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私達はいつだって正解を探してる  作者: 黛ちまた


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20/29

020.誰と食べるかは重要

更新が遅くなってしまって申し訳ありません。

 気まずい私とは対照的に、満面に笑みを浮かべる唯山。それからテーブルにずらりと並ぶ料理。二人しかいないのに何この豪勢な食事。いつ作ったの……。

 

「……あのさ、唯山」

「蒼司って呼んでくれ」

 

 気が早い!

 

「その前に話をしたいの」


 唯山が頷く。

 

「その、唯山と付き合う前に光太郎達のことを片付けてしまいたいんだよね」

「なるほど」

 

 片付いてはいないものの、婚約は破棄されているから、私と唯山が付き合うことに何の問題もないんだけど、私の気持ちの問題。

 光太郎や阿津子とは違って、キチンと終わらせるものを終わらせてから次にいきたい。この前光太郎には言ったけど、何にケチをつけられるか分からないというのもある。

 

「直接対決でもするのか?」

「必要ならそうする。明日弁護士さんに連絡しようと思う」

 

 二人の結婚式までには解決するのは分かっているけど、唯山との関係を前向きに考えるとなると、なんだか座りが悪い。

 私は不器用だから、あっちもこっちもなんてできない。一つずつ終わらせていかないと、沢山のものに囲まれると全部嫌になってしまう。

 

「分かった。協力できることはあるか?」

「今も助けてもらっているから、これ以上迷惑はかけたくないんだけど、もし何かあったらお願いしてもいい?」

 

 にっと笑うと、「勿論だ」と力強い返事をもらった。

 

「あと、あのね」

「うん?」

「喜美子がバラしてるかもしれないけど、私は唯山に恋愛感情はないんだけど、それでもいいの?」

「人生は長いんだから気長に待つ」

 

 そんな悠長な……と思ってしまうけど、相思相愛になっても終わりは呆気なくくるんだし、色々考えても無駄なんじゃないか、と思い始めている。

 

「明日から、頑張る」

「頑張れ。とりあえずはい、あーん」

 

 おかずを食べさせようとしてくる唯山に、顔が熱くなる。

 

「バカ唯山!!」

 

 ハハハッと笑って唯山はおかずを自分の口に運ぶ。

 

 まったく、と呟きながら私も手を合わせて夕飯をいただくことにする。

 

「ねぇ、唯山」

「なんだ?」

「料理教えてくれる?」

「オレが教えられることなら、何でも教えるよ」

 

 それぐらいネットでも何でも調べろと突き放してきた光太郎。何で好きになったのか今では不思議でならない。

 

「世界って広いね」

「まぁな」

「あと身近なことも意外と知らないこと多いよね」

 

 唯山がこんなにマメだとか料理好きだとか、全然知らなかった。

 別に自分の世界はもっと広くなるべきだとか、そんなことを思ったりはしないけど、知らぬ間に自分を枠にはめていたんだなって、近頃は思うことがある。妹の紗里のことだってそう。

 枠にはまったほうが楽なこともある。考えなくていいから。考えるのは思うより難しい。自分を見つめるのって、人が言うほど簡単じゃない。

 

「私ね、家事、苦手」

「大丈夫。オレが好きだから」

「唯山は苦手なことないの?」

「あるよ」

 

 否定されることが増えるたび、光太郎との会話は減っていった気がする。

 知らず知らず機嫌を取って、ケンカになると面倒だから。好きだけど、好きだからこそ、自分が我慢を重ねていった。光太郎もそうだったのかは分からない。今思い出すと言いたい放題言われていた気がする。あれで気を遣ってたんだったら、私達の関係は阿津子のことがなくても終わりを告げていたかもしれない。

 この年だから、子供が産めるうちに──そうやって自分を無理に納得させていたような、そんな気もする。

 光太郎との思い出の全てを否定はしない。楽しいことも嬉しいこともあったのは確かだから。

 でも、彼とはもう終わった。どうなるかは分からないけど、唯山と並んで歩いてみようと思う。

 ダメなら一人で生きていけばいいんだって、それは不正解じゃなくて、私が選んだ一つの答え。いつかどこかで答え合わせをする時がくるかもしれないけど、それはその時、また答えを探していけばいいんだと、やっと思えるようになった。

 

「とりあえず、私とのことを喜美子や紗里と決定するの禁止ね」

「分かった」

 

 唯山の手料理を味わう。美味しい。作り方とかさっぱり分からないけど、この前ちょっと見た感じだと、細かい作業も手慣れていて、手間がかかってる。

 この瓜も、鉛筆削りで削ったみたいにくるくるしたまま繋がってるけど、私だったら途中で切れてこんなに繋がっていない。

 

「これ、美味しいね。なんていう料理なの?」

 

 甘酢が効いてて、さっぱりして美味しい。

 料理に苦手意識があるのもあってか、無難な料理しか作ってこなかったなぁ。

 

「雷干しっていうんだ。使ったのは白瓜」

 

 白瓜は糠漬けで食べたことがあったけれど、こんな食べ方もあるんだ。

 緑色で、スパイラルになっているのが、雷といわれればそう見える。

 

「かみなりぼし?」

「白瓜の真ん中をくり抜いて、かつらむきして干したものを甘酢に漬けてある。食感が良いだろう?」

「うん」 

 

 カリコリとした歯応えが良い。上にかかった花鰹も合う。それにしても、手間がかかった料理に思うんだけど、白瓜の雷干しって素材として売っているんだろうか……。

 

「一体いつ作ってるの?」

「隙を見て?」


 合間合間に作っているってことなのかな。

 

「この浸し豆も美味しい」

「豆料理は大変そうに見えるけど、煮ている途中で止めても大丈夫なんだぞ」

「そうなの?」

 

 箸で浸し豆を摘み、口に入れる。程よい煮加減。柔らかすぎず、固すぎない。

 頭と内臓を取り除いた鰯の梅煮も、梅の旨味と酸味が程よくて美味しい。

 

「うーん、私が唯山と同じように作れるようになる日はくるのかな」

 

 教えてほしいと言ったものの、同じ味が出せるだろうか。早々に自信がなくなってきた。

 不安が顔に出ていたのか、私の顔を見て唯山はふっと笑って、「ずっと一緒に作ればいいだろう」と言った。

 光太郎と比較して優しく感じられて、吊り橋効果みたいなものが発生しちゃいそう。

 

「食べた時に凛子が喜ぶかと思いながら作るのも楽しいけどな、一緒に作るのも楽しみだよ」

 

 ただでさえ顔が良いのに、言うことまでイケメンなんて罪深い。イケメン無罪とよく言われるけれど、ここはあえて有罪にしたい。

 

「唯山は私を駄目にする筆頭だね」

「その調子でオレなしでは生きていけなくなってくれ」

 

 軽口を叩きながら、美味しいごはんを二人で食べる。

 幸せだなって思ってしまった。

 

 食事は誰と食べるかが重要だというけれど、言い得て妙だと思う。美味しい料理が更に美味しくなる気がする。

 

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