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私達はいつだって正解を探してる  作者: 黛ちまた


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015.好印象を残したい男心

 案の定父親には渋られたものの、家にいないことのほうが多い、というお約束になりつつある言葉に撃沈させられていた。毎回負けるのに、そこは抵抗したいらしい。娘を持つ父親の複雑な気持ちって奴よ、と母は言っていた。

 そして何故か唯山がスーツ姿で手土産持って現れた。何の挨拶……。しかもその手土産、お父さんの大好物じゃないか。紗里を見たら良い笑顔でサムズアップしてきた。教えたの紗里か……。お父さんの顔の強張りがちょっと和らいでる。好物を前にして警戒心が緩んでいる父。それもどうなの。今度は娘として複雑な気持ちになってきた。

 

「お嬢さんのことは私が必ず守ります」

「あらぁ、プロポーズ後の親への挨拶みたいねぇ」

「お姉良かったねー」

 

 皆、大事なことをお忘れでは……? 私は今、絶賛婚約破棄後のゴタゴタの真っ最中ですよ?

 

「現実逃避したくなるけど、早く今回の件を片付ける為にも、凛子には姿を隠してもらったほうがよさそうだものねぇ」

 

 光太郎の次は阿津子からの怒涛の連絡。全部弁護士さんに連絡して抗議してもらっているんだけど、一向に止める気配がない。

 

 「警察が出動するようなことになれば、否が応でも話は進むでしょうが、油断はできません」とは、弁護士さんの談。

 

 あまりにもうるさいので、前のスマホは弁護士さんに預けている。あちらは仕事なのでメッセージの内容なんかも確認しているみたい。阿津子からの内容に、妊娠を理由に仕事を辞めたことも書かれていて、だから慰謝料を払えないとかなんとか。私が読んでいると勘違いしているのが分かったので、阿津子に連絡をし、スマホは弁護士の自分が預かっているので緑川様(私のこと)はメッセージをご覧になっておりませんし、接触を持つご意思もありませんし、情報も不要とのことでしたので、いただいたお話は何一つお伝えしておりません、と電話で伝えたそうだ。さすがに絶句していたらしい。

 弁護士さんは、どちらが多くご負担いただいても問題ありません、とも伝えたらしい。

 無い袖は振れない作戦はあっさり玉砕したみたいだけど、諦めた気配はなさそうだとの報告に、頭が痛い。今度は阿津子の母親や光太郎の母親と思われる人物からのメッセージもきているらしく。弁護士さんがスマホを預かっているんだっていうのに……。

 これはいよいよ、双方の親が登場しそうだとのことで、私は身を隠すべきとなったわけだ。こうなってくるとさすがに私も逃げないわけにはいかない……。

 

 光太郎との結婚がなくなって本当に良かったな、とは思えるようになったけど、この煩わしさ!!

 あっちは何としても支払わない、もしくは減額に持っていきたいんだろう。絶対受け入れないけどね。世の中舐めすぎだよ。

 

「そういえば、別の奴からサークルメンバーに結婚式に関しての連絡がきたらしい」

 

 唯山の言葉に全員が反応する。

 

「予想通り、新婦を変更して結婚式をあげるつもりらしいし、なんならプランも更にグレード上げているとかなんとか」

 

 そんなお金があるなら私に払ってよ!

 

「まず払うもん払ってから好きにやれって感じ」

 

 呆れ顔の紗里に、本当にねぇ、と母が相槌をうつ。

 

「それで、オレたちとしては一斉に不参加の連絡をした」

「えっ? 騙し討ち作戦は止めたの?」

「それも、アイツらと同じレベルに落ちるみたいで嫌だよな、ってことになったし、知ったからには堂々と断るだけだからな」

「それはそうか」


 納得。 

 サークルメンバー二十名が一斉に不参加となると、光太郎も阿津子も焦るだろうな。そもそも自分たちが騙そうとしていたことが発端だけど。

 

「馬場先輩、人望ないから今から二十人集めるの厳しいだろうねー。新郎側はもう呼んでるから増やすにしても限界あるだろうし」

 

 サークル外には容赦なくちょっかい出してた阿津子。いや、サークル内でもやってたんだった。

 

「さくらの人とか呼ぶのかね」

 

 そういうバイトがあるとは聞いたことがあるけど、そこに二十人分依頼するとなると結構しそう。でも、私の所為ではないから支払いについては妥協しないけど。

 

「引越しとなると大掛かりですし、一時的に避難するわけなので、大荷物ではなくていいと思います」

 

 唯山の言葉にあからさまにほっとした顔をする父。

 事実婚だなんだと言ってたのと同じ人間の発言とは思えないけど、母と紗里の表情が驚いていないので、きっとこれは父の中のイメージアップのためじゃなかろうか……。

 

「必要であれば、私が妹さんやお母さんと連絡をして、荷物を引き取りにきますし、こちらの住所に着払いで送付いただいても問題ありません」

「助かるわぁ」

「なんだったら新しいのを買ってもらうのもありだよ、お姉」

 

 …………そういう作戦なんですね。

 

「心配かけてごめんね、皆」

「前から言ってるでしょう。あんな人達と縁続きにならなかったんだから、むしろ幸運よ」

「そうそう、平気で浮気する奴が義兄とか、最悪だもん」

「……ありがとう」

 

 あらかじめ用意しておいた荷物を唯山の車にのせ、一路唯山のマンションへ。コンシェルジュがいるというマンション。映像の中でしか見たことないよ……。







 BMWって乗り心地いいなーなんて思いながら、唯山の運転する車の助手席に座る。後部座席に座ろうとしたら衝撃的な顔をされた。そんなわけで仕方なく助手席へ。

 

「夜、何が食べたい?」

 

 このセリフ、日本だと大抵は女の人が言うよなぁ、なんて思ったり。

 

「何でもいい」

「何でもいいって一番困るんだよ。せめて何系がいいとか、何は食べたくないとか言ってくれ。あと、出してからこれの気分じゃないも駄目だぞ」

「どこの主婦」

 

 このやりとり、光太郎ともしたことあった。何でもいいって言われて自分だってイラだったりしたのに。

 

「じゃあ、和食が食べたい」

「了解。じゃあ買い物に行って材料調達がてら凛子の好き嫌いチェックでもするかな」

 

 ……胃袋、高速で掴まれそうで怖い。

 

「和食かー。肉系で守りに入るか、魚系で攻めに入るか悩むところだな」

「肉のほうが守りなの?」

「だって、無難だろう。魚は鮮度もあるし、白、赤、青とあるしな」

 

 え、国旗?

 

「凛子は貧血気味だったりするか?」

「ちょっとあるかな」

「じゃあ青魚。無難に鯖の味噌煮でもするか」

 

 国旗じゃなかった。

 

「唯山って、本当に料理好きなんだね」

 

 この後、買い物をする時、料理を作ってる時、一緒に食べる時の三回、同じことを言った。

 唐突に、あなたは私を三度知らないと言うだろうと予言した救世主を思い出した私だった。

 

 鯖の味噌煮、炊き立ての五穀米、茄子と油揚げのお味噌汁、かぶの紫蘇甘酢漬け、ほうれんそうとにんじんの白和え、全部美味しかったです……手際めっちゃ良くて、これはガチだと分かりました。

 

 私の胃袋が、もう負けそうと申しております。

 

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