こんなはずじゃなかった ~婚約破棄を仕掛けた婚約者を、ハイスペックなヒーローと共に断罪して、ざまあする。その後は王妃としての人生が待っていると、そう思っていた~
8作目です。
よくある婚約破棄のその後のお話です。
格上の国としては、婚約破棄された令嬢をどう思うのかな? という感じで書いてみました。
誤字報告ありがとうございます。
お陰で助かります。
ザーマ王国の首都にて王国建国祭が行われた。
その挨拶に壇上に上がったザーマ王国王太子、サーメルは突如婚約破棄を宣言する。
「マーヌ公爵令嬢! 今日までの貴様の行い、最早許せん! 今この時を以て、婚約を破棄する!」
気炎を吐いて婚約破棄を宣言するサーメル王太子を、マーヌ公爵令嬢は冷めた目で見ていた。
「婚約破棄、承りましたわ。それでは後日、両家を交えて話し合いをいたしましょう、御機嫌よう」
そう言ってカーテシーを決め、その場を優雅に去ろうとするマーヌ。
そんな彼女の態度に鼻白むサーメル。
彼の中ではこの婚約破棄宣言に慄いたマーヌが、サーメルに泣いて慈悲を乞う事になっていた。
それが全く意に介されない。
慌ててマーヌへ声を掛ける。
「待て! 話は終わっていないぞ! 此処に貴様の犯した罪の証拠がある! 今此処でそれを白日の下に晒してやろう!」
そう言うサーメルの言葉に、マーヌは足を止め振り返る。
その目は落胆と侮蔑に満ちていた。
「私の罪……ですか? お言葉ですが、私にはその様な物はございませんが?」
言葉こそ丁寧だが、そこには明らかに軽蔑の響きが含まれていた。
「白を切る気か! よかろう、ならば見せてやろう! 貴様の罪をな!」
そう言うや否や、お付きの側近達に証拠となる文書を読み上げさせた。
どこぞの男爵令嬢を迫害したとかどうとかと言う内容であった。
マーヌはそれを心底馬鹿馬鹿しいと思いながらも、その迫害にあった男爵令嬢とやらの事を思い返していた。
男爵令嬢……たしか何処かの男爵の庶子だったか。
一応貴族の血を引いているという事で、男爵家に引き取られ、ザーマの貴族学校へと入学した令嬢だ。
貴族らしからぬその在り様で、何かとトラブルを起こしていた問題児だったなと、マーヌは思い出していた。
そういえば、サーメルはその令嬢を良く侍らしていたという事も、同時に思い出す。
今回婚約破棄など言う馬鹿な事を起こしたのは、そういう訳かとマーヌは得心した。
サーメルとマーヌの婚約は家同士で結ばれた政略によるものだ。
優秀な王妃を欲する王家と、家門から王妃を輿入れさせたいと思っていた公爵家の利害が一致した結果である。
マーヌはサーメルの事を好きだった事は一度も無かった。
婚約当時から、サーメルは碌でもない王子だった。
良い所は顔だけで、短気でデリカシーの無い少年だった。
そんなサーメルに恋心など抱けるはずも無く、単なる義務感だけでの婚約関係だった。
サーメルもサーメルで愛想の一つもないマーヌに対して、婚約に不満を抱えていた。
それでいて、自分の方が優秀だと、当てつけの様に能力をひけらかしているのも気に食わなかった。
両者の関係は最初から破綻していた。
それでも王命と利害の一致で結ばれた婚約を撤回する事も叶わず、そのままズルズルと婚約関係は続いていた。
そんな中、年頃となった二人はザーマ王国の貴族学校に入学した。
そこでサーメルは出会ったのだ、ある男爵令嬢に。
男爵家の血を引く彼女は元いた地から引き取られ、貴族の学校へと入学したのだった。
庶民の出ということもあり、彼女は珍しがられ、特に貴族令息に人気があった。
お澄まししている貴族令嬢よりもウケが良かったのだ。
その結果、貴族令嬢達には大いに嫌われたが。
そんな男爵令嬢とサーメルの出会いは、彼女が貴族令嬢に絡まれている処を助けた事が切っ掛けだ。
絡まれたと言っても、この時はまだ貴族令嬢も、貴族としての振舞いを注意する程度だったのだが。
そこに王太子が介入し、その後急速に仲を深めた事によって色々と拗れて来た。
貴族令嬢のトップで王太子の婚約者であるマーヌは、立場上苦言を呈する事になったが、これが決定的な亀裂を生む事になる。
前々からそりが合わなかったサーメルとマーヌの関係は断絶した。
最早義務すらもどうでも良くなったマーヌは、サーメルと距離を置いた。
男爵令嬢にも関わらなくなった。
邪魔者は居なくなったとばかりに、サーメルは男爵令嬢との時間を費やしていった。
それから少しの時が経ち、マーヌは学園である出会いをする事になる。
一通りマーヌの罪の証拠とやらを読み終え、サーメルはドヤ顔で宣言する。
「改めて宣言しよう! 私はマーヌ公爵令嬢と婚約を破棄し、そして新たにキャニー男爵令嬢と婚約する!」
