ラウンド3:激論!誰が「安全」を守るのか?…科学vs政治vs現場vs個人
あすか:「『歴史バトルロワイヤル』、いよいよ運命のRound3!ここが正念場ですよ、皆さん!Round2では、食中毒や疫病を引き起こす『見えない敵』の正体について、そしてそれを特定することの難しさが見えてきました。では、その原因を踏まえた上で、最も重要な問題…食の安全は、一体『誰が』『どうやって』守るべきなのか?科学か?政治か?現場の意識か?それとも個人の責任…?さあ、遠慮はいりません!皆さんの本音、理想、そして譲れない一線を、今こそぶつけ合ってください!」(少し煽るように、スタジオ全体を見渡す)
パストゥール:(待ってましたとばかりに、口火を切る)「議論の余地はない!食の安全を守る基本は、科学的根拠に基づいた厳格な基準と法規制、これに尽きる!そして、それを断行するのは国家の責務だ!」
あすか:「国家主導、そして科学的根拠!パストゥールさんらしい、明快なご意見ですね!」
パストゥール:「当然だ!微生物の種類、その増殖条件、有効な殺菌方法…これらは全て科学的に解明できる。ならば、その知見に基づき、食品の製造から流通、調理に至るまで、明確な衛生基準を法で定め、違反者には厳罰をもって臨むべきなのだ!曖昧な精神論や経験則に頼っていては、いつまで経っても悲劇は繰り返されるぞ!」
吉宗:(パストゥールの言葉を遮るように、静かに、しかし強い口調で)「待たれよ、パスツール殿。そなたの言う『科学』とやらの力は認めよう。じゃが、法や基準だけで、世の中は動かぬ。民の暮らしというものを、忘れてはならん」
パストゥール:「将軍、それはどういう意味かな?」
吉宗:「どんなに立派な法を作ろうとも、それが民の生活実態とかけ離れていたり、実行があまりに困難であったりすれば、誰も従いはせぬ。かえって抜け道を探したり、隠したりする者を増やすだけじゃ。それでは意味がないどころか、有害でさえある。為政者は、理想を掲げるだけでなく、民の現実を見据え、その声に耳を傾けねばならぬ」
あすか:「なるほど…トップダウンの規制だけではダメだと。吉宗公は、やはり民の視点を重視されるんですね」
吉宗:「左様。わしが設けた目安箱のように、民が何を考え、何に苦しんでいるのかを知る努力が必要じゃ。そして、新しい決まり事を導入するにしても、なぜそれが必要なのかを丁寧に説明し、納得を得ながら進める。時には、段階を踏むことも必要であろう。食の安全も大事じゃが、そのために民が飢えたり、商いが立ち行かなくなったりしては本末転倒じゃ。『食の安定』という大前提があってこその『安全』ではないか?」
パストゥール:「将軍!そのような甘い考えでは、いつまで経っても衛生レベルは向上せんぞ!疫病が一度蔓延すれば、それこそ民の命と国の安定が根底から揺らぐのだ!時には、短期的な痛みを伴っても、公衆衛生という全体の利益のために、国家が強い意志をもって改革を断行せねばならん時がある!個人の自由や経済活動も、公衆の安全の前には制限されてしかるべき場合もあるのだ!」(語気を強める)
メアリー:(パストゥールの言葉に、カッと顔を上げる)「制限されてしかるべきですって!?あなたは簡単に言うけれど、制限される側の気持ちが分かるの!?私のように、理由もよく分からないまま『危険だ』と決めつけられて、仕事も、自由も、全部奪われる人間の気持ちが!」
パストゥール:「メアリー君、君の個人的な不幸は気の毒に思う。しかし、君のような健康保菌者が野放しになっていれば、一体どれだけの人間がチフスに感染し、命を落とすか分からんのだぞ!君一人の自由のために、社会全体がそのリスクを負うことは許されん!非情に聞こえるかもしれんが、それが公衆衛生というものだ!」
メアリー:「非情よ!まさに非情だわ!私は犯罪者じゃない!病気を広めようとなんて、これっぽっちも思っていない!なのに、なぜ社会の敵みたいに言われなきゃならないの!?生活の保障も、他の仕事の斡旋もなく、ただ『危険だから出ていけ、閉じ込める』なんて…そんなの、あんまりじゃない!」(涙ながらに訴える)
ゼンメルワイス:(メアリーの言葉に深く頷き、そしてパストゥールに向き直る)「パスツール先生、そして将軍…お二人の意見も、それぞれ一理あります。法や制度も、民意の尊重も重要でしょう。しかし、私が最も重要だと考えるのは、実際に食品を扱い、人々の健康に直接関わる『現場の人間』の意識と倫理観です!」
あすか:「現場の意識と倫理観…ゼンメルワイス先生ならではの視点ですね」
