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私達はいつだって正解を探してる  作者: 黛ちまた


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017.どうして理解できないのかな??

 二週間程在宅勤務をさせてもらってから、一度菓子折りを持って出社した。同部署の人達にお菓子を渡しつつ事の次第を説明する。同情した反応をしつつも、目がきらきらしている人が何人も。人は刺激に飢えているんだなぁ、と他人事のように思ってしまった。渦中の人間なのに。

 在宅に切り替えている分、多く残業して他の人の仕事のフォローもしているからか、表向き反発を受けることもなく、お詫びの挨拶はつつがなく終了した。まだ問題は片付いてないから在宅は継続することになる。

 上司が最初に説明してくれたことも良かったと思う。上司にお礼とお詫びをすると、部下のプライベートでの問題にもきちんと理解して対応する上司、そう認識してもらえただろうから大丈夫よ、と大変強かな返事をいただいた。そういった側面もあるけれど、それだけじゃないんだろうなとも思う。詳しくは聞かないけれども。

 

「先輩、わざわざあんなに話す必要なかったんじゃないですか?」

 

 久しぶりに後輩や先輩とランチ。まだお弁当箱を買っていないから、社食。今日は帰りに唯山と待ち合わせてお弁当箱を買いに行く……。店、調べまくってたな。

 キャラ弁はありかなしかを聞かれ、止めてくださいとお願いした。残念そうな顔をしていた。作りたかったんだ、キャラ弁……。子供でもいれば作ってもいいんだろうけど、って我らはただの同居人なので、未来の唯山の子供よ、良かったね。

 

 「いや、ありでしょ」とはトラブルフラグ立ちっぱなしの先輩。なお先輩はようやく浮気ばかりの夫と離婚して、二週間ぶりに顔を合わせたらすっきりした顔をしていた。羨ましい。私も早くそうなりたい。

 

「緑川さんの在宅勤務に、あれこれ言ってる奴いたし。でも今日挨拶されたら、ご機嫌だったよ」

「え、それどっちの意味で機嫌いいんです?」

 

 先輩の言葉に怪訝な顔で聞き返す後輩。


「人の不幸は蜜の味って奴で、私が離婚調停中は機嫌良かった奴らが、今じゃ不満そうにしてたから、今度は緑川さんのことで機嫌良いんじゃない?」

「ぅわ、性格わっる」

「不幸な人間ほど、人の不幸を喜ぶって奴だろうね」

「それ、なんでなんです?」

 

 それは私も知りたい。どういう心理なんだろう。

 先輩はうーん、と唸りつつ、「不幸なのが自分だけじゃないという安心感? 相手が自分より不幸だったら、自分はまだマシだって思って耐えられる、そういう心理なんじゃないかな」と答える。

 

 幸せなのに、その幸せが信じられない、なんていうのもあるらしい。人間の心は複雑にできてる。

 

「そういうもんですか……理解できない」

 

 生真面目な後輩は、イライラした顔をする。

 

「渦中にいるけど、実はイケメンの高級マンションで上げ膳据え膳だって知ったら、どんな顔するやら」


 にやりと悪い笑みを浮かべる先輩。ですね、と答えて後輩も笑う。

 

「帰り、妹さん来るんですか?」

「ううん、唯山、えっと、同居人が迎えに来て、お弁当箱を買いに行く予定」

 

 お弁当箱? と、二人の声が重なる。

 

「作りたいんだって、お弁当」

「はーっ、世界って広いんですねー」

 

 後輩に同意する。私も同じこと思いました。

 

「料理が得意、家事も得意。結婚相手として最高じゃない。そのまま結婚ありなんじゃない?」

「条件的に見ればそうなんでしょうけど、流されるのはどうも」

 

 酷いものを見た後、多くのものが良いものに見えるという心理……いや、唯山は確かに凄いな。

 

「愛情なんて、日々の生活で簡単に擦り減るわよー」

 

 経験者は語るという奴だね。実感のこもった言葉は重い。

 

