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エントリーNo1、カードで挑戦のクロフトルさん

「あなたの人生は終わってしまいました。リセットボタンを押しながら電源を切るか、始めからやり直して下さい」


 変な音声と拍手が、誰かがニヤニヤしているような気配と一緒に聞こえてきたので、ゆっくり目を開けてみる。


 ついさっき真っ暗になったばかりなのに、あたり一面真っ白な世界になっている。痛む足も頭も元通りだ。

 目の前には素材不明の光沢のあるミルク色をした卓球ができそうな大きなテーブル。

 その脇には、口の端を吊り上げて笑いながら手を叩いている小さな女の子が居る。


 青い髪をツインテールにして結んでおり、ダブダブのローブの様な衣装を纏っている、俺の胸くらいまでしか身長の無い、不細工な少女。

 目が細いし鼻が上向いてて鼻の穴でかいし頬骨の輪郭出てるし。ロリは可愛くなければロリじゃ無い。


「私はクロフトル。不運な死に様で死んだ皆淵徹よ、お前の転生先を」

「チェンジ!」


 即座に叫ぶ。


 不細工少女はくわっと驚いたように目を見開くと、俺を射殺すような目で睨んでそのまま姿が薄くなって消えた。


「あっはっはっはっは!」

 

 低い男性の下品な笑い声が何処からか聞こえてくるが。あれ、ホントにチェンジしてくれるのか。

 周囲を見渡しても何もないどころか地平線すら無い。空も地面も白いからじっと見てると気が狂いそうだ。

 そんな中にポツンと置いてある、無駄にでかいテーブルを覗きこんでみると、トランプ程の大きさのカードが散らばっている。

 『魔法あり』『人類勢力風前の灯』『超科学文明崩壊後』『遺跡あり』『ギルドシステム無し』『ドラゴン系モンスターあり』『触手系モンスターあり』『魔法無し』『魔王は三段階変身あり』とか、一枚に一ついろいろ書いてある。なんなんだこれ。


「それな、世界作成用のランダム設定カードな」


 とつぜん後ろからゲラゲラ笑っていたのと同じ声が響く。振り向いてみると変態が居た。

 割れた腹筋を見せびらかしたいのか、全裸。長い金髪をさっとかき上げるナルシスト気味の男性が、すげぇドヤ顔でこっち見てる。どう答えろってんだ。


「自己紹介が遅れたね、トール君。私はスーパー創造神。本当の名前は長いし人間には発音するのも難しいから、適当に呼んでくれて構わないよ」


 近寄りたくねぇ。


「まって、逃げないで。全裸が嫌ならなんか着るから!」


 そう言って指をパチンと鳴らすと緑色のジャージを着た姿に変わった。ご丁寧な事に胸には「1-F 神様」とか書いた名札が縫い付けてある。なんなんだこいつ、指鳴らすとかナルシストにも程がある。真っ二つにでもしたいのか。


「これ以上真っ二つにするつもりは無いよ。見事にバラバラになったからねぇ、君は。神域でも大ウケだった、あれは人類が発生して以来のミラクルプレイだ。惜しみない称賛を贈ろう!」

「あー……俺の頭の中とか、読んでますか?」


 指パッチンで真っ二つっていう連想に反応した所をみると、考えた事が読まれてるっぽいんで一応確認してみる。


「ああ、もちろん読めている。だがこれは私だけの特権で、他の連中はそういう事できないから安心して欲しい」


 何が安心なんだかわからんが、やけにムカつく。さっきの不細工といいコイツといい、自分らだけ楽しそうだが変な悪意を感じるんだよな。


「トール君、悪意というのとは少し違うんだ。まぁ一度きちんと説明させてくれ」


 金髪ジャージの自称スーパー創造神はそう言うと状況の説明を始めた。


 どうやら、さっきクロフトルとかいう奴が説明した通り、俺は死んでしまったようだ。それも壮絶な形で。

 その死に様はまさしく最終回の画太郎先生も驚くありさまだったそうな。

 くわしく説明して貰った所、轢かれそうな子猫を助けに車道に飛び出した俺は、携帯でお喋りしながら運転していたマダムの運転するベンツに轢かれかける。とっさに避けようとした俺は何故か全力でジャンプ。

 実はオリンピックにも出れそうな素質を秘めていた俺は、命を掛けた事による才能の開花と火事場のクソ力で3メートルほど垂直に跳んで回避した。すげぇ。

 この段階で異世界に居た神々の数人が「こやつww天稟がありおるwww」とか言って注目してきたらしい。


 で、俺の不運はそこが歩道橋の真下だった事。


 頭をぶつけた俺はそこで気を失うが、奇跡的に足から着地。足が折れる激痛で意識が一瞬戻り、そのまま転がって落下の勢いを殺したようなのだが、転がった為に反対車線に出てしまい、トラックにはねられた。

 回転しながら5メートル以上飛んで交差点に進入。赤信号を緊急走行する救急車に真横から跳ねられて3HITコンボ。

 激しい横回転が加わった俺はさらに飛んで河にダイブ。途中で橋を支えるワイヤーに当たって部位欠損。この辺で覗きこんでいた異世界の神々は「ばよえ~んwww」とか言い始める。

