令嬢チョップで婚約破棄GO!~自ら婚約破棄をしようとしたチャレンジャー公爵令嬢の話
殿下と結婚したくない?
性格が合わない?
市井の婦女子ならそれで良いでしょう。
でも、貴方は公爵令嬢ですわ。
政略結婚をする対価に贅沢な生活を送っているのですよ。
「そうでしょうか?」
「ええそうです」
でも、長い王家の歴史でどうしても性格が合わない方がいらっしゃいますわ。そのために王宮魔道師の私がいますの。さあ、このお薬を飲んで下さい。
殿下の短所と思えるところは、長所に思えるようになりますわ。楽しく夫婦生活を送れますわ。
「さあ、このお薬をこの場で飲んで下さい」
王宮の女魔道師が瓶に入った薬を手渡そうと私の方へ腕を伸したわ。
だから、私は・・・
【令嬢チョップ!】
バチンとその腕をたたき折った。
瓶は宙を舞う。
令嬢チョップ、皆様もご存じだと思いますが令嬢教育で習う技ですわ。
「ヒィ、アリシア様、ご乱心!、ヒィ、腕が腕が!」
瓶をポンとキャッチし。
「お前が飲め」
と女魔道師の口に瓶を突っ込んだ。
「これ、飲むの私じゃーねーだろ!・・・ウポ、ウポポーーーーーお花畑が・・」
下らぬ。やはり怪しいお薬だったのね。
私はアリシア、殿下の婚約者。
☆回想
殿下は短気な方だわ。初めてのお茶会の時。
「おい、お茶遅いぞ!」
「申訳ございません」
ガチャン!と茶器を割る。
使用人達に暴行を加えるわ。
「全く、最近の使用人どもはたるんでいる!」
「申訳ございません」
ドヤ顔で私を見る。
私は怖くて仕方なかったわ。
使用人達は頬を腫らしているわ。
王子は暴力をふるう。
王妃は元男爵令嬢、王子の教育は放任というよりも放置だわ。
幼年部の園遊会でも。
「そのヌイグルミ寄越せよ。僕は王子だぞ!」
「キャア!」
「殿下、妹に乱暴を止めて下さい」
他の子のオモチャを取り上げる。狼藉を止めた兄にビンタをしているわ。
大人たちは見て見ぬふりだわ。
だって、王妃殿下は黙って見ている。
意見しても。
「子供のやることですから」
で済ましている。
私は震えて見ていることしか出来なかったわ。
何故、私が婚約者に指定されたのか。王妃殿下の要望だわ。
自分は男爵令嬢なのに息子には公爵令嬢の私を婚約者を欲した。
私はお父様、お母様に婚約は無理だと伝えたわ。
「許してくれアリシア、王命だから断れなかった・・・」
「何とか解消を打診しているわ・・・」
私は絶望の淵に立たされた。
そして、それから頑張って13歳の時に令嬢教育を全て終わらせて旅に出た。
解決策を探そうと思ったわ。
お父様は許してくれた。せめてもの償いらしい。
「精一杯羽を伸して来なさい」
「はい・・・」
使用人達と旅に出た。
私の考えはこうだ。王子の暴力が向かって来ても体を守れる体術があれば良いと・・
外国の名高い武術塾に通おうとしたわ。
「え、男の暴力に対抗する?無理だ。女武術家のトップでも中等部の男子にやっと対抗できるぐらいだ」
なら、魔道は・・・
「お嬢ちゃん。甘いね。そりゃ、私は男にも対抗できるけど、魔道は学問、学問も体力勝負だわ。温室育ちのお嬢様は無理だわ」
と言われたわ。
有名な賢者に面会しても。
「お嬢様、無我の境地です。王子殿下のことは忘れなさい」
「賢者様、どうやって忘れるのですか?」
「ただ、忘れるのです」
また、有名なマナー講師に面会も求めた。
「女性は男性に仕える者、父に仕え。夫に仕え。老いたら息子に仕える。女は家無しですわ」
論外だわ。
万策尽きたわ。2年無駄にしたわ。私は失意のうちに帰国した。
でも、幸せの精霊は裏庭にいたという寓話があるけど、解決策は祖国にあった。王都の下町で女性が男性と喧嘩をしている場面に遭遇した。
「オ~ホホホホホホ、そこの顔の汚い殿方、その娘さんは嫌がっていますわ。手を放して下さらない?」
「な、何だと!」
道で花売りの少女に絡んでいる酔っ払いがいた。貴婦人が注意しているわ。
「おう、ババほっと・・ギャアアアアアーーーー」
「オ~ホホホ、令嬢チョップですわ!ババとは私のことを言ったのかしら!」
「令嬢じゃーねえだろう。腕が、腕がプランと・・・」
「お黙り!もう一発よ!令嬢乱舞チョップの乱れ撃ちですわ!」
「ヒィーーー!」
