みんなの質問コーナー
あすか:「さあ、『歴史バトルロワイヤル』、熱い議論もいよいよ大詰め!ここからは、この時空を超えた対談をリアルタイムでご覧いただいている視聴者の皆さまからの質問にお答えいただく『質問コーナー』です!」(手元のタブレット端末を操作する)
あすか:「いやー、今回もたくさんの質問が寄せられていますよー!皆さんの関心の高さがうかがえますね。時間の許す限り、ご紹介していきましょう。このコーナーでは、これまでの議論で出てきた、ちょっと難しかったかもしれない言葉や、皆さんの鋭い主張の背景などを、さらに深く掘り下げていきたいと思います!」
あすか:「では、最初の質問!こちらは…ペンネーム『手洗いは大事』さんから、ゼンメルワイス先生へのご質問です。『ゼンメルワイス先生の勇気ある行動に感動しました。しかし、どうしても理解できないのは、なぜ当時の医師たちは、あれほど頑なに手洗いを拒んだのでしょうか?Round2ではプライドの問題だとおっしゃっていましたが、それだけだったのでしょうか?もっと具体的な理由があれば教えてください』とのことです。先生、いかがでしょう?」
ゼンメルワイス:(少し考え込むように目を伏せ、そして静かに語り始める)「…ご質問、ありがとうございます。『プライド』…確かに、それも大きな要因でした。当時の医師、特に大学教授クラスの権威ある医師たちは、自らが病気を媒介するなどとは、夢にも思っていなかったでしょう。しかし、理由はそれだけではありません」
ゼンメルワイス:「まず、当時の医学理論があります。主流だったのは、血液や粘液など体液のバランスが崩れることで病気になるという『体液説』や、悪い空気、すなわち『瘴気』が原因だという考えでした。私の言う『接触感染』、しかも目に見えない粒子による、という考えは、それらの理論とは全く異質で、すぐには受け入れ難かったのです」
パストゥール:「ふむ。科学の世界では、既存の理論…パラダイムというが、それを覆す新しい発見は、常に大きな抵抗に遭うものだ。君の苦労は、私もよく理解できる」
ゼンメルワイス:「ありがとうございます、先生。それに加えて、当時の病院内での医師の地位の問題もありました。我々医師は、学識ある存在として、助産師さんたちよりも上位にあると見なされていました。その我々が、助産師さんたちよりもはるかに多くの産婦を死なせているという事実は、認めたくない現実だったのです。さらに言えば、病理解剖は学術的に重要視されていましたが、臨床の現場、特に産科などは、やや低く見られる風潮もありました。解剖で得た『汚れた手』で産婦を診ることに、抵抗が少なかったのかもしれません…」
あすか:「なるほど…医学界の構造的な問題もあったんですね…」
ゼンメルワイス:「ええ。そして、もっと単純な理由として、手洗いの煩雑さもありました。私が推奨した塩素溶液での手洗いは、時間がかかり、手も荒れましたからね。忙しい業務の中で、それを徹底することへの反発もありました。さらに言えば、私の提示した統計データ…それ自体を軽視する風潮もありました。『数字だけでは真実は分からない』とね」
ゼンメルワイス:「…そして、最後に…これは、私自身の問題でもあったかもしれませんが…私の伝え方です。私は、あまりにも性急に、そして時には感情的に、自説の正しさを主張しすぎたのかもしれません。もう少し冷静に、粘り強く、周囲の理解を求める努力をしていたら…結果は少し違っていたのかもしれない、と…今になって思うこともあります」(寂しげに微笑む)
あすか:「先生…。様々な要因が複雑に絡み合っていたんですね。決して単純な話ではなかった…。『手洗いは大事』さん、ご納得いただけましたでしょうか?ゼンメルワイス先生、ありがとうございました」
あすか:「では、次の質問にまいりましょう!こちらは、メアリーさんへのご質問です。ペンネーム『もしもボックス』さんから。『メアリーさんのお話、胸が痛みました。もし、あなたが現代にタイムスリップしてきて、自分が無症状保菌者だと診断されたとしたら、どう行動しますか?現代の医学知識や人権意識、サポート体制があれば、当時とは違う対応ができたと思いますか?』とのことです。メアリーさん、いかがでしょう?」
メアリー:(少し驚いたように目を見開き、そしてゆっくりと言葉を探すように話し始める)「…もし、私が、今、ここにいる皆さんのように、菌のことや、病気の広がり方について、ちゃんと説明を受けられていたら…。そして、私が危険なのではなく、私の中の『菌』が危険なのだと、ちゃんと区別して扱ってくれていたら…」
