彼はドアを開けてはくれない。
ドライブデートの直前、まさかあんな事態になるとは思ってもみませんでした。
一触即発(?)の玄関前ドラマをどうぞお楽しみください!
インターフォンのボタンを押した。
だが、中から人の気配は伝わってはこなかった。━━いや、しかし……。
彼が室内に居ない筈はなかった。だってわたし、ずっとこの玄関前に立って居たんだもの。
彼が透明人間になって私の目の前を通り過ぎていったとは思えない。しかし、実際中にいないとしたなら透明人間説を採用するしかなかった。わたしはさらに数度、ボタンを押し、それでも返事がないので少し強めにドアをトントンとノックした。
2人で海岸までドライブに行く日だった。わたしは一足早く支度を終え、━━先に表に出てるから。早くしてね。
と機嫌よく玄関から外に出て待っていたので、でも出てこないんだからわたしも何かを訝しまなければならなさそうであった。
「ねえ!中にいるんでしょ?なにこれ、どういうこと?意地悪か何か?」
わたしは次第に不安になってきた。
━━何か彼の機嫌を損なうような言葉をわたしは発しただろうか?
憶えはなかった。それでも不安になって 記憶の底をほじくり返してみた。それでも憶えはなかった。
再びボタンとノック。やはり応答はない。彼の身に何かが起きたのだろうか?本格的に不安になってきた。もしかしてわたしが浮気していると思い込んで罰を与えてるつもりだったりして。
それはあんまり、あり得ない気もする。
彼との関係は常に順風満帆。お互い結婚を考え始めた頃だったのだ。
ならば……?
不吉な予感に震えた。どうしよう?大家さんに言って鍵を開けてもらうか?それはしかし、大事になるぞ。しかもここのアパートの大屋さんなど全く知らない。
四面楚歌か?
「ねえ、本当に開けてよ!」と半泣きでドアノブに手をかけた瞬間、ガチャリとアッサリ鍵が回り、ドアが開いた。
そこに立っていたのは、海へ行く気満々の水着姿……ではなく、なんとパンイチで頭にタオルの鉢巻を締め、必死の形相でコロコロ(粘着ローラー)を振り回す彼の姿だった。
「ごめん!『先に表に出てるから』って言われた瞬間、部屋に巨大なGが出現してさ!君を巻き込むわけにはいかないと必死で戦ってたんだ!インターホン?ノック?Gの羽音にかき消されて聞こえなかったよ!」
彼が涙目で指さした床には、粘着テープでミイラ状に固められた黒い物体。
わたしが抱いていた「透明人間説」も「浮気疑惑」も「不吉な予感」もすべて吹き飛び、2人の海岸ドライブは「Gとの死闘による疲労困憊」から、近所のファミレスでの反省会へと変更になったのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
ドライブデート直前のロマンチックな空気から一転、まさかの「G」との死闘……。
必死すぎる彼の姿に、怒るに怒れず脱力してしまった「わたし」のドタバタ劇をお楽しみいただけていれば幸いです。
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また次の作品でお会いしましょう




