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追放された宮廷錬金術師、辺境で気ままに土いじりしてたら神獣や幼馴染の天才騎士が集まり最強国家に〜今さら戻れと言われても〜  作者: 黒崎隼人


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第13話「世界樹の木陰と重なる手」

 かつて死の荒野と呼ばれ、生命の気配すら存在しなかった最果ての土地は、今や見渡す限りの緑と活気に満ちた巨大な独立国家へと変貌を遂げていた。

 ルークがその手で引き上げた地下水脈は、太く豊かな川となって大地をうねるように流れ、幾千もの人々の喉を潤している。

 水面の細かな波が太陽の光を無数に反射し、街の至る所に眩い光の破片を投げかけていた。

 王国の崩壊から逃れてきた難民や、新たな希望を求めて集まった商人たちは、ルークの用意した肥沃な土地に次々と根を下ろし、瞬く間に大規模な街並みを形成していった。

 石造りの頑丈な家屋が整然と立ち並び、真っ直ぐに伸びた広い街道には、色とりどりの果実や布を並べた露店がひしめき合っている。

 人々の話し声や子供たちの高い笑い声が、絶えることなく空気を震わせていた。

 街道を歩くルークの鼻腔を、焼きたてのパンの香ばしい匂いと、香草を煮込んだ肉の濃厚な香りがくすぐっていく。

 硬い石畳を靴の底で踏みしめるたびに、自分の足で作った大地の確かな感触が、足首から膝へと心地よい疲労感を伴って伝わってきた。

 通りすがる街の人々は、皆一様にルークの姿を認めると足を止め、深い敬愛の念を込めて深く頭を下げる。

 ルークは少し照れくさそうに片手を上げ、穏やかな笑みを返しながらゆっくりと歩みを進めた。

 彼の向かう先は、街の最も高い場所にある、緩やかな傾斜を持った緑の丘である。

 丘の頂上には、ルークが最初に根付かせた一本の小さな苗木が、今や空を覆い隠すほどの巨大な世界樹へと成長し、街全体を優しく見下ろすようにそびえ立っていた。

 太い幹は長い年月をかけて硬く締まり、無数に枝分かれした先には、鮮やかな緑色の葉が幾重にも重なって深い日陰を作っている。

 丘を登るにつれて周囲の喧騒は少しずつ遠ざかり、代わりに葉が風に煽られて擦れ合う、波のような静かな音が耳を満たし始めた。

 ルークが呼吸を深くするたびに、樹木が放つ澄んだ魔力と、土の瑞々しい匂いが肺の奥底まで染み渡っていく。

 丘の頂に到着すると、世界樹の巨大な根に腰を下ろし、街を見下ろしている銀色の髪の少女の姿があった。

 セリアである。

 彼女の着ている柔らかな白い衣服の裾が、丘を吹き抜ける風に乗って滑らかに舞い上がっている。

 束ねられた銀糸のような髪が太陽の光を吸い込み、彼女の周囲だけが淡く発光しているかのように見えた。

 ルークは足音を忍ばせることなく、ゆっくりと彼女の隣へと歩み寄る。


「ルーク、お疲れ様」


 セリアが顔を上げ、透き通るような青い瞳を真っ直ぐにルークへと向けた。

 その瞳の奥には、出会った頃から何一つ変わらない、深い信頼と温かな愛情が静かに揺らめいている。

 ルークは彼女の隣に腰を下ろし、冷たい風にさらされてわずかに冷えた彼女の肩を、自分の肩でそっと温めるように寄り添った。

 布越しに伝わってくる彼女の体温が、ルークの胸の奥にある柔らかな場所をじんわりと満たしていく。


「街は今日も賑やかだね。隣国からの使者も、すっかりこの土地の豊かさに驚いていたよ」


 ルークは眼下に広がる街の全景を見渡し、静かな声で言葉を紡いだ。

 自らの愚かさによって内部から崩壊したかつての王国は、すでに国としての機能を失い、遠い昔の幻影のように人々の記憶から消え去ろうとしている。

 代わりに、ルークが何気なく作り上げたこの辺境の地が、周辺諸国から正式に独立国家として認められ、新たな世界の中心となりつつあった。

 しかし、ルークの心の中には、大国の主としての傲慢さや野心などは微塵も存在しない。

 彼の望みはただ一つ、手の届く範囲の大切な人たちが、飢えることなく笑顔で明日を迎えられることだけだ。


「あなたが、みんなの居場所を作ったのよ。誰も傷つけず、ただ与えるだけで」


 セリアは膝を抱え、優しい声でつぶやく。

 彼女の視線が、ルークのごつごつとした大きな手へと静かに落とされた。

 錬金術で土を練り、岩を砕き、幾度も世界を作り変えてきたその手は、決して美しいものではない。

 しかし、セリアにとってその手は、世界中のどんな宝物よりも価値があり、愛おしいものだった。

 セリアは自分の小さな手を伸ばし、ルークの手のひらへとゆっくりと重ねる。

 彼女の指先がルークの指の間へと滑り込み、互いの熱が隙間なく混ざり合っていく。

 ルークはわずかに目を見開き、そして深く息を吐き出して、彼女の手を優しく、しかし確かな力で握り返した。

 脈打つ血液の鼓動が、繋いだ手を通して互いの身体へと伝わってくる。

 それは言葉よりも雄弁に、二人の心が完全に一つに重なり合っていることを証明していた。


「僕一人じゃ、きっと途中で投げ出していた。君が隣で笑ってくれていたから、僕はここまで来ることができたんだ」


 ルークは顔を向け、セリアの青い瞳を至近距離で見つめ返す。

 彼女の長い睫毛がわずかに震え、瞳の奥に光る涙の粒が、太陽の光を反射してこぼれ落ちそうになっていた。

 世界樹の葉が大きく揺れ、二人の頭上に柔らかな木漏れ日を降らせる。

 光の斑点が二人の顔を照らし出し、温かな風が全てを包み込むように丘を通り抜けていった。

 ルークは繋いだ手にさらに力を込め、未来への確かな誓いを胸の奥深くに刻み込む。

 誰にも支配されず、誰の犠牲も強いない、本当の意味での穏やかな生活。

 彼らが選び取ったスローライフは、大いなる大地の祝福と共に、この先も永遠に続いていくのだ。

 風の音が街の喧騒を優しくかき消し、ただ二人の静かな呼吸だけが、緑の丘の上に満ちていた。

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