 河の上を移動していた屋形船にHITした上で水没。河をさかのぼって来ていたアザラシにも当たる。

 回転しながら交差点に振りまいた血飛沫はなんか卑猥な模様みたいになり、水没した遺体を引き揚げたら不法投棄された自転車が刺さっていた上、群がっていた蟹が新種だった為、これだけ派手な事故なのに話題は蟹の新種発見の方が大きかったとか。

 「まさしくww蟹に食われたwww」と行ったスーパー創造神は別の神からビール瓶で殴られたらしい。

 さらに神々を感動させたのが、ここまでしておいて死因は「心臓麻痺」

 車にひかれそうになった段階で既に心臓は止まっていたという力石もびっくりの展開。

 心臓停止後に秘めた才能を開花させて大ジャンプ&着地からの大連鎖。猫は驚くべき事に無事だった。


 このあまりにも見事な一発芸に、異世界の神々は「彼に何かしてあげたい」と思ったのだとか。

 俺のブログのWEB拍手を連打し、自宅の3年使ったパソコンのハードディスクを綺麗にフォーマットし、それでもなおこの逸材を手放したくなくて、地球の神と交渉した上で異世界にチート能力を持たせた上で転生させる事にしたのだ……と。


 ここまで全部、自称スーパー創造神の話した通り。ハードディスクの中のエロ画像を消してくれたのは感謝する。だが、異世界の神とか言ってる癖に日本の漫画文化に詳しすぎだろうコイツ。


「チート能力持たせて転生させるっていうネタも、だいたいはネットと古本屋で立ち読みして仕入れては試してる」

「買えよ!」

「ごめんね、地球での貨幣とか持ってないから」


 こいつら、絶対面白半分だ。異世界で転生させようってのも、面白い玩具を手に入れた位にしか思って無いんだ、きっと。


「うん、まさしくその通り。でも神って無責任なもんだし、君にも損はさせないよ。不老不死でも無限の知識でも最高の美貌でも。もちろん絶対不可侵の魔王を斬る力!とかでも構わない。願いはなんだってかなえちゃうよ!だから君の力で私たちをもっと楽しませて欲しい!」


 両手を広げた堂々たるポーズで最低な事を言うな、この創造神。


「どうせ不老不死になった事を後悔するような状況にしたりするんだろ?」

「うん。いや、そうなったらいいなってだけで、積極的には手は出さないよ。強力な力を与えて、その後は不干渉。君がどうなるかを眺めて楽しむだけ!っていうのがルールなんだ」


 うんって即答したぜ。


「それで、君を送り込む世界なんだが。私の管理する無数の世界の管理神達がこぞって君を欲しいと言って居てね」


 話聞いちゃいないな。


「せっかくだから、君の為に一個世界を作ろう!って事になったんだ。それで管理神たちが今までに培った知恵と英知の限りを尽くして、特徴的な世界を作り、順番に君にアピールする。

 ああ、安心してくれよ?世界を作った後、数千年は歴史を進めた上で君の移住を行う。国も文明も何も無い荒野に放りだしたりはしないよ。

 管理神一柱につきアピールできる世界は一つ。君がそこに住みたいと考えたら転生は成立。君の身柄はその管理神の元におかれるっていう寸法さ」


 楽しいだろう?と興奮からか頬を赤らめて俺に問いかける創造神。うん、お前らは楽しいだろうな。ああ、言わないでもわかってきたよ。「お前らが楽しい」のが重要なんだよな。

 うんうんと頷いている創造神を冷たく見下しながら、俺は疑問に思った点を確認する。


「さっきの最初に居た奴。断ったら消えたよな。って事は断ってもいいんだよな?」

「もちろんだとも。君を口説き落とすのもゲームの内なんだ。管理神の提案する世界も多少のランダム性を持たせて作られるのだが、そこもゲームとしての楽しさの一つだ。

 ちなみにさっきのクロフトルという神は、バケツプリンの早食いで優勝し、君へのアピール権を手に入れたんだ。

 この私が支配する最上位空間では、君には暫定的に『裁定者』という権能を与えてある。君の同意を得る事ができた神は神格が上がるが、君に否定された神は大きくその存在力を減らすのだ。

 アピール前に否定の意志を叩きつけられて失格になったクロフトルの表情は見物だったな!」


 そう嬉しげに語る創造神の顔は、美しく整ったイケメンフェイスだが、下種そのものの表情だった。


 俺はキレやすい若者と呼ばれる世代だが、特に問題を起こした事は今まで無かった。だが間違いなく今キレた。

 歩いてて植木鉢が頭に落ちてきたり、雨の後の濡れたマンホールでタイヤが滑って自転車ごと転んだり、マークシートで0点とったりした事はある。運が悪いのは自覚している。

 だがその運の悪さをここまでネタにされるとは。死に様が凄かったのは諦めよう。だが異世界に転生して神々を楽しませる為に不運っぷりを笑いものにされようってのは納得がいかない。


「おい、創造神。椅子だせ、椅子」


 俺はニヤニヤ笑いを浮かべる創造神の差し出すパイプ椅子に座り、テーブルの上で両手を組むポーズをとると、高らかに宣言した。


「次の神、どうぞ!」


 どんどん掛かってこい!片っ端から却下してやる!

ちなみにパイプ椅子の足は折れた。

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