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控室トーク:歴史の味、未来の一杯

(スタジオの喧騒が遠ざかり、再び静かな控室に戻ってきた4人。先ほどのエンディングでの引き締まった表情は消え、今は大きな仕事を終えた後の、安堵感と心地よい疲労感が漂っている。部屋の中央のテーブルには現代の飲み物が、そして各々のエリアには、それぞれの故郷を思わせる食べ物や飲み物が用意されていることに、彼らは気づいた。)


メアリー:(自分のエリアのテーブルを見て、小さく歓声を上げる)「まあ!紅茶と…スコーンにアップルパイまで!まるで故郷に帰ってきたみたいだわ…!」


ゼンメルワイス:(自分のデスクの上のコーヒーとトルテに目を細め)「これは…ウィーンの香りですね。素晴らしい。疲れた頭に糖分は必要ですから」


吉宗:(畳スペースのお膳をしげしげと眺め)「ほう、麦飯に焼き魚か。それに、この甘藷…懐かしいのう。質素ではあるが、心が落ち着くわい」


パストゥール:(サイドテーブルのワインボトルを手に取り、ラベルを確認して満足げに頷く)「ふむ、ボルドーか。悪くない選択だ。それに、このチーズ…ロックフォールもあるとは、なかなかの目利きがいるようだ」


(しばし、それぞれが自分のエリアの飲食物を懐かしむように眺めていたが、やがてパストゥールが口を開いた。)


パストゥール:「さて、諸君。長時間の議論、お疲れだったな。せっかくだ、私の国の誇るワインとチーズを試してみてはどうかな?科学の進歩は、衛生だけでなく、こうした食文化も豊かにしてきたのだよ」(そう言って、手際よくワインをグラスに注ぎ始める)


吉宗:(興味深そうに)「ほう、ワインとな。異国の酒か…少し、いただいてみようかの」


ゼンメルワイス:「ありがとうございます、先生。では、私も少しだけ…」


メアリー:(少し遠慮がちに)「まあ、いいんですか?では、お言葉に甘えて…」


(パストゥールが注いだワイングラスが、それぞれに渡される。吉宗は慣れない手つきでグラスを持ち、香りを確かめてから一口含む。)


吉宗:「…むぅ。これは…なんとも、複雑な味わいじゃな。米の酒とは全く違う。舌に残り、そして、体が温まるようじゃ。なかなかのものじゃな」


パストゥール:(満足げに)「だろう?チーズと共に味わえば、さらにその魅力が引き立つぞ。さあ、遠慮なく取ってくれたまえ」


(ロックフォールやブリーチーズが勧められ、それぞれが試してみる。)


ゼンメルワイス:「この青い筋の入ったチーズ…塩味が強く、独特の風味ですね。ワインと実によく合います」


メアリー:「こちらの白いチーズは、ミルクの味が濃くて、とろりとしていて…美味しいわ。バゲットに乗せると、いくらでも食べられそう」


吉宗:「うむ、異国の美味も、また一興じゃな。…しかし、やはり日本人には、この米と茶が一番しっくりくるやもしれぬ。皆も、どうじゃ?わしの国の素朴な味も試してみてはくれぬか?この甘藷も、なかなかいけるぞ」


パストゥール:(緑茶の湯呑を手に取り)「ふむ、これは茶葉を発酵させていない、緑茶というものかな?香りが非常に清々しい。…なるほど、食事と共にいただくには、確かにワインよりこちらの方が合うのかもしれんな」


ゼンメルワイス:(ふかしたサツマイモを一口食べ)「…素朴ですが、優しい自然な甘さですね。心が安らぎます。飢饉の際に、これが民を救ったというお話、よく分かりました」


メアリー:(焼き魚を少しつまみながら)「お魚も、塩加減がちょうどよくて美味しいわ。それに、このお味噌汁…温かくて、ホッとする味ね」


ゼンメルワイス:「そうだ、私もウィーンのコーヒーとトルテを用意してもらったようです。議論で疲れた頭には、これが一番ですよ。メアリーさん、甘いものはお好きですか?」


メアリー:「まあ、大好きですわ!このチョコレートのケーキ、見た目もすごく綺麗!」(勧められたザッハトルテを嬉しそうに受け取る)「んー!濃厚!チョコレートの味がすごく濃くて、でも甘すぎなくて…美味しい!この白いクリームと一緒に食べると、また違う味ね!」


パストゥール:(ウィーン風コーヒーを一口飲み)「ふむ、コーヒーにクリームか。悪くない組み合わせだ。私の国ではエスプレッソが主流だが、これもまた、深い味わいがある」


