が低かったのか、下がり過ぎて本人は消滅した模様。
なんだよ、本屋が似合いそうな大人しめ巨乳女子がBL好きとかなら許せるラインだから、そのままUターンして貰って帰らせても良かったけれど。ガチじゃねぇか。
「あの子ね、俺の事もいやらしい目で見てきてたんだよ……」
「あんた神なんだからなんとかしようよ?」
トール君を彼女が提案する世界に送り込んでも、俺見てて楽しくなかっただろうな……と呟くスーさん。やっぱり心配するのはそこだけなんだね。ぜったい転生してやらない、どんどん掛かってこい!