ゼンメルワイス:「そうです!どれほど優れた法や基準があっても、どれほど民衆の理解が進んでも、現場の医師が、料理人が、食品工場の従業員が、その意味を理解し、責任感を持って実践しなければ、絵に描いた餅に過ぎません!私が経験したように、たとえ上司や権威者が間違ったことを言っていても、科学的根拠と自身の良心に従い、『やるべきこと』を断固として実行する勇気!これこそが、食の安全を守る最後の砦なのです!」
吉宗:「ほう、現場の心構えが一番と申すか。しかし、ゼンメルワイス殿、その心構えを、どうやって全ての人間に持たせるというのだ?人は弱いものじゃぞ。つい、楽な方へ流れたり、見て見ぬふりをしたりもする」
ゼンメルワイス:「だからこそ、教育と、そして、内部からの声を上げやすい環境が必要なのです!なぜ衛生管理が必要なのか、その科学的根拠をしっかりと教え込むこと。そして、もし問題点に気づいた者がいれば、それを恐れずに指摘し、改善を促せるような…そんな組織文化を作ることです!私のように、正しいことを訴えた者が潰されるような社会では、現場の意識など向上するはずがありません!」(自身の経験を重ね、声を荒らげる)
パストゥール:「ふむ、教育の重要性は私も同感だ。国民全体の科学リテラシーが向上すれば、怪しげな迷信に惑わされることも減るだろう。だが、倫理観だけに頼るのは危険ではないかね?やはり、それを担保するための厳格な監視と罰則は必要不可欠だと私は思うが」
ゼンメルワイス:「罰則も時には必要でしょう。しかし、罰を恐れて仕方なくやる衛生管理と、自らの責任感と倫理観に基づいて行う衛生管理とでは、その質が全く異なります!私は、後者を信じたい!」
メアリー:(ゼンメルワイスに向かって)「倫理観ですって…?先生、あなたは私の気持ちが分かると言ってくれたわよね?でも、結局は、先生も私のような人間を『危険だから管理しなければならない』対象として見ているんでしょう!?あなたの言う『現場の倫理』って、結局は、私みたいな弱い立場の人間を、一方的に排除するための言い訳じゃないの!?」
ゼンメルワイス:(メアリーの言葉に、苦しげな表情を浮かべる)「メアリーさん!それは違う!私は…私は、あなたのような経験をした人間だからこそ、分かるのです!社会から理解されず、孤立する辛さが!だからこそ、あなたの権利も守られなければならないと思う!しかし…!しかし、現実にあなたが持つ菌が、他の人の命を脅かす可能性がある以上、それを無視することも、医師としての私の倫理が許さないのです!この葛藤が…あなたには分かりますか…!?」
吉宗:「ううむ…科学の正しさ、為政者の責任、現場の倫理、そして個人の権利…。どれもが、それぞれの理を持っている。だが、それらが真っ向から対立する時、一体、何を優先すべきなのか…まこと、難しき問題じゃ…」
パストゥール:「優先すべきは、公衆の安全!最大多数の最大幸福だ!感傷に流されてはならん!」
メアリー:「その『最大多数』のために、犠牲になる少数の痛みは、どうでもいいっていうの!?」
吉宗:「いや、犠牲を強いるからには、それ相応の配慮と手立てがあってしかるべきじゃろう!」
ゼンメルワイス:「しかし、その配慮のために、取るべき対策が遅れては、更なる犠牲者を生むことにもなりかねん!」
(4人の議論は最高潮に達し、互いに激しい言葉をぶつけ合う。パストゥールは科学的合理性を盾に譲らず、吉宗は民の暮らしと現実を訴え、ゼンメルワイスは現場の倫理と苦悩を叫び、メアリーは個人の尊厳と権利を涙ながらに主張する。スタジオには、緊迫した空気が張り詰めている。)
あすか:(白熱する議論の間に入り、両手を広げて制止する)「皆さん、皆さん!ストップ、ストップ!お気持ちは痛いほど分かります!それぞれの立場からの、魂の叫び、しかと受け止めました!…ですが、あまりにヒートアップしすぎです!このままでは、結論が出る前に、皆さん燃え尽きてしまいますよ!」
あすか:「ここは一度、頭を冷やしましょう。幸い、時空修復師さんたちが、皆さまのために、それぞれの時代を反映した特別な休憩室を用意してくれています。美味しいお茶でも飲みながら、少しだけ、この激しい議論を忘れてみませんか?」
あすか:「というわけで、ここで一旦、幕間休憩とさせていただきます!熱くなりすぎた英雄たちの、束の間の休息。そして、後半戦では、この激論を踏まえ、未来への教訓を探っていきたいと思います!皆さん、後半も、お見逃しなく!」
(幕間休憩への移行を示すジングルが流れ、白熱していたスタジオの照明が少し落とされる。対談者たちは、まだ興奮冷めやらぬ様子ながらも、あすかの言葉に従い、重い腰を上げ始める。)