吉宗:(少し戸惑いながらもトルテを口にし)「…なんとも、甘く、そして少し苦いか?異国の菓子というのは、まことに複雑なものよな。茶によく合うわい」


メアリー:「あの、もしよかったら、私の故郷の味も…アイルランドのミルクティーと、スコーンです。ジャムと、この白いクリーム(クロテッドクリーム)をたっぷりつけて食べるんですよ。あと、アップルパイも…」


パストゥール:「ほう、紅茶にミルクを入れるのか。イギリスと同じ習慣ですな。スコーン…素朴だが、味わい深い」


吉宗:「この焼き菓子スコーンも、甘いもの(ジャムとクリーム)をつけると、また格別じゃな。紅茶とやらも、体が温まる」


ゼンメルワイス:「アップルパイ、家庭的な温かい味がしますね。リンゴの酸味と甘みが、ちょうど良い」


(それぞれの国の味を楽しみながら、控室には和やかな空気が満ちていく。議論中の険しい表情はすっかり消え、互いの労をねぎらい、個人的な興味から質問を交わし始める。)


吉宗:「いやはや、パスツール殿。そなたの『びせいぶつ』の話は、最初は面食らったが、実に興味深かったぞ。わしの時代にも、そなたのような学者がおれば、救えた命も多かったやもしれぬな」


パストゥール:「将軍こそ、その政治手腕、学ぶべき点が多かった。特に目安箱の制度は、現代にも応用できるのではないかな?民の声を聞く、という基本を忘れてはならんということだ」


メアリー:(ゼンメルワイスに向かって)「先生…本当に、今日はお話しできてよかったです。私の話を、あんな風に聞いてくれた人は、今までいませんでしたから…」


ゼンメルワイス:「メアリーさん、私の方こそ、あなたから多くのことを学びました。科学的な正しさだけを振りかざすのではなく、人の心に寄り添うことの大切さを…改めて痛感しましたよ」


パストゥール:(メアリーに)「メアリー君、君には辛い思いをさせたかもしれん。だが、君の訴えは、我々科学者や為政者が、常に心に留めておかねばならないことだ。…許されるなら、このワインをもう一杯どうかな?」


メアリー:(笑顔で)「はい、いただきますわ、先生」


吉宗:「それにしても、ここは不思議な場所じゃな。異国の者、異なる時代の者が、こうして一堂に会し、語り合うとは…」


ゼンメルワイス:「ええ、まるで夢のようです。しかし、非常に有意義な時間でした。皆さんと出会えたことに、感謝しなくては」


パストゥール:「うむ。最初は、どうなることかと思ったがな。特に、あの案内役の女子は、少々馴れ馴れしいところもあったが…まあ、悪い司会ではなかった」


メアリー:「あすかさん、優しかったわ。彼女がいてくれたから、私も安心して話せた気がする」


(和やかな会話は尽きない。それぞれの時代の暮らしぶり、家族のこと、好きな食べ物のこと…話題は尽きず、時折、笑い声も響く。厳しい議論を戦わせた者同士とは思えないほど、そこには温かい空気が流れていた。)


(しかし、やがて、名残惜しい空気が漂い始める。彼らは、この不思議な空間にいられる時間が、永遠ではないことを知っている。)


吉宗:「…さて。そろそろ、おいとませねばならぬ刻限かのう」


パストゥール:「うむ。残念だが、それぞれの時代が我々を待っているようだ」


ゼンメルワイス:「…皆さん、今日はお世話になりました。短い時間でしたが、忘れられない一日となりました」


メアリー:「私もです。皆さんにお会いできて、本当によかった…。どうか、お元気で」


パストゥール:「将軍、達者でな。良き国を作り続けてくれ」


吉宗:「うむ、パスツール殿も。その科学で、多くの人々を救いたまえ」


ゼンメルワイス:「メアリーさん、あなたの未来に、幸多かれと祈っています」


メアリー:「先生も…どうか、安らかに…」


(4人は、互いに目を見交わし、静かに頷き合う。言葉は少なくとも、そこには確かな敬意と、短い時間で育まれた絆が感じられた。そして、一人、また一人と、控室を後にし、それぞれの時代へと帰っていく。部屋には、飲みかけのグラスや食べかけの皿、そして、彼らが残した温かい余韻だけが、静かに残されていた。)

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― 新着の感想 ―
 今回もいい感じに意見が纏まったようで好かったです。  もしかすると、ときには大を救うため小を切り捨てる現実的な対処も必要とメアリーの受難も軽視されそうな気がしてたんですよね。特に政治のトップである吉…
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