そんなサーメルに対してマーヌは嘆息する。
心底どうでも良かったからだ。
本来であるならば公の場で婚約破棄されるなど、以ての外なのだがマーヌはそれすらどうでも良かった。
何故なら、彼女にも既にその愛を捧げる人物が居たからだ。
そんなマーヌに対し、サーメルが許しを請えば、一考してやらんでもないと伝えようとしたその時、別の誰かの声が講堂に響き渡った。
「そこまでだよ、サーメル王太子殿下」
その声の主は、ザーマ王国よりも遥かに巨大な国家である、キビシュ王国の第二王子であった。
キビシュ国において、王位継承者権序列第二位である第二王子、アナフィスは短期留学生となってザーマの学園に通っており、今回は来賓としてこの場に居た。
第二王子とは言え、格上の国の王子の登場にたじろぐサーメル。
そんなサーメルをマーヌ同様、冷ややかな目で見ながら、アナフィスは言葉を紡ぐ。
「全く、この様な場で婚約破棄宣言など良くも出来た物だよ。此処までくると呆れを通して感心すらするね」
ヤレヤレと言った様子で語るアナフィス。
「さて、君の掲げた証拠とやらだが、随分と穴だらけで杜撰な代物だね」
そう言ってサーメルを扱き下ろす。
アナフィスの言葉に激高しそうになったサーメルだが、流石に相手が悪い。
そんなサーメルを他所に、アナフィスはサーメルの証拠となる資料を一つ一つ論破した。
最初はアナフィスの否定に反論するが、数々の矛盾、時間的どうやっても無理な犯行などを指摘され、遂に黙る羽目に成る。
こうして、サーメルの言う、マーヌの罪は全くの事実無根である事が証明され、彼女の名誉は守られた。
その後、駆け付けたザーマ国王によって、サーメルは取り押さえられその場で廃嫡、連行された。
男爵令嬢も、重要参考人として連れられた。
特に抵抗は無かった。
ゴタゴタが終わり、まだ混乱が随所に残った所で、アナフィスはマーヌにプロポーズした。
このサプライズに会場は一気に沸いた。
マーヌはアナフィスのプロポーズを受けた。
国王もその場で認めた。
こうして、妙なハプニングはあった物の、建国記念祭はサプライズによって大盛況で終わった。
それから後、場所は変わってキビシュ王国の王城にて、アナフィスは婚約者となったマーヌと共に父であるキビシュ王の前に立っていた。
あの婚約破棄と断罪劇の後、アナフィスはマーヌを伴い、キビシュ王国に戻っていた。
「父上、彼女が私の婚約者のマーヌ嬢です!」
誇らしげに伴侶を紹介するアナフィス。
アナフィスに紹介され、見事なカーテシーを決めて挨拶するマーヌ。
そんな二人を、キビシュ王は冷めた目で見ていた。
「で、あるか。それで……そんな事を言う為に態々、我の許に来たのか?」
まるで興味がないと言った感じの王の態度に、アナフィスは鼻白む。
彼としては婚約者を連れて来た息子と、その伴侶を王が温かく迎えてくれる算段だった。
「父上? 如何されましたか? いかに父上と言えども、その様な態度をされるような筋合いはございませんぞ!」
そう言うアナフィスに対しても、キビシュ王の態度は変わらなかった。
それ処か、周りからも失笑と失望……そんな空気が醸し出されていた。
困惑する二人に、この国の第一王子で、王位継承者権序列第一位であるスイゲンが言葉を掛ける。
「控えるが良い、アナフィスよ。お前如きが王に対して不敬であるぞ」
序列においては下であるが、王位継承者としてはライバルである兄の物言いにカチンと来たアナフィス。
反論しようとした所で王が声を上げた。
「良い。構わん。一応は婚約者のお披露目だ。大目に見てやるが良い」
どうでも良い事であるしな……と、一言付け加えた。
国王の言う事に困惑するアナフィスとマーヌ。
「さて、アナフィスとマーヌ嬢、婚約おめでとう。我もその婚約を認めよう」
その言葉に喜色を浮かべる二人だが……。
「そしてアナフィスよ。お前は今日付けで王位継承権を取り上げる。以降は王族の末端として、国に仕えるが良い」
その言葉に驚愕する二人。
「な……何故ですか!? 父上、何故、その様な事を!」
アナフィスは叫んだ。
何故、自分が王位継承者から外されるのだと。
「答えは言うまでも無かろうが……まぁ、良い。分からぬなら教えてやろう」
そう言ってマーヌに目をやる。
「我が国に比肩する国の令嬢なら兎も角、ザーマ王国の公爵令嬢が伴侶では後ろ盾として脆弱過ぎる。それが一点」
強大な国力を持つキビシュ王国、その王の伴侶にザーマ王国程度の公爵令嬢では力不足という訳である。
王の言葉に固まるマーヌ。
だが、マーヌの優秀さを知るアナフィスは反論する。
