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007.作戦会議という名の被害者の会 前編

 サークルでの集まり。誘われはするものの、ここ最近は出席率がさほど高くなかった私。指定された店に行く。当事者だし、と思って早めに来たのに、みんな揃ってる。どういうこと? なんで皆着席してるの? 罠?

 

「凛子こっちー」

 

 名を呼ばれたほうを見ると喜美子が手を振っていた。ポンポンと叩かれた隣の席に座る。どうも、お邪魔します。

 見知った顔が並んでいた。当然だけど、光太郎と阿津子の顔はない。分かってるのにほっとする。自分が思う以上にストレスを感じてるのだと認識させられて、不快感が増す。それにこれから皆に事情を説明しなくちゃいけない。少し緊張する。

 そんな私の心情を察したのか、喜美子が肩を叩いてきた。

 

「あ、ざっと伝えてあるから説明の必要ないからね」

「え?」

 

 ……それならなんで集まって……。

 

「作戦会議よ、馬鹿ねー」

 

 周囲も頷く。

 え? 作戦会議? なんの?

 

 誰かが頼んだのか、どんどん飲み物が配られる。流れるようにして渡されたグラスを手にする。さすがに乾杯はないらしく、誰かがお疲れー! と言い、それに合わせてお疲れーと返して飲み始める。……この会の主題が分からなくなってきた。


「遂に阿津子も馬脚を現したかーって感じだよね」

「っていうか皆知ってたけどね」

「言ってなかったけど、元カレ取られたことあるよ」

「え?! そうなの?!」


 さらっと爆弾発言が出てきた。

 

「もう別れようと思ってたから言わなかったの」

「実は私もーー」

 

 まさかの阿津子被害者の会が結成される?!

 

「カレだってどうかと思うのに、婚約者を寝取るとか、ありえないよ」

「子供も絶対計画的だよね」

「あざといわー」

「頭おかしい」

 

 喜美子の言うとおり、皆知ってるみたいで、いつ言おうかと考えてたからちょっと肩の力が抜ける。

 それにしても皆、遠慮なく罵る。

 

「結婚式どうすんの?」

「式場には連絡したよ。私との結婚はあっち理由でなくなったから、今後はあっちに連絡してくれって」

 

 それだけはすぐにした。キャンセル料も発生してるから、光太郎に払ってもらう。連絡がいってるはず。

 

「阿津子のことだからそのまま結婚したりして」

「確かに凛子の式のプランとか褒めちぎってたもんねー」

 

 冗談混じりに話していて、そこで皆、真顔になる。

 

「……まさかね?」

「もしさー、来たらどうする?」

「行くわけないでしょ」

 

 ナイナイ、と満場一致で話していると、「スマン、遅れた!」と言って入って来た奴が。

 紗里に話していたオレ様だ。

 

 私と目が合うと、人をかき分けて私の隣までやって来た。なんで?

 

「久しぶりだな」

「久しぶり」

「あんまり参加しないもんな」

「まぁね」

 

 結婚もなくなって暇になるし、これからは飲み会参加もいいかもしれないけど、一人でも生きていけるように資格取得とか頑張ろうかなぁ。

 

「祝、婚約破棄」

「何言ってんの、捨てられたんだよ、こっちは」


 自嘲気味にそう言えば、喜美子がむっとした顔をする。

 

唯山ゆいやまさ、凛子どう?」

「どうって、彼女ってこと?」


 そうそう、と喜美子が返す。


「お互い性格もよく知ってるんだし、なんならそのまま結婚すれば?」

「何言ってんの喜美子、酔うのはやすぎ」


 オレ様こと唯山蒼司は私をじっと見る。

 ちょ、見るな。

 

「緑川はさ、結婚したら仕事続けたい派?」

「え? うん、続けたい」

「子供ができても?」

「うん、大変そうだとは思ってるけど」

 

 え? なんなのかな、この質問。

 

「たとえば二人とも忙しくて手が回らないときはシッターに頼むのも許容できる人? 家に他人が入るのは嫌いだったりする?」

「好きではないけど、それは仕方ないんじゃないの?」

 

 まず一番の問題は費用なんじゃないかな。シッター使いたいって思っても先立つものが必要で、それを払うならというのが今の世の中の問題の一つだと思う。使いたい母親は多いだろうけど、日本って母性神話みたいなのあるし。父性どこいったんだと言いたい。


「料理得意?」

「正直苦手」

「料理好きな男は?」

「いいと思う、作ってくれるなら」

 

 そう、作ってくれるなら。作れるのに作らないで文句言う奴は絶対嫌。

 光太郎が料理が全く駄目で私が作ってたけど。作るものに文句を言われたことはなかったから、結婚後に料理当番になっても仕方ないとは思ってた。

 

