表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/9

ラウンド2:『見えない敵』との闘い…原因は何か?

あすか:「さあ、『歴史バトルロワイヤル』、Round2のゴングが鳴りました!Round1では、皆さまが生きた時代の食と衛生の厳しい現実が明らかになりましたね。腐敗した食べ物、原因不明の疫病、飢饉の恐怖…。では、その苦しみをもたらす『原因』について、皆さまはどう考え、どう立ち向かおうとしたのでしょうか?テーマは『見えない敵との闘い-原因は何か?』です!」


あすか:「まずはやはり、この『見えない敵』の正体を世界で初めて科学的に突き止めた、パストゥールさんにお伺いしないわけにはいきません!博士、食品が腐ったり、人が病気になったりする本当の原因、教えてください!」


パストゥール:(待ってましたとばかりに、少し身を乗り出す)「よろしい!諸君、そして未来の視聴者の皆さん、よく聞きたまえ!長い間、人々は生命が泥や汚物から『自然発生』すると信じてきた。しかし、それは全くの誤りだ!私が行った数々の厳密な実験によって、それは完全に否定されたのだ!」


あすか:「フラスコを使った有名な実験ですね!空中のホコリが入らないようにしたら、肉汁は腐らなかった…」


パストゥール:「その通り!つまり、腐敗も、そして多くの病気も、我々の目には見えない、極めて小さな『微生物』によって引き起こされるのだ!空気中にも、水中にも、そして我々の手や体にも、無数の微生物が存在している。普段は無害なものも多いが、中にはワインを酸っぱくする厄介者や、我々の体内で増殖して病を引き起こす、まさしく『病原菌』と呼ぶべきものが存在する!」(力強く断言する)


吉宗:(眉間にしわを寄せ)「びせいぶつ…?病原菌…?それは、どれほど小さいものなのだ?米粒よりもか?」


パストゥール:「将軍、米粒どころの話ではない!特殊な拡大鏡…顕微鏡を使わねば、その姿を見ることは断じて不可能だ!しかし、顕微鏡を覗けば、そこには驚くべき別世界が広がっている!ウニョウニョと動き回る小さな生命体が、確かに存在するのだよ!これこそが、発酵や腐敗、そして伝染病の真犯人なのだ!」


メアリー:(信じられないという表情で)「顕微鏡…?そんなものでないと見えないものが、人を殺すなんて…」


パストゥール:「疑う気持ちも分からんでもない。だが、事実なのだ!例えば、私が開発した低温殺菌法…パスチャライゼーションは、牛乳やワインを約60~70℃で短時間加熱することで、風味や栄養を極力損なわずに、有害な微生物だけを選択的に殺す方法だ。これにより、安全な食品を、より長く保存することが可能になった。これも、原因である微生物の性質を理解したからこそ、成し得たことなのだよ!」


あすか:「原因が分かれば、対策も立てられる!まさに科学の勝利ですね!…その『見えない敵』の存在、そしてそれが『人から人へ』、あるいは『物から人へ』伝わることを、ご自身の経験から痛感されていたのが、ゼンメルワイス先生ですよね?」


ゼンメルワイス:(パストゥールの言葉を受け、静かに、しかし強い意志を込めて語り始める)「ええ…。パスツール先生が理論的に証明されるより少し前、私はウィーンの産科病棟で、その『見えない何か』の恐ろしさを目の当たりにしていました。先ほども申し上げた通り、医師や学生が関わる第一科の産褥熱死亡率は、助産師のみの第二科に比べて異常に高かった…」


あすか:「その原因が、病理解剖後の医師の手指にあった、と…」


ゼンメルワイス:「そうです。当初は『瘴気(悪い空気)』のようなものが原因だと考えられていました。しかし、それなら同じ病院内の第二科の死亡率も高くなるはず。だが、現実は違った。私は、あらゆる可能性を比較検討し、データを徹底的に分析しました。そして、一つの仮説にたどり着いたのです。それは、解剖された死体に含まれる、目に見えない『死体粒子』が、医師の手を介して、産婦の体内に持ち込まれているのではないか、と」


吉宗:(険しい顔で)「死体…の粒子とな?それが、生きている人間に害をなすのか?」


ゼンメルワイス:「私にも、最初は信じがたいことでした。しかし、もしそれが真実ならば、対策は一つ。医師が産婦に触れる前に、手指を徹底的に消毒することだ、と。私は、塩素系の漂白剤溶液を導入し、解剖の後だけでなく、患者に触れる前には必ずそれで手を洗うよう、学生たちに指示しました。もちろん、猛反発を受けましたよ。『医師の手が汚いなどとは侮辱だ!』とね」


パストゥール:(頷きながら)「目に浮かぶようだ…無知とプライドが、真実から目を背けさせるのだ」


ゼンメルワイス:「しかし、私は諦めなかった。そして、結果は…明白でした!死亡率は、みるみるうちに低下し、第二科とほぼ同じレベルになったのです!データは嘘をつきません!手を洗う、ただそれだけで、救える命があったのです!これ以上の証拠がありましょうか!?」(感情が高ぶり、テーブルを叩きそうになるのを堪える)


あすか:「データに基づいた先生の主張、本当に説得力があります…。でも、それでも医学界は認めなかった…」


ゼンメルワイス:「…ええ。パスツール先生のような偉大な科学者による、微生物という『明確な原因物質』の発見が、もう少し早ければ…私の『死体粒子』という漠然とした仮説も、もっと受け入れられたのかもしれません。しかし、当時は…」(再び言葉を失う)


あすか:「本当の原因が見えず、分からなかった時代の苦しみ…吉宗公の時代はいかがでしたか?疫病が流行った時、人々は何が原因だと考えていたのでしょう?」


吉宗:「うむ…パスツール殿やゼンメルワイス殿の話を聞くと、我らの時代の考えは、まこと幼稚に聞こえるやもしれぬな。じゃが、民も我らも、ただ手をこまねいていたわけではない」


