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私達はいつだって正解を探してる  作者: 黛ちまた


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022.フラグ立てちゃったから、先制攻撃をしておく

 蒼司から聞いたところによると、私を除いた馬場阿津子被害者の会のメンバーで光太郎に交渉したらしい。

 

 結婚式に参加してもいい。以下の条件を飲むならば。

 ・一次会しか参加しない

 ・ご祝儀はなし

 ・永遠に凛子や自分達に近付かない

 

 サクラを呼ぶなら本物の友人に来てもらいたいだろう。元がつく関係だとしても。……いや、光太郎や阿津子の考えは分からないな。演技でも祝ってほしいからサクラを呼ぶかもしれない。

 

「どんな返事がくるんだろう」


 常識は人の数だけあるらしい。そんな言葉が何度となく頭に浮かぶのは、近頃自身に降りかかる出来事が想像の枠外だからだ。考えが及ばないというか、思いついてもまさか、と思ってしまうのだ。でもそれを光太郎も阿津子もやってのける。それも堂々と。その態度に自分の常識が揺らぐ。何故こんなことができるのか。何故自分の身に嘘みたいなことが次々と起こるのか──。

 

「アイツらの考える常識とオレ達の常識は違うようだからな……」

「そうみたいだね」


 考えることを放棄し、目の前の料理を口に運ぶ。 

 すっかり胃袋を蒼司に掴まれている私は、今日も今日とて美味しい料理に舌鼓を打っているわけです。

 

「明日出社だな。離れるのは寂しいが、凛子と同じ弁当を食べられるのは楽しみで、複雑だ」

「お弁当、そんなに頑張らなくていいんだよ?」

「凛子はオレと離れて寂しくないのか?」

「数時間も離れていられないわけないでしょ」

 

 大袈裟な蒼司に笑いつつ、明日の出社について考える。

 

「あれだね、約束する前に会いに来たりして」

「やめろ、フラグが立つ」

「フラグってなによ?」

 

 あれかな、オレ、この戦いが終わったら恋人にプロポーズするんだ、と言った同僚が命を落とすみたいな奴。

 

 蒼司は真剣な顔で「ありえるな」と呟く。

 

光太郎アイツは既に後悔してるんだもんな。そもそも結婚したくないと思い始めているとするなら、式前に凛子に接触するかもしれない。そうすれば約束を違えることはない。もう復縁してるんだから」

 

 自分で言っておいてなんだけど、そこまで本気で考えて口にしたわけじゃなかった。でも、光太郎が阿津子との関係を精算したいと思い始めているなら、十分ありえる話。子供ができたっていうのに、もし本当にそんな考えにたどり着くのなら、最低だ。ぞっとする。

 

「子供ができたんだから」

「それすら逃げたくなっていたらどうする?」

「天に召されたほうがいい」

「斬新な表現だ」

 

 勿論そんな結論に至らず、阿津子と子供に向き合い、勝手に生きてほしい。幸福までは願ってあげないけれど、不幸になれとまでは思っていない。早く無関係になりたい。

 好きの反対は無関心とはよく言ったもの。関心のない相手から望まぬ行動を取られることの煩わしさといったら。

 

 光太郎が凛子に言い寄ったらこう言ってやる、と言いたいことを次々と口にする蒼司を眺めながら、私もその時が来たら言ってやろうと思う。

 蒼司は光太郎と比べるのが申し訳ないぐらいに、何もかもが素晴らしくて、今更あなたとの関係を取り戻す意味がない、って。……ちょっと辛辣かな。でもそれぐらい言ったほうが希望の芽を根こそぎ潰せるかなと。

 そもそも現時点で弁護士さんから私と接点を持つなと言われているにも関わらず、直接交渉に来てしまうようなお馬鹿さんなのだ。やる時は徹底的にやったほうがいい。

 

「光太郎に伝えてもらっていい?」

「なにを?」

「私と付き合ってるって」

「伝えて良いのか?」

「秘密の関係にしたいなら、蒼司の仕事の都合が完了次第ここを出て行く」

 

 好感を抱いているとはいっても、恋愛感情にまでは育っていない。蒼司が本気じゃないなら深入りする前に終わらせる。

 

「まさか!」

 

 慌てた様子で蒼司は身を乗り出してきた。

 

「オレは言いふらしたいよ。凛子はまだそこまでの気持ちになってないのかもしれないと思っただけだ」

「それなら大丈夫。何とも思えない人を名前で呼んだりしないから」

 

 我ながら不思議な感覚なのだけれど、付き合うと決めるまでは蒼司をそういった目で見られなかったのに、今ではすっかり異性として見ている。

 

「光太郎のこともつい癖で名前で呼んでしまうけど、山下さんと呼ばないとだね」

 

 大学時代からの交際だから名前で読んでしまうけれど、私達はもう終わった関係だ。これからは名前ではなく苗字で呼ぼう。未練があると思われても嫌だし。

 

「凛子の中では、本当に終わってるんだな」

「阿津子との関係を伝えられた時に終わっていたんだけどね。癖って怖い」

 

 異性だろうと同性だろうと、親しみを込めて名前で呼ぶ人もいるし。私は親しくなっても異性を名前で呼ばない派だ。

 

 婚約破棄を言われた当初はめそめそしていたけれど、知れば知るほど、私は幸運だったとしか思えない。光太郎、阿津子、光太郎の両親──……地雷すぎる。

 

「阿津子と光太郎──山下に会ったら言いたい」

「何て?」

「不貞してくれてありがとう!」

 

 ふはっ、と蒼司が笑う。

 

「オレもそれ言うわ」

 

 食後、サークルメンバーが揃っているグループに、蒼司が私との関係を宣言した。

 恐ろしい速さでいいねのスタンプが飛ぶ。その中に阿津子のもあった。阿津子からしたら自分を捨てて光太郎が私に戻るなんてこと、絶対に許せないだろう。光太郎と比較して歯軋りはしているかもしれないけれど、光太郎と結婚するのだから建前としても祝福してくれるようだ。


『皆ありがとう! 祝福してくれー!!』

 

 目の前でにまにましている蒼司に、なんとなく気恥ずかしい。

 

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