え、チョップで酔っ払いの腕を折ったわ。
「マダム、あ、有難うございます」
「オ~ホホホホ、ここは客層が悪いですわ。口を利くから貴族街で商売しなさいな。私は花の妖精、ローズ夫人ですわ。私の名をだせば入れるわ」
「有難うございます」
ローズ夫人と言うのね。
私はその場で弟子入りを願い出た。
「あの、マダム、弟子にして下さい・・」
「まあ、貴女は?」
事情を話した。
「私も殿方の暴力に対抗したのです。いえ、殿下に余裕を持って接したいというか、何とかしたいと言うか・・」
扇をパチンとしてローズ夫人は答えたわ。
「貴女は勘違いしているわ。殿方の暴力に対抗するのは無理ね・・・でも、どうして令嬢チョップが令嬢教育にあるのかしら?」
「それは・・・殿方と一緒にいたときに暴漢に襲われたとする。その時、殿方の背中を守り殿方が撃ち漏らした暴漢の首筋にチョップをして気絶させる・・・ですか?」
「違うわ」
テキスト通りに回答したら否定されたわ。
武術界でも廃れた技よ。試合では使えないわ。
でもね。条件がそろえば恐ろしい効果を発揮するの。
「貴女分かって?」
「いえ、分かりません・・」
「ついて来なさい」
こうして私はローズ夫人に弟子入りしたわ。
練習内容は、巻き藁にチョップをたたき込む。
立木に麦わらを巻き付けた物だ。
「巻き藁先生にカーテシーですわ。巻き藁先生、ごきげんようですわ!」
「ま、巻き藁先生、ごきげんようですわ」
「巻き藁先生に正面から立ち打つ。これは正チョップの型」
「正チョップの型・・」
「巻き藁先生に半身で立ってチョップを打つ。これは平蜘蛛の型ですわ」
「平蜘蛛の型・・・」
「次は、移動チョップよ。体重を乗せることによって威力は倍増するわ」
「はい、移動チョップ!」
「始め移動は大きく、徐々に少なくするわ。達人になると、移動は小さく地面にめり込むような踏み込みになるわ」
「はい!」
私は貴族学園に入学してからもローズ夫人の屋敷に通ったわ。
その間にも王妃から嫌みを言われる。
「まあ、アリシアは最近坊やと会っていないわね。間男がいるの?」
「いません・・」
私は三年間チョップの修行をした。
「巻き藁先生、ごきげんようですわ」
来る日も来る日も晴れの日も、雨の日も、雪の日も・・・
王子妃教育も手を抜かなかったわ。
そして遂に3年目の中盤くらいに。
「跳び令嬢チョップ!」
バシン!と、巻き藁先生が悲鳴をあげるようになった。
「貴女、何故跳んだのかしら?」
「はい、移動を早くしようと思ったらこうなりました。低空を高速で飛びますわ・・」
「オ~ホホホホホ、宜しいですわ。アリシア様、これから奥義を授けます。令嬢チョップの使い方を、本当の恐ろしい使い方を!」
「はい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
修行を思い出しながら私は王宮の回廊を歩くと。王妃殿下とばったり会った。
「アリシア、坊やが待っていますわ。怒っていますの。急ぎなさい」
「まあ、市井では婦人の支度を待てない殿方は夜も早いと言いますわ」
「な、何て破廉恥な!」
怒り心頭の王妃殿下を背にお茶会会場に向かう。
会場に着くと、王子はコンコン!と足を鳴らしているわ。
殿下にはメイドがつかない。女性相手でも暴力をふるうからだ。
側には顔を腫らした侍従がいるわ。
殴られたのね。
「アリシア、遅いぞ!僕を待たせるな」
私は無言で殿下の前に立った。
「あら、殿下、申訳ございませんわ。三軒隣の家の猫が子猫を産みましたの。見に行っていたから遅刻しましたの」
「何だと、僕を馬鹿にするな!」
すると、殿下は立って私を掴もうと腕を伸してきたわ・・・
☆回想
「いいですか?アリシア様、実はチョップは当たりません。効きません。しかし、殿方が婦人を掴もうとした瞬間、腕の関節は伸びますわ。
その時、関節にチョップをたたき込めば腕は女の力でも折れますわ」
「・・・本当ですか?」
「ええ、これから見回りをしますわ。実践で覚えなさい」
「はい」
「いざとなったら私はインポ魔法をかけますわ。強烈ですわ。一時間痛みでもだえるでしょう」
「インポ?」
「オ~ホホホホホホ、気にしてはなりませんわ」
インポって何だろう?
