出会い
「世界で一番の幸せになる方法って知ってる?」
幸せなんて人によるだろ、と答えても良かった。
しかし、相手が求めているのはそういった一般的な回答ではないように思った。彼女のことを詳しくは知らないが、噂は聞いているし、その噂を確認するためにクラスまでわざわざ見に行った。
彼女が転校してきたのは先週。
転校生が衆目を集めるのは当然としても、話題になる要素が多すぎたのだ。
まず、聞いたことのない苗字。
フルネームは全世 羽海。
苗字を検索するサイトでヒットしなかったから、かなりレアな苗字。
次に、見た目。
クラスメイトがAIで顔を生成したのだろうと形容したその容姿は伊達じゃない。
顔の対称性を計測するアプリで測ったら99%左右対称と出たらしい。
平均的な人間は70~80%と聞いても、それがどのくらいすごいのかはわからなかったが、
少なくとも実物を確認して、美形であることは納得した。
そして整っているだけではなく、人付きのする可愛らしい顔。
欠点があるとすれば髪が短いことくらいだった。
最後に性格だが、変わっているとのこと。
初日の自己紹介で「世界中の可愛さを集めちゃってごめんなさい、全世羽海です」と
下手したら初日にイジメの対象になりかねない自己紹介をしたが、なんと女子にもウケたとのこと。
その後、クラスでもうまくやっているらしい。
勘違い女というには顔が良すぎるし、人に好かれる人間はそんな自己紹介しないと思うし、
チグハグな印象を持っていた。
そしてその彼女が何故か僕に話しかけている。
「ねえ、聞いてる?」
その彼女が僕の顔を覗き込んできた。
「も、もちろん聞いているよ。幸せについてだよね?」
「世界で一番の幸せになる方法、ね」
「それは僕にとってということ? それとも一般的な話?」
やっぱり人によると思う。一番の幸せといってもその人が何になりたいのか、どうなりたいのかによっても、採る方法は変わってくる。
「もちろん両方」
「両方?」
意味が分からない。ああ、そういうことか、要は頭のねじの外れた女ということか。
そもそも幸せがどうとか、初対面の人間にかける言葉としては適当ではない。
まあ、顔が良いから許されていて、面白い子として扱われているのだろう。
「うーん、ちょっと分からないなあ」
適当に返そうと決めた。真面目に会話をしても仕方がない。
「ふーん、学年トップと聞いたけれど、出来るのは勉強だけ?」
「えっ?」
口が悪くない? そういうキャラ? そっちか? そっちのタイプか。
いまいちキャラが掴めない。
「私が聞いている以上、答えはあるわ。あるいは、あなた独自の答えを聞きたいのだけれど、それはわかる?」
いや、お前「世界中の可愛さを集めちゃってごめんなさい」とかいうキャラじゃねーだろ。
だいたい「私が聞いている以上」とかいうけど、お前のことを知らないっつーの。
「つまりあなたは、どうやったら世界で一番の幸せになれるかを知らないということね?」
確かに成績は学年トップではあるが、進路を決めているわけでもないし、特にやりたいことがあるわけでもない。そういう意味では自分が幸せになる方法を知らないのかもしれない。
「知らないといえば、知らないのかもしれない」
「よし、わかったわ。それなら私に従いなさい。世界で一番幸せな男にしてあげるわ」
面倒になり僕は二つ返事でオッケーをした。
これが世界絶滅計画の始まりだった。