卯が好きな辰
「なぁ卯よ、いつになったら我輩に振り向いてくれるんだ?」
12月31日。辰が12年で唯一卯と会う日だ。
「12年前にも言ったけど、私とあなたじゃ釣り合わないの!」
卯は自分よりも遥か上空に存在する辰を見上げ答えた。
「それ、12年考えたんだが、何が釣り合っていないのかさっぱり分からん。卯は周りに優しく気遣いもできるし、我輩はそれを見習って人々にたくさんの幸せを与えられるよう尽くしてきた。それに卯をただひたすら想い続ける一途さもある。何がいけないんだ。」
12月31日から1月1日になるこの間だけ僅かに会話する2人。
辰が卯に想いを伝えるのはこれで何度目だろう。
「それは、その、あれよ!身長とか?形状とか?全然違うじゃない。」
「なんだ?見た目の話か?確かに我輩だけたまに架空の生物などと言うやつもおるな。よし、其方の身長に合わせてみよう。」
辰はそう言うと卯とさほど変わらない大きさに変身した。
「そういうところが架空とか伝説のとか言われちゃうんでしょ。ほら、小さくなったら身体のバランスがおかしくなっちゃったじゃない。手と足と尻尾をなんかこう、上手いことできないの?」
「そうだなぁ。やってみるか。」
小さめの辰は前足を大きくし、後ろ足も同様に付けた。
しかし、何か物足りない。
卯は辰に提案をする。
「いっそ翼とか付けてみる?」
「お安い御用さ。」
メキメキと辰の背中から翼が生えた。
「まるでドラコンね。まぁ、ドラゴンも龍みたいなもんだし。」
ドラゴン化した辰は卯に向き直り、真剣な眼差しで卯を見つめた。
「なぁ、卯よ。我輩と一緒にならないか?」
「…考えてあげても良いわよ。」
辰の顔がパッと明るくなった。
「よーし、それでは早速デートだ!デートに行くぞ!卯よ!」
卯の手を取り辰は走り出そうと・・・飛び立とうとする。
卯は焦ったように辰に問いかける。
「ちょっと!来年の干支はあなたなのよ!仕事はどうするの!」
「そんなもん巳に我輩のコスプレでもさせとけばなんとかなる!同じようなもんだろ。」
よくない話を聞きつけて猛スピードで走る巳が現れた。
「辰様!それは無理がありますって〜!!私に辰様の貫禄は出せません!」
「じゃあ宜しく頼むぞ〜」
辰は卯を連れて旅立ってしまった。
「そんな〜!!」
巳の悲痛な叫びと共に始まる新年。
果たして上手くいくのか。
今年も辰はもしかすると、巳が化けているかもしれない・・・