それから実戦を経た。
何も掴む瞬間を待たなくて良い。
「何だ。この姉ちゃん!良い所邪魔するんじゃない!」
いきなりはたいて来たわ。
腕関節が伸びきったところ、関節を打つべし!
バキン!
「あれ、腕が変な場所に・・・あれ、あれ。ウワ~~ン!」
「オ~ホホホホホホホ・・・・貴女出来るわね」
実戦で戦闘理論を学んだ。
「ローズ夫人、金玉を狙うのは如何でしょうか?」
「ダメね。急所は本能でよけるものよ。むしろ腕を守る概念はないわ。そこが盲点よ。人は体から離れたところほど守らなくなるのよ」
「なるほど・・・」
・・・・・・・
そして、殿下は腕を伸し私を掴もうとしてきた。
「こっちこいよ。アリシア!」
私は体重を思いっきりかけてチョップを放つ。
踏み込みはズドンと地面に穴をあける感触だわ。
殿下の腕は私を掴もうと伸び。そのまま王子の腕をへし折ったわ。
バキン!
「おい、アリシア、よけるな!・・・・あれ、あれ、ブラン、ブランしている・・・何だ。腕が折れているからアリシアを掴めなかったのか?・・・い、いたい!」
「令嬢チョップは貴婦人に許された唯一の殿方への反抗方法・・・殿下、思い知りなさい。婚約破棄ですわ!」
「母上!母上!」
衛兵に囲まれたわ。
「是非も無し!」
陛下と王妃殿下も来たわ。
「不敬罪だわ!平民と同じ縛り首よ!」
「まあ、妃がそういうのなら・・」
まあ、いいわ。公爵家は存続するだろう。お父様、お母様も目が覚めるだろう。
愚王の下ではやっていけないわ。
その時、高笑いが響いて来たわ。
【オ~ホホホホホホ、マルクス、お久しぶりね】
「あ、姉上!」
「ヒィ、ミリガン様」
え、ローズ夫人だわ。もしかして陛下の姉上・・・
「マルクス、貴方、辺境伯令嬢が嫌で婚約破棄したじゃない。アリシアも嫌なのよ。気持を汲んでやりなさい」
「しかし、姉上、私は今は王です。私のは真実の愛、王子と婚約破棄をするアリシアは我が儘ですぞ」
「でないとインポ魔法をかけるわ。それも盛大にね」
「はい、姉上の仰る通り。婚約は解消します!」
あら、陛下は素直になったわ。
王妃は・・・
「でも、ミリガン様、坊やが怪我をしたのですよ!」
「あら、まさか、令嬢に腕をへし折られたとでも発表するのかしら?ねえ」
「グウ・・」
グウの音が出たわ。
私は無罪放免になった。
今は屋敷で釣書を選んでいるところだ。
王姉殿下はそれからも市井で令嬢教育をしている。
「皆様、令嬢教育の基本は令嬢チョップですわ。巻き藁先生にカーテシーですわ」
「「「「巻き藁先生、ごきげんよう」」」」
青空にローズ夫人とその背後に巻き藁先生が浮かんだわ。
私、今、幸せですの。
・・・ある空手の流派に突きの際、腕が伸びきると関節を破壊されるからと関節を伸さない突き方の流派がある。
異世界にも同じ発想があったかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。