「経済力、生活力、愛情。三方揃ったら無敵ですね。あー、私もそんな人に出会いたいっ」

 

 後輩のその言葉に、喜美子と唯山に言われていた言葉を思い出した。

 

「そうだ、事が無事に済んだら、助けてくれた人を友人と同居人の同僚とで合コンに誘っていいよって言われていたのを思い出しました」

「友人って、親友の?」

 

 そうそう、と頷く。

 

「それは飛びつく人多そう!」


 後輩と先輩には喜美子のことを何度か話したことがあって、喜美子の勤め先も知ってる。

 

「同居人はどこに勤めてるの?」

「外資です」

 

 社名を言うと二人とも驚いていた。

 

「これはもう、勝ち確ですね」

「元婚約者と元友人達、ご愁傷様って感じだね」

 

 国内でも知らない者はあまりいないだろう有名企業に勤める喜美子と、大手の外資に勤務する唯山。その同僚ともなれば良い相手との出会いを望む人達にとっては魅力的に感じるだろうな。

 

「それ、伝えていいんですかー?」

「ちょっとどうしようかと思って」

「合コンに目がくらんでおかしなことをする輩もいるかもしれないしね。言わないほうがいいかも」

「そうしておきます」

「大体、大したこともしてない奴にかぎって、ちょっとやっただけで私のおかげだなんて言いがちだよね」


 分かると言わんばかりにうんうんと頷く後輩の眉間に皺が……。そういう良いとこどりする人の被害に遭っている人は少なくないからね……。

 

「何かをしてもらおうなんて期待はしていないから大丈夫。ただ、迷惑をかける可能性があるから、それは本当に申し訳ないです」

「前に一度見かけたことがあるけど、そんなことしそうな人には見えなかったけど、人って分からないもんだね」

「婚約者の友人と浮気とか最低ですよ、クズもクズ、クズの中のクズです」

 

 クズを連呼する後輩。我が事のように怒ってくれる後輩には感謝。

 

「親が親なら子も子、ですね。謝る側なのに」

「蛙の子は蛙を地で行ってるもんね。謝ると死ぬのか、って人、たまにいるよね」


 死ぬんだろうな、きっと。


「婚約は解消でいいし、不貞に対する慰謝料を払ってくれるだけでいいんですけど、悪いことだと思ってないみたいで。守銭奴と元婚約者の母親からは言われているみたいです」

「笑止」


 先輩の笑顔が怖い。後輩は眉間に皺をよせている。

 

「どうするんですか? これから」

「持久戦に持ち込むだけで緑川さんの勝ちだよ」

 

 なんでです? と後輩が尋ねる。

 

「だって結婚式前になんとかしたいんでしょ? あっちは」

「あ、そっか。でも式後にしらんぷりされたらどうするんですか?」

 

 「裁判」と私と先輩が同時に答える。

 

「おぉ……裁判とか、ニュースでしか聞いたことなかったです。もし裁判を無視したらどうなりますか?」

「相手が不在なら間違いなく緑川さんが勝訴して、元婚約者と元友人には有罪判決。ただ民事なのが残念なところ」

「なんで残念なんですか?」

「有罪にはなるけど、強制力が刑事に比べて弱いってところかなぁ」


 後輩が神妙な顔で頷く。

 

「結婚式に同僚や上司を呼んでるから、良識ある人達ならその後に響くんじゃないかな」


 私の言葉に先輩も頷く。

 

「昨今は不倫なんかにもうるさくなってるからね、いくら結婚前とはいえ、裁判で敗訴したとなれば出世は無理だろうね」

「聞けば聞くほど、早く慰謝料払ったほうがいいように思えるんですけど」

 

 私もそう思う。

 

「不貞犯すような奴らの考えは我らには理解できなくて当然だよ」

「それもそうですね!」

 

 その後は私が在宅ワーク中に起きた出来事なんかを教えてもらったりして、ランチタイムは楽しく終わった。

 

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