メアリー:「それに、もし、私が料理人の仕事を続けられなくなっても、他の仕事を見つけられるように手伝ってくれたり、生活に困らないように助けてくれたりする仕組みがあったなら…。そして何より、私の話をちゃんと聞いてくれて、『どうすれば、あなたも周りの人も安全に暮らせるか、一緒に考えましょう』って、そう言ってくれる人がいたなら…」
メアリー:「…きっと、もっと、協力できたと思うわ。あんな風に、頑なに検査を拒んだり、隠れて料理人を続けたりは…しなかったかもしれない。だって、私だって、人を病気にしたいわけじゃ、決してなかったんですもの」(目に涙を浮かべる)
吉宗:(メアリーに優しい視線を向け)「うむ…メアリー殿の言う通りじゃな。一方的に押さえつけるのではなく、相手の立場を理解し、共に道を探る。それができておれば、悲劇は避けられたやもしれぬ。…たとえ相手が罪人であったとしても、情状酌量というものがある。ましてや、メアリー殿は病に苦しんでもおらぬのだからのう」
メアリー:「でも…それでも、やっぱり怖いと思うわ。自分が、知らず知らずのうちに、誰かを傷つけてしまうかもしれないなんて…。そして、周りの人たちから、どんな目で見られるんだろうって…。たとえ制度が整っていても、人の心の中にある偏見や恐怖は、簡単にはなくならないでしょうから…。だから、もし現代に生きていたとしても、きっと、たくさん悩んで、苦しんだと思うわ…」
あすか:「現代の知識や制度があれば、違う道があったかもしれないけれど、それでも残るであろう葛藤や不安…。メアリーさん、正直なお気持ち、ありがとうございます。『もしもボックス』さん、いかがでしたでしょうか」
あすか:「さあ、どんどん行きましょう!続いては、徳川吉宗公へのご質問です!ペンネーム『匿名希望の越後屋』さん…おぬしも悪よのう、なんて言いたくなりますが(笑)、質問は真面目ですよ。『吉宗公、現代の日本で問題になっている「食品偽装」…例えば、安い外国産のお肉を国産と偽ったり、賞味期限をこっそり書き換えたりするような行為について、どう思われますか?もし、目安箱にそのような悪事を訴える投書があったとしたら、どのような対策を考えられますか?』とのことです。将軍、いかがでしょう!」
吉宗:(眉間に深いしわを寄せ、怒りを滲ませながら)「言語道断!断じて許せぬ悪事じゃ!民を欺き、己の利益のために食の安全をも脅かすとは、武士にあるまじき、いや、人としてあるまじき卑劣な行いよ!」
あすか:「おお、将軍、お怒りですね!」
吉宗:「当然じゃ!食は民の命の源。それを偽るとは、民の命を軽んじるに等しい!目安箱にそのような訴えがあれば、わしは直ちに事実関係を徹底的に調べさせ、もしそれが真実であれば、関わった者には厳罰をもって処するであろう!見せしめとしても、断じて甘い沙汰は許さん!」
パストゥール:「ふむ。企業の倫理観の欠如、という問題ですな。利益追求も結構だが、人々の健康や信頼を裏切ってまで得る利益など、唾棄すべきものだ」
吉宗:「左様。じゃが、罰するだけでは根本的な解決にはならぬやもしれぬな。なぜ、そのような悪事が後を絶たぬのか…その根を探らねばなるまい。過度な利益追求を求める仕組みがあるのか、あるいは、正直者が馬鹿を見るような風潮があるのか…。そこを改めねば、いくら厳罰に処しても、次から次へと悪事を働く者が出てくるであろう」
吉宗:「対策としては、まず、情報の透明性を高めることじゃな。どこで、誰が、どのように作ったものなのか、民が容易に知ることができるようにする。そして、内部から悪事を告発した者を、手厚く保護する仕組みも必要じゃろう。悪事を見て見ぬふりをするのではなく、正義を貫いた者が報われる世にせねばならぬ」
あすか:「厳罰と、不正が起こる根源への対策、情報公開、そして内部告発者の保護…。現代のコンプライアンスにも通じる、非常に的確なご指摘ですね!『匿名希望の越後屋』さんも、きっと感服していることでしょう。吉宗公、ありがとうございました!」
あすか:「さて、お次は少し未来的な質問です。パストゥール先生にお伺いします。ペンネーム『AIの召使い』さんからです。『パストゥール先生、近年、AI(人工知能)の技術が目覚ましく発展しています。将来、食品工場やレストランの衛生管理が、AIによって自動化される未来が来るかもしれません。先生はそのような未来をどう思われますか?科学技術の進歩は、いつか食品衛生の問題を完全に解決できるのでしょうか?』とのことです」
