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追放された宮廷錬金術師、辺境で気ままに土いじりしてたら神獣や幼馴染の天才騎士が集まり最強国家に〜今さら戻れと言われても〜  作者: 黒崎隼人


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第7話「澄んだ水脈と土の恩恵」

 朝靄が薄れゆく中、ひんやりとした空気がルークの頬をかすめていく。

 呼吸をするたびに、肺の奥まで冷たく澄んだ空気が満ちていった。

 彼は足元の柔らかな黒土を踏みしめ、新しく切り開く予定の土地へと視線を向ける。

 緑の草原はすでに家の周囲を広範囲に覆っていたが、生活を豊かにするためには安定した水源の確保が必要だった。

 森の奥には湧き水があるものの、毎日そこまで汲みに行くのは手間がかかる。

 ルークは膝を折り、両手のひらを土の上に静かに置いた。

 指先の皮膚越しに、大地の冷え切った温度と、微かにざらつく砂粒の感触が伝わってくる。

 目を閉じ、意識を足元の遥か深く、暗闇に閉ざされた地層の奥底へと沈めていく。

 彼の練り上げる魔力は、力強い奔流ではなく、細く透明な糸のように静かに大地へと浸透していった。

 幾重にも重なる岩盤の隙間をすり抜け、魔力の糸はやがて冷たく澄んだ巨大な地下水脈へと到達する。

 ルークはその水脈の端を魔力で優しく包み込み、地上へと続く滑らかな道筋を頭の中で描き出した。

 地表の土が微かに波打ち、低く重い振動が足の裏から骨を伝わって響いてくる。


『少しだけ、道を引かせてもらうよ』


 ルークの魔力に応えるように、地中の岩盤が音を立てずに形を変え、水が通るための管を形成していく。

 水圧を調整し、土砂が混じらないように石のフィルターを幾重にも重ねて練り上げた。

 やがて、ルークから数歩離れた場所の土がこんもりと盛り上がり、中心から澄み切った水がこんこんと湧き出し始める。

 湧き出た水は朝の光を反射してきらきらと輝き、周囲の乾いた土を黒く染めながら小さな水溜まりを作った。

 水の流れるさわやかな音が、静寂な空気に心地よいリズムを刻み始める。

 ルークは立ち上がり、湧き水に向かって歩み寄った。

 両手で水をすくい上げると、指の隙間からこぼれ落ちる水滴が冷たい光の粒となって足元に落ちる。

 顔を近づけ、手のひらに溜まった水を一口すする。

 雪解け水のように冷たく、微かな甘みと豊かな魔力を帯びた水が、乾いた喉の奥を滑り落ちていった。

 体の隅々にまで清涼な感覚が染み渡り、疲労が水に溶けて消えていくような錯覚を覚える。


「冷たくて、すごく綺麗な水ね」


 背後から近づいてきたセリアが、湧き水を見つめて感嘆の声を漏らす。

 彼女はしゃがみ込み、水面にそっと指先を浸した。

 波紋が静かに広がり、底にある丸みを帯びた石の模様がゆらゆらと揺れる。


「これで飲み水にも、畑に撒く水にも困らないよ」


 ルークが穏やかな声で答えると、セリアは嬉しそうに頷く。

 その横で、白い毛玉のようなシロが短い足で駆け寄ってきた。

 シロは水面を不思議そうに見つめた後、小さなピンク色の舌を出してぺちゃぺちゃと音を立てて水を舐め始める。

 冷たさに驚いたのか、一度身震いをしてから、再び夢中になって水を飲み続けた。

 その愛らしい仕草に、ルークとセリアの口元から自然と笑みがこぼれる。

 ルークは視線を畑の方へと向け、そこに待機しているグランに合図を送った。

 グランはゆっくりと巨体を揺らし、湧き水のそばまで歩み寄ってくる。

 琥珀色の目を静かに光らせ、主の次の指示を待っていた。

 ルークは地面の土に触れ、魔力を流し込んで巨大な石のスコップを錬成する。

 それをグランに手渡すと、湧き水から畑を通って森の入り口まで続く長い直線を指差した。


「グラン、ここからあそこまで、水路を掘ってくれるかな」


 グランはスコップを両手で握りしめ、深く頭を下げる。

 そして、指定された場所に向かってスコップの刃を垂直に突き立てた。

 刃が土を切り裂く重たい音が響き、分厚い土の塊が次々と掘り起こされていく。

 グランの動きは機械のように正確で、掘り出された土は水路の両側に綺麗な土手となって積み上げられていった。

 ルークはその後を歩きながら、掘られた溝の底と側面に魔力を這わせ、土が崩れないように硬い石の層でコーティングしていく。

 水路が完成するにつれて、湧き水が滑らかな石の上を滑るように流れ込み、光の帯となって畑の横を真っ直ぐに伸びていった。

 水路の周囲の空気が水分を含んでひんやりと冷たくなり、土の匂いがいっそう濃く立ち昇る。

 水面に反射する光が周囲の草の葉を照らし、風が吹くたびに光の波が揺らめいた。

 セリアは水路の縁に腰を下ろし、旅の装束の裾をまくって白い素足を水の中へと浸す。

 水の冷たさに肩をすくめながらも、彼女の表情は心地よさに緩んでいた。

 ルークもその隣に座り、流れる水を見つめながら深く息を吐き出す。

 王城の暗く閉ざされた工房で、埃っぽい空気を吸いながら魔石を削っていた日々が、遠い昔の出来事のように感じられた。

 ここでは、自分の手が触れたものがそのまま生活を豊かにし、目の前の人々の笑顔に直結している。

 ルークは水路の縁の石を指先でなぞり、大地の鼓動と水の流れが一体となる静かな調べに耳を傾けた。

 太陽が高く昇り、水面を眩しく照らし出す中、彼らの新しい生活の基盤は確実に根を下ろし始めていた。

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