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追放された宮廷錬金術師、辺境で気ままに土いじりしてたら神獣や幼馴染の天才騎士が集まり最強国家に〜今さら戻れと言われても〜  作者: 黒崎隼人


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第11話「陽だまりの村と焦熱の行軍」

 青く澄み渡った空から、柔らかな陽光が降り注いでいる。

 ルークの開拓した辺境の村は、朝の穏やかな空気に包まれていた。

 風が通り抜けるたびに、黄金色に実った麦畑がさわさわと優しい音を立てて波打つ。

 土の匂いと、朝露に濡れた草の青い香りが混ざり合い、深く息を吸い込むだけで肺の奥から活力が湧いてくるようだった。

 ルークは新しく建てられたばかりの木造の家の前で、木材の表面を丁寧にカンナで削っている。

 薄く透き通るような木くずがくるくると丸まりながら足元に落ち、新しい木の香りが周囲に漂っていた。

 少し離れた広場では、村に流れ着いた子供たちが、真っ白な毛並みを持つシロを追いかけて無邪気に走り回っている。

 シロはわざと捕まりそうな速度で走り、子供たちが手を伸ばすとヒラリと身をかわして、短い尻尾をパタパタと振っていた。

 その楽しそうな笑い声が、村の静かな朝に彩りを添えている。


「ルーク、新しい案山子たちはどうかしら」


 洗い終わった白いシーツを抱えたセリアが、ルークのそばに歩み寄って声をかけた。

 彼女の銀色の髪は後ろで緩く束ねられ、簡素な村娘の衣服がその整った顔立ちをより引き立てている。


「ああ、問題なく動いているよ。害獣が畑を荒らさないように、念のため数を増やしておいたんだ」


 ルークは手を止め、額の汗を手の甲で拭いながら畑の方へと視線を向ける。

 そこには、巨大な土の巨人グランとは別の、人間の子供ほどの大きさしかない小型のゴーレムたちが数体配置されていた。

 彼らはルークが周辺の硬い岩石と土を圧縮して錬成した、畑の防衛専用のゴーレムだ。

 見た目は麦わら帽子を被った素朴な泥人形だが、その密度は鋼鉄を凌駕し、関節には魔力の糸が通されていて驚くほど滑らかに動く。

 彼らは畑の周囲を一定の速度で巡回し、カラスや野ウサギが近づくと、石を投げたり両手をパタパタと振ったりして追い払う役割を担っていた。


「これで夜も安心して眠れるわね。最近、遠くの方で大きな獣の鳴き声が聞こえることがあったから」


 セリアがシーツを物干しのロープにかけながら、少しだけ心配そうな顔を見せる。

 ルークの張った結界は悪意を弾くものであり、ただ生きるために迷い込んだ動物や魔物を無差別に傷つけることはない。

 だからこそ、物理的に畑を守る案山子が必要だったのだ。


「シロもいるし、グランたちもいる。ここには僕たちを脅かすものなんて何もないさ」


 ルークは穏やかに微笑み、再び木材にカンナを当て始める。

 シュッ、シュッという規則正しい音が、平和な時間のリズムを刻み続けていた。




 一方、その平和な村から遥か遠く離れた荒野の只中。

 太陽が容赦なく照りつける茶褐色の大地を、王国の紋章を掲げた軍勢が重い足取りで進んでいた。

 第一王子レオンが率いる近衛騎士団の精鋭部隊である。

 しかし、彼らの姿にかつての威容は見る影もなかった。

 空気は極度に乾燥し、呼吸をするたびに熱風が喉の奥を焼き焦がす。

 馬の蹄が踏みしめるたびに舞い上がる微細な砂埃が、兵士たちの顔や鎧に白くこびりつき、視界を容赦なく奪っていく。

 全身を覆う鋼の鎧は太陽の熱をたっぷりと吸い込み、まるで熱せられた鉄板のように、兵士たちの体力を容赦なく奪い続けていた。


「水だ……水をくれ」


 列の後方から、ひび割れた唇から漏れるようなうめき声が聞こえてくる。

 重装備のまま急行軍を強いられた兵士たちの疲労はすでに限界を超えていた。

 水筒はとうの昔に空になり、乾いた舌が口内の上顎に張り付いて不快な感覚をもたらしている。

 馬たちもまた、口から白い泡を吹き、重い頭を下げてふらふらと歩を進めていた。

 レオンは列の先頭で、黒い軍馬の背に揺られながら苛立たしげに革の手綱を握りしめている。

 彼自身も喉の渇きと暑さに苦しめられていたが、それ以上に、一刻も早くルークを捕らえなければ自分の立場が危ういという焦りが彼を狂気の行軍へと駆り立てていた。


「立ち止まるな。あの役立たずを捕らえれば、すべてが終わるのだ」


 レオンはかすれた声で怒鳴り、馬の腹を蹴り上げる。

 彼の目には血走った赤い線が浮かび、視線の先にあるはずの辺境の地だけを見つめていた。

 どれほどの時間が経っただろうか。

 熱気で歪む地平線の彼方に、突如として信じられない光景が浮かび上がった。

 死の荒野と呼ばれるこの地に存在するはずのない、鮮やかな緑の絨毯。

 黄金色に輝く広大な畑と、澄んだ水を湛えてきらきらと光る水路。

 そして、その中央に点在する、温かみのある木造の家々。


「なんだ、あれは……幻覚か」


 レオンは馬の歩みを止め、目を大きく見開いた。

 背後に続く兵士たちも、その美しい光景を前にして言葉を失い、その場に立ち尽くす。

 乾ききった風に代わり、微かに湿り気を帯びた甘い土の匂いが彼らの鼻腔をかすめた。

 それは間違いなく現実の風景であった。

 王国が枯れ果て、崩壊の危機に瀕しているというのに、追放した錬金術師はこんな豊かな土地で悠々自適に暮らしている。

 その事実がレオンの脳を激しく揺さぶり、屈辱と激しい憎悪が真っ黒な炎となって腹の底から燃え上がった。


「おのれ、ルーク……王国の力を盗み出し、自分だけがこのような贅沢を」


 レオンの論理は完全に破綻していたが、彼にとって真実などどうでもよかった。


「全軍、突撃しろ。あの村を制圧し、ルークを捕縛せよ」


 レオンが剣を抜き放ち、狂気に満ちた声で命令を下す。

 疲労困憊の兵士たちも、目の前に水と食料があるという事実に行き場のない欲望を刺激され、重い足を前に踏み出した。

 鋼の鎧が擦れ合う音が荒野に響き、絶望の軍勢が、平和な村へとその汚れた手を伸ばそうとしていた。

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