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私達はいつだって正解を探してる  作者: 黛ちまた


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番外編.ソウタシエ

「おはよう、凛子」

「おはよう」

 

 頬とおでこにキスされる。

 恋人になってからの蒼司は甘い。甘すぎて私が砂糖を吐きそうだ。私に人の好感度を測定するスカウター的なものがなくても分かる。この人、私のこと好きすぎる。私の、ポンコツなところを愛しすぎてる。

 本当になんなんだろうか、このおかん気質というか、ダメンズメーカー的な尽くし体質は。自分がいないと駄目なんだ、というところにとてつもなく満足感というか存在意義みたいなものを感じるのだろうか。

 わざわざポンコツ相手にしなくても普通に承認欲求も自己肯定感もあるだろうに。

 

「今日は出社だな……、弁当は出来てるから、忘れないでくれ」

「うん、いつもありがとう」

 

 そんな今生の別れみたいな顔を毎回しなくても……。

 私と離れるのは嫌なのに、お弁当を作れるのは楽しくて仕方ないらしい。

 なお、キャラ弁とか、メッセージ弁当は止めてほしいとお願いしてある。同僚が奥さんと喧嘩して、翌日『バカ』と白米の上に海苔で書かれたお弁当を持ってきていて、自分もやられたら困ると思った。蒼司の場合は罵詈雑言の対極だろうけれど、それはそれで非常に困る。

 

「それからこれ」

 

 差し出されたのはなんとも豪華なネックレス。さすがにこれを会社につけていくのは……と思ったのだけれど、触り心地が金属じゃない。

 

「……刺繍?」

「ソウタシエだ」

「そうたしえ?」

 

 手を引かれて鏡の前に立たされる。

 蒼司は私の首にそのネックレスを着けてくれた。金属や宝石じゃないからか、光沢も抑えられていて、意外と平気な感じ。

 

「コード刺繍の中でも、平紐ソウタシエブレードを使った刺繍のことをソウタシエっていう。中世ヨーロッパからある刺繍の一つなんだ」

「へぇーっ」

 

 刺繍にも種類があるとは知っていたけれども、こんな華やかな刺繍もあるんだ。

 

「ビーズや天然石、パールなんかを囲んだりする」

「知らなかった」

「国賓の衣装に袖や襟に紐で施された刺繍があるだろう、あれもそうだ」

「あぁ、あれ!」

 

 名前は知らなかったけれど、見たことあった。

 

「凛子は宝石類をあまり好まないからな、オレの趣味も兼ねてソウタシエのブローチや髪飾り、ピアスを作ればいいんだと思い付いた。ありがとう、ドリ・チャングリ」

 

 ドヤ顔の蒼司。

 私を飾ろう、ということは諦めないんだね。そしてドリ・チャングリってなんだろう。







 私のネックレスに目敏く気付いた先輩に話しかけられた。

 

「金属、じゃない感じ?」

「ソウタシエ、という刺繍だそうです」

 

 蒼司に教えてもらった説明をそのまま話すと、納得された。

 

「そのソウタシエにGPSとか付いてそうだよね」

「え!? 私はそこまで方向音痴じゃないです」

 

 さすがにそこまでポンコツじゃない!

 

「心配する点はそこじゃない。ストーキングされてるかもしれないのよ? 婚約者に」

 

 あれ、ヤンデレまで付与されそうになってるぞ、蒼司。でも蒼司だからヤンデレというよりは、純粋に私のポンコツ具合を心配し、愛でている気がする。複雑……。

 

「GPSはついてないと思いますが、元婚約者のことがあるので、助けに来てくれそうでありがたいです」

「あぁ、そうね。なんならバッグの中にAirTagも入ってそうだし」

「入ってますよ?」

「入ってんの!?」

「はい、私、ものを失くしやすいので」

「なんだ、自分のか」

 

 ほっとする先輩に苦笑する。

 アレは本来、紛失時用のものですよ、先輩。

 

「今日も愛妻弁当ならぬ愛夫弁当なんでしょ?」

「まだ結婚してません」

 

 愛夫とか初めて聞いたな。愛妻家は聞くのに。家父長制度って根深い。

 