パストゥール:(興味深そうに顎に手を当て)「ほう、AI…人工知能とな?人の手を介さずに、機械が自ら判断し、衛生管理を行う…実に興味深い発想だ。おそらく、人間が見落としがちな細かい点まで監視し、効率的かつ正確に管理できる面もあるのだろう。科学技術の進歩が、衛生レベルの向上に貢献する可能性は、大いにあると私は思う」
パストゥール:「しかし…完全に問題を解決できるか、と問われれば、私は『否』と答えざるを得ないだろうな。まず、そのAIとやらを設計し、プログラムするのは人間だ。そこに誤りや偏見が入り込む可能性は常にある。また、予期せぬ事態…例えば、未知の病原体の出現などに、AIが柔軟に対応できるのか?倫理的な判断…例えば、わずかなリスクと経済的損失を天秤にかけるような場面で、AIがどのような判断を下すのか?そこには、依然として人間の監督と、最終的な判断が必要となるだろう」
ゼンメルワイス:「それに、先生。たとえAIが完璧に管理できたとしても、それを使う人間…あるいは、その管理下で働く人間の意識が変わらなければ、意味がないのではないでしょうか?結局は、機械に任せきりにするのではなく、人間自身が衛生に対する責任感を持ち続けることが、最も重要なのではないかと、私は思います」
パストゥール:「うむ、ゼンメルワイス君の言う通りだ。科学技術はあくまで道具であり、それを使う人間の知恵と倫理観こそが問われる。AIがどれほど進歩しようとも、我々人間が、食の安全に対する意識を高め、学び続ける努力を怠ってはならない。科学万能主義に陥ることなく、技術と人間性が調和してこそ、真の安全が実現できるのだろう」
あすか:「AIの可能性と限界、そして変わらない人間の役割…。パストゥール先生、未来を見据えた深いご考察、ありがとうございました!『AIの召使い』さん、参考になりましたでしょうか?」
あすか:「さて、名残惜しいですが、お時間の関係で、これが最後の質問となりそうです。これは、特定のどなたかへ、というよりは、皆さま全員にお伺いしたい質問です。ペンネーム『安全と安心どっちも欲しい』さんから。『皆さまの議論を聞いて、「安全」と「安心」は違うものなのだと感じました。科学的にリスクが低いという「安全」だけでは、人は満足できないのでしょうか?「安心」のためには、何が必要なのだと思われますか?』…これは、核心を突く質問ですね。いかがでしょう、どなたからでも結構です」
吉宗:「ふむ、『安全』と『安心』か…。確かに、似ているようで違うものじゃな。わしの考えでは、『安全』とは、客観的な事実…例えば、この食べ物に毒はない、病を引き起こす菌はおらぬ、といった、確かな証拠に基づいた状態を指すのであろう。一方で、『安心』とは、主観的な心の状態…この食べ物は大丈夫だ、これを食べても自分は健康でいられる、と信じられる気持ちのことではないか」
パストゥール:「ほう、将軍、見事な定義だ。科学者としては、まずは客観的な『安全』を追求するのが務めだ。リスクを可能な限りゼロに近づける努力をしなければならない。しかし、それだけでは不十分だということも、これまでの議論で痛感したよ。人々がその『安全』を信じ、受け入れなければ、真の意味での『安心』には繋がらんのだ」
ゼンメルワイス:「そのためには、やはり『信頼』が必要なのではないでしょうか。食品を作る人、売る人、そして情報を提供する専門家や行政…。それらの人々が、誠実であり、嘘をつかず、責任感を持って行動していると信じられること。その信頼があって初めて、人々は『安心』して、その食べ物を口にできるのだと思います」
メアリー:「そうね…そして、その信頼は、一方的に与えられるものじゃないわ。ちゃんと『対話』すること…私たちの声を聞いてくれること、疑問に正直に答えてくれること、そして、もし間違いがあった時には、それを認めて謝ってくれること…。そういう、人と人としての、当たり前の繋がりがあってこそ、生まれるものじゃないかしら。『安全』なのは分かるけど、なんだか冷たくて、信用できない…そう感じてしまったら、『安心』はできないもの」
あすか:「客観的な『安全』の確保。そして、それを支える『信頼』と『対話』によって生まれる主観的な『安心』…。なるほど、『安全』と『安心』、その両輪が揃って初めて、私たちは心から食卓を楽しめるのかもしれませんね。『安全と安心どっちも欲しい』さん、そして皆さま、非常に示唆に富むご意見、ありがとうございました!」
あすか:「いやー、質問コーナーも、本編に負けず劣らず、中身の濃い時間となりました!皆さま、視聴者からの鋭い質問に、真摯に答えていただき、本当にありがとうございました!」
(質問コーナー終了のジングルが流れ、対談者たちは安堵の表情を浮かべる)