あすか:「と言いますと?」


吉宗:「はやり病が起これば、まず考えたのは『たたり』や『悪霊』の仕業ではないか、ということじゃ。あるいは、天に対して何か不敬があったのではないかと。ゆえに、神仏に祈り、お祓いをし、罪人の赦免なども行った」


パストゥール:(呆れたように)「祈祷で病原菌が退散するとでも?」


吉宗:「まあ、そう熱くなるな、異国の学者殿。それだけではない。経験から、特定の食べ物…例えば、傷んだ魚介類や、変わった色のキノコなどを食べると腹を壊すことは知られておったから、『食べ合わせの悪さ』や『食あたり』という考えもあった。また、じめじめした土地や、汚れた水辺には『瘴気しょうき』と呼ばれる悪い気が立ち込め、それが病を引き起こすとも考えられておったな」


ゼンメルワイス:「瘴気説…私の時代にも、まだ根強く残っていました。換気を良くすることは、ある程度の効果はあったでしょうが、根本的な原因ではありませんでしたね」


吉宗:「うむ。ゆえに、対策としては、怪しい食べ物を避けさせ、病人が出た家は注連縄しめなわを張って他の者が近づかぬようにし、時には村ごと隔離するようなこともあった。小石川養生所でも、薬を与えるだけでなく、清潔を保つよう指導はしておったが…その『清潔』が、なぜ病を防ぐのかまでは、分かっておらなんだ。目安箱にも、病の原因についての様々な憶測や、怪しげな治療法の情報などが投書されたものよ」


あすか:「科学的根拠はなくても、人々は経験から、なんとか原因を探り、対策を取ろうとしていたんですね…」


吉宗:「左様。じゃが、パスツール殿の言う『びせいぶつ』なるものが真の原因と聞かされれば…正直、驚きを隠せぬ。そんな、人の目にも見えぬほど小さなものが、飢饉よりも恐ろしい力を持つとは、にわかには信じがたい話じゃ。民がそれを理解し、納得するには、相当な骨が折れるであろうな」


あすか:「見えないものを信じる難しさ…。それは、メアリーさんも強く感じていらっしゃったのではないでしょうか?あなたの場合、ご自身に全く症状がなかったのに、『チフス菌』という見えないものの運び手だと…」


メアリー:(吉宗の言葉に頷きながら、ぽつりぽつりと話し始める)「ええ…まさに、その通りよ。あの日、突然やってきた衛生官のソーパーさんという人は、私に言ったわ。『あなたが原因で、たくさんの人がチフスになっている。あなたはチフス菌を持っているんだ』って。でも、私、ピンピンしていたのよ?熱もないし、お腹も痛くない。いつも通り、元気に働いていたわ。それなのに…」


パストゥール:「それは、君が『健康保菌者』だったからだ。体内に病原菌を持っていても、発病しない人間がいることは、我々の研究でも分かっている。だが、菌は排泄物などを通じて体外に出され、それが食品や水を汚染すれば、他の人に感染を広げてしまうのだ」


メアリー:「健康…保菌者?そんな言葉、初めて聞いたわ。ソーパーさんも、そんな難しい説明はしてくれなかった。『とにかく菌がいるんだ、危険なんだ』って、一方的に…。菌がいるって言われても、私には何も見えないし、何も感じないの!それでどうして、はいそうですかって信じられる?」(語気が強くなる)


ゼンメルワイス:「…気持ちは分かります、メアリーさん。見えないものを、しかも自分自身に関わる悪いことを、証拠もなく信じろと言われても、難しいでしょう。ましてや、それが原因で職を奪われ、自由を奪われるとなれば…」


メアリー:「そうなのよ!あの人たちは、私の言い分なんて、これっぽっちも聞こうとしなかったわ。『検査を受けろ』『料理人なんてやめろ』『言うことを聞かないなら、強制的に隔離する』って…。まるで、私が悪いことをした犯罪者みたいに!私はただ、一生懸命生きていただけなのに!なぜ、私がそんな目に遭わなきゃいけないの!?」(涙ぐむ)


あすか:(メアリーの肩にそっと手を触れながら)「メアリーさん…。科学的な真実と、個人の感情や現実との間には、深い溝があるんですね…。原因が『見えない』からこそ、それを特定し、社会に受け入れてもらうことの難しさが、皆さまのお話から改めて浮き彫りになった気がします」


パストゥール:「しかし、感情論だけでは、公衆衛生は守れん!科学的根拠に基づき、時には非情な判断も必要となるのだ!」


吉宗:「じゃがパスツール殿、その『非情な判断』が、民の心を離反させては、元も子もないではないか?やはり、丁寧な説明と、納得を得る努力が必要不可欠じゃろう」


ゼンメルワイス:「…その通りです、将軍。私に足りなかったのは、もしかしたら、それだったのかもしれません。正しいと信じるあまり、周囲への説明や理解を求める努力を怠った…その結果が、あの悲劇を招いた一因なのかもしれない…」(深く考え込む)


あすか:「原因を突き止めることの重要性、そして、その真実をどう社会に伝え、受け入れてもらうかという、さらなる課題…。Round2、非常に深い議論になりました。さあ、原因が見えてきたところで、いよいよ次は『対策』です!食の安全は、一体『誰が』『どうやって』守るべきなのか?科学か?政治か?それとも…?Round3、激論!『誰が「安全」を守るのか?』で、さらにヒートアップしていただきましょう!」


(Round2終了のジングル。メアリーはまだ俯き、パストゥールと吉宗は互いを見据え、ゼンメルワイスは何かを決意したような表情を見せている。)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