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追放された宮廷錬金術師、辺境で気ままに土いじりしてたら神獣や幼馴染の天才騎士が集まり最強国家に〜今さら戻れと言われても〜  作者: 黒崎隼人


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第4話「土くれの従者と朝の光」

 東の空が白み始め、柔らかな朝の光が木枠の窓をすり抜けて部屋の中へと差し込んでくる。

 真新しい木材の香りが、ひんやりとした朝の空気と混ざり合って鼻腔をくすぐった。

 ルークは硬い木のベッドの上で、掛けられた麻布の毛布のざらりとした感触を指先でなぞる。

 まぶたの裏で赤みを帯びていた光が次第に白さを増し、彼はゆっくりと目を開いた。

 視界の先には、昨日錬成したばかりの滑らかな木の天井が広がっている。

 王城の冷たく重苦しい石の天井とは違う、温かみのある風景だった。

 体を起こすと、寝返りを打つたびに軋むベッドの音が静かな部屋に低く響き渡る。

 足の裏が冷たい板張りの床に触れ、微かな冷気が爪先から全身へと伝わってきた。

 ルークはゆっくりと立ち上がり、部屋の隅に設けた石造りの暖炉へと歩み寄る。

 昨日置いた魔力石はすでに熱を失い、ただの灰色の石ころへと戻っていた。

 彼は新しい魔力石を取り出し、指先からほんのわずかな熱を注ぎ込んで暖炉の底に置く。

 瞬時にして赤い炎が立ち上り、木材が燃えるような心地よい香りが部屋を満たし始めた。

 炎の揺らめきが石の壁に複雑な影を落とし、冷え切っていた空気をじんわりと温めていく。

 ルークは水差しから木製の鍋に水を注ぎ、それを暖炉の火の上へと吊るした。

 王都から持参した干し肉の塊をまな板に乗せ、小刀の刃を静かに押し当てる。

 乾燥して硬くなった肉の繊維を断ち切る感触が、刃先から手首へと微かな抵抗となって伝わってきた。

 切り分けた肉片を鍋に放り込むと、やがて水面から細かな気泡が絶え間なく湧き上がり始める。

 肉の塩気と獣の脂の香りが蒸気とともに立ち昇り、空腹を刺激する匂いへと変わっていった。


「ん……いい匂い」


 背後から、寝起きのくぐもった声が聞こえてくる。

 振り返ると、寝室の扉の奥から、銀色の髪を少し乱したセリアが目をこすりながら姿を現した。

 彼女の着ている簡素な服には無数のシワが寄っており、深い眠りについていたことを物語っている。


「おはよう、セリア」


 ルークが静かに声をかけると、セリアは少しだけ眩しそうに暖炉の火を見つめた。


「おはよう、ルーク。王都にいた頃より、ずっとよく眠れた気がするわ」


 セリアは小さなあくびを噛み殺し、木製の椅子にゆっくりと腰を下ろす。

 ルークは煮上がったスープを二つの木の器に取り分け、彼女の目の前へと置いた。

 器から立ち昇る白い湯気が、朝の光を浴びて淡く輝いている。

 二人は無言のまま木の匙を手に取り、温かいスープを口へと運んだ。

 塩と肉だけの簡素な味付けだが、舌の上に広がる旨味と喉の奥を通り抜ける熱が、冷えた体を芯から温めてくれる。

 食事を終えたルークは、家の外へと足を踏み出した。

 昨日作り出した緑の草原が、朝露に濡れてきらきらと光を反射している。

 肺いっぱいに新鮮な空気を吸い込むと、土と草の青々とした匂いが体を駆け巡った。


「さて、まずは畑を作らないとね」


 ルークは足元の黒く湿った土をじっと見つめながら、静かにつぶやく。

 いくら肥沃な土地を作り出しても、広大な畑を一人で耕すには途方もない時間と労力がかかる。

 セリアの手を借りるわけにはいかないし、彼女の剣術は農作業には向いていない。


「土いじりの手伝いをしてくれる、頑丈な味方が必要だな」


 ルークは草原の端に広がる、まだ緑に覆われていない土がむき出しの場所へと歩みを進める。

 膝をつき、両手のひらを直接地面へと押し当てた。

 指先の皮膚越しに、大地の冷たさと、微かなざらつきを感じ取る。

 意識を深く沈め、手のひらから大地へと自らの魔力を糸のように細く流し込んでいく。

 それは無機物である土や岩に仮初めの命を吹き込み、形を束ねる古代の錬金術であった。

 地面の奥底で、重たい岩盤がこすれ合うような低い地鳴りが響き始める。

 ルークの魔力に引き寄せられるように、周囲の黒土と硬い岩石がまるで意志を持ったようにうねり、一点へと集まり始めた。

 土くれが空中で渦を巻き、太い腕の形を構成し、頑強な胴体を形作っていく。

 岩の破片が関節を覆う装甲のように配置され、密度を増した土が筋肉の代わりとなって強固に結びついた。

 やがて、高さが二メートルを優に超える巨大な人型の塊が、ルークの目の前にゆっくりと立ち上がる。

 その体は丸みを帯びた素朴な造形でありながら、城壁の石組みよりも遥かに高い密度で圧縮されていた。

 顔にあたる部分には二つの窪みがあり、そこにルークの魔力と同じ淡い琥珀色の光が灯る。

 完成したゴーレムが最初の一歩を踏み出すと、重たい質量が地面を打ち据え、足元から深い振動が伝わってきた。


『グラン、とでも呼ぼうか』


 ルークは心の中で名付け、巨大な土の従者を見上げて静かに微笑む。

 グランはゆっくりと膝を折り、主であるルークに向かってその丸い頭を深く下げた。

 その動作は巨体に似合わず滑らかで、一切の威圧感を感じさせない。

 ルークは再び地面の岩石に触れ、金属成分だけを抽出して一本の巨大なクワを錬成した。

 鋼鉄のように黒光りする硬質なクワを、グランの巨大な手へと差し出す。

 グランは太い指でしっかりと柄を握りしめ、琥珀色の目をゆっくりと瞬かせた。

 そして、ルークが視線で示した広大な草原へと向き直り、クワを高く振り上げる。

 風を切る重たい音とともに刃が地面に突き刺さると、分厚い黒土がまるで柔らかい布を裂くように容易く裏返された。

 一振りごとに周囲の空気が震え、豊かな土の匂いが爆発するように広がっていく。

 グランの圧倒的な質量と力は、ただ黙々と大地を耕すためだけに行使されていた。

 ルークはその頼もしい背中を見つめながら、これからの生活が実り豊かなものになることを確信し、深く息を吐き出した。

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