「じゃあ恋人弁当ね」

「普通に手作り弁当じゃ駄目なんですか……」

「だって愛情こもってるのが分かるから、そこは省けないわよ」

 

 確かに愛情というか、凄まじい手間がかけられたお弁当だなとは毎回思う。

 

「愛されてるの羨ましいと思ってたけど、さすがにここまでくると凄いね。嫌じゃないの?」

「私料理嫌いなので」

 

 蒼司のごはんは美味しいし見た目も良いし栄養についても考えられてる。最近は一緒に作ったりもする。教えてもらって、前よりは料理が楽しくなったけれど、一人で料理するのは想像できなくなってしまったんだよね。

 

「ただの金持ちじゃないもんね、スパダリを超えてる」

「おかんっぽいなっていつも思ってます」

「それだ!」

 

 今日のお弁当も大変手がこんでいて、美味しゅうございました。お弁当を作ってもらってる者達に言いたい。食べる専門の私が言うのもなんだけれども、お弁当は手間暇かかってます。当たり前だと思ってはいかん。

 ……さて、帰りに季節の素材でも買って帰ろうかな。何食べたい? という質問に何でもいいと答えるのは駄目だから。







 帰りに寄った成城石井で豆とピクルスのサラダを見つけた。こういったものを買って帰ると蒼司がライバル意識を持つので買わない。でも美味しそう。

 うーん……ミックスビーンズとピクルスを買って帰って蒼司と一緒に作ろう、そうしよう。

 

「凛子、おかえり」

 

 帰宅早々熱烈歓迎を受ける。

 

「蒼司、成城石井で豆とピクルスのサラダがあって美味しそうだったから、作りたい」

「おー、あれか!」

 

 知ってるのね。

 

「あれ、甘いから苦手なんだが、自作時は酸味強めにすればいいしな」

「え、あれ甘いの?」

「素材に思いっきり砂糖ってあるからな、ピクルスだからさっぱりめだと思って食べると悲しい思いをする」

 

 経験者談っぽいな。

 

「ちょうど今日は洋食の予定だったからちょうど良い」

 

 既に水煮してあるミックスビーンズと、あらみじん切りしたピクルスと玉ねぎ、それから好みの酸味強めのドレッシングであえてできあがり。

 

「美味しい」

「アヒージョと合う」

「うん、さっぱりしていいね」

 

 今日は蒼司の会社近くにあるパン屋さんのバゲットと、ブロッコリー、エリンギ、ミニトマトのアヒージョ、豆とピクルスのサラダ。デザートはハッサクのゼリー。

 

「ゼリー作るの面倒じゃないの?」

「果肉は少ししか切り分けてないから、ほとんど絞ってるだけだから大変じゃない」

 

 ……料理好きの大変と、料理嫌いの大変は、大変さのレベルが違うと感じた。なんというか、超えられない壁というか埋まらない溝というか。

 

「柑橘系の紙パックのジュースを買ってきて、飲むなりして少し減らし、粉ゼラチン入れればできるぞ、ゼリーなんて」

 

 3分クッキングみたいなノリで言ってるけど、騙されてはいけない。

 

「本当だって。レンジでも作れる」

 

 信じられないでいる私を見て、蒼司が苦笑する。

 

「明日買ってくるから一緒に作ろう。嘘じゃないって分かるから」

 

 別に実証実験までしなくてもいいのに。私の簡単とあなたの簡単はイコールじゃないと分かってるからね。

 

「そういえば先輩が、ソウタシエのネックレスにGPSでもついてるんじゃないかって言うんだよ。先輩の中の蒼司、だいぶおかしなことになってた」

 

 怒るかと思ったら蒼司が驚いた顔をしていた。

 

「その手が」

「ないからっ!」

「でも凛子が迷子になったり」

「Googleマップ使うから平気!」

 

 翌日、本当に紙パックのオレンジジュースと粉ゼラチンでレンジで作れた。嘘じゃなかった。砂糖は控えめに。

 でもね、大変じゃなかったけど、私は買ってきたゼリーを食べます。

 

 なお、出張先ではよく迷子になる。

 Googleマップ、ありがとう。

 

蒼司はヤンデレではないです。

超絶過保護なだけで。

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