「潔癖気味なのは?」

「掃除をこっちにやらせるならナシ」

 

 己の理想は己で追ってほしい。

 シーツ毎日替えたい派なんだーと言いつつ私にやらせようとするならありえない。

 同じ水準を私に求められるのも困る。

 

「家事が得意な男は気にならないってことでオッケー?」

「こっちに過剰に求められたら嫌だけど……。なんの問題が?」

 

 共働きなら助かるのでは? なんだかんだ女性ばかりがやってるのが現状だと思うんだよね。

 

「っていうかなに? この尋問?」

 

 さっきまではスラスラと話していたのに、唯山は気まずそうな顔をする。

 

「……実は今、海外関係の案件プロジェクトのリーダーになれるかどうかの瀬戸際なんだが」

 

 表情と、突如変わった表情に訳ありであることを察する。

 

「パートナーがいることが当然でな?」

「そのパートナーと破局したとかそういう?」

 

 唯山はこくんと頷いた。

 

「なんで駄目になったの?」

「それは……」

 

 みるみる唯山の顔が赤くなる。

 え? 変なこと聞いた? いや、デリケートな問題に軽々しく聞いたとは思うけど、まさか……。

 

「刺繍が」

「ん?」

「刺繍が趣味なんだ」

 

 はーーっ?! と皆が同時に反応した。

 唯山は耳まで赤くして俯きがちにもごもごと話しはじめた。

 

「男らしい人だと思ったのに、気持ち悪いとかありえないとか言われてな……」

「え? なんで? 刺繍すごくない?」

 

 男性の手は女性より大きいし指だって太い。その手で刺繍はなかなかにすごいと思う。いや、なかなかどころかかなりすごい気がする。

 

「本当か?! 気持ち悪くないか?!」

「全然いいと思うけど……」

「それだけで惚れそう……っ」

 

 いや、それはちょっとどうかと思うけど……多様性だのなんだのと色々言われているけど、偏見というか、まだそういうのってあるよね。多様性だからそういった意見も受け入れるべきなんだろうけど、それならまず先に気持ち悪い発言がアウトだろうと思う。

 

「予想外すぎて驚き以外の感想がないわ」

 

 ぽつりと喜美子が呟くと、皆頷いた。

 

「実は私、DIY好きなんだよねー、何かあったら相談してほしい」

 

 ……と女子が言って、その後何故か実は私もー、と暴露?大会になった。それを見て唯山がほっとした顔をする。編み物男子はインスタとかで見たことあったけど、本当にいるのか。唯山の目がキラキラしてるのは気の所為だろうか。

 

「私に頼まなくても、分かってくれる人はいっぱいいそうだよ? 良かったね」


 唯山はじとっと私を見る。

 

「そんなこと言って本当はオレが嫌なんじゃ……」

「いや、そんなことはないけど、悲観しないで、ちゃんと将来のことを考えたほうがいいよって言いたいだけ」


 自分で言いながら自分に刺さる。痛い。

 そんな気持ちを飲み込むようにビールを飲む。

 

「冗談抜きでオレと付き合わないか?」


 真剣な表情の唯山に、プロジェクトの件もあるからパートナーが必要なのは事実なんだろうなと。

 

「婚約破棄されてすぐ新しい人とってなると、疑われそうで、不利になりそう」

「ここにいる全員が証人になるだろ」

 

 いやまぁ、そうなんだけど。

 

「実はね」

 

 喜美子が私の肩をぽんと叩く。

 

「さっきので分かったと思うけど、阿津子による被害を受けた人間は、他にもいるんだよね」

「えっ」

 

 私入れて三人から奪うだけでも大概なのに、まだいるの?!

 

「この会はね、正真正銘の、馬場阿津子被害者の会であり、あの厚顔無恥な二人にやり返してやろうという会なのよ」

 

 どや顔の喜美子に、なんだか納得もする。

 決まるの早いし、出席率高いし、なんなんだろうとは思ってた。

 

「婚約を破棄されて傷心の凛子を慰めているうちに仲が深まったなんて、よくある話じゃない?」

「それで阿津子が唯山を狙ったらどうする?」


 皆の視線が唯山に注がれる。唯山は心底嫌だという顔で首を横に振る。

 

「絶対嫌だ。昔言い寄られたことあるけど、その時も断ってる」

 

 知らなかった。

 こうして久々に会って話していると、やっぱり知らないことが多いなと感じる。月日の流れに当然だと思うけど、少し寂しくもある。

 

「もし取れたら、なんだけど」

 

体調を崩しておりまして、なかなか更新できませんでした。申し訳ありません。

まだ完治はしていない為、今後も不定期ではありますが、完結させるつもりでおります。

長い目で見ていただけますと嬉しいです。

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