「お言葉ですが父上、このマーヌは極めて優秀な令嬢です。将来の国母としての資質は十分に……」
あります! と伝えようとした所で、国王は大笑いした。
周りの者達も失笑している。
それに困惑する二人。
ひとしきり笑った後、国王は言葉を告げる。
「優秀……か、お前の節穴も大概だが、まあ良い。久方ぶりに笑わせて貰ったぞ」
ツボに入ったのか、まだククッと笑っている。
「さて、優秀な令嬢と言ったが、そもそも真に優秀であれば、先日のような婚約破棄宣言などされなかったのではないのか?」
至極尤もな指摘である。
しかし……。
「あ、あれは王太子たるサーメルが、余りにも愚か過ぎるが故に起きた出来事です! マーヌの能力とは関係ございませぬ!」
と、アナフィスは反論する。
が、国王達はそう思わない。
「相手が想像を絶する愚者だとは言え、公の場で婚約破棄をされるなぞ、失点以外の何物でもないぞ?」
これまた至極尤もな話である。
「真に優秀であれば、事前にサーメル王太子の動きを把握し、未然に防ぐ事だ。そもそも、王太子と真面な婚約関係を継続できない時点でも失格だがな」
根本的に終わっているのだ。
「そ……それは、サーメル王太子がマーヌの能力に嫉妬して、真面に取り合わなかったからです!」
「それをどうにかするのが、優秀な能力の持ち主だ。大方、これ見よがしに己の優秀さを見せつけて、王太子の劣等感でも煽っていたのではないか?」
図星である。
サーメルに愛想を尽かしていたマーヌは、愚かなサーメルにその力を見せつけ、見下していた。
「ふむ……へりくだる必要は無いが、歩み寄りと言うのは大事であるぞ。どんなに気に食わなくとも、な」
個人の好き嫌いと言った感情では無く、大局を見据え、己の心を律する者が王侯貴族の務めだと、暗に国王は伝えた。
マーヌにはそれが出来なかった。
「他にも、マーヌ嬢が婚約破棄された理由として、学園内でのいじめを主導していたとあったが……」
「そ、それにはマーヌは一切関わっておりません! その事はあの時に証明いたしました」
「そうだな。マーヌ嬢は『直接』関わっていなかったな」
含みを持った言葉を吐く国王。
「だが、いじめ自体は実際に起きていた。問題はそれだ。学園において貴族令嬢のトップに立つマーヌ嬢はそれを止められなかった。優秀な者にしては随分な手落ちだな」
いじめは男爵令嬢に反感を持つ令嬢達の手で行われた。
その中にはマーヌの派閥の末端に属していた令嬢も居た。
そして敵対派閥の令嬢も居たのだ。
男爵令嬢自身に原因があっても、いじめ問題を解決出来なかった事、つまり自身の派閥の手綱を握れなかった事実を鑑みれば、マーヌの能力に疑問を持たれても無理はない。
そして、敵対派閥に隙を見せていたのも致命的だ。
サーメルの集めていた、いじめの証拠の中には、その敵対派閥の証言も採用されていた。
つまり、マーヌは嵌められていたのだ。
「それにだ、かの男爵庶子の令嬢は見事に王太子の心を射止めたそうではないか。公爵令嬢ともあろう者が、半平民の令嬢に女性として劣るなど、話にならんな!」
それは正に急所である。
どういう理由であれ、公爵令嬢が男爵令嬢に婚約者を、しかも王太子を奪われるなんて、末代までの恥である。
「ふん、王太子との信頼関係も築けず、男爵令嬢に奪われ、敵対派閥に嵌められる……これで優秀な者と言えるのか?」
これに加えて後ろ盾には物足りない、弱小国家の公爵令嬢である事も挙げられた。
「相手が話の通じぬ愚物であれ、それにしてやられた者が、このキビシュ王国の王の伴侶たり得るか、良く考えるが良い」
完全に詰みである。
婚約破棄をされた時点で、終わっていた。
その直後に名誉を回復させようが関係ない。
そもそもそんな事が起きない、起こさせないと言う事が前提なのだから。
何も言えず、黙るしかない二人を冷ややかに見下した国王は、チラリと第一王子の隣に立つ、彼の婚約者に目を向ける。
「……参考までに、エクセレン嬢、其方ならこのような時にどう対応する?」
エクセレン公爵令嬢……スイゲン第一王子の婚約者である。
「そうでございますね……先ずは王太子との関係を重視し、愛情を得る事は無理でも最低限、信頼を得られるように致しますね」
「具体的には?」
「先ずはしっかりと、話し合いをする事ですね。婚約を結ばれた意味は勿論の事、婚約を結ばれた自分自身が、それについてどのように思っているかをですね」
「ふむ?」
「婚約は当の本人の意志では無く、国の利益の為に結ばれた政略です。決して個人の我儘や恋慕といった物から結ばれた物でない事を、しっかりと伝えます」
「なるほど、つまり……」
「はい。婚約に関してはお互い様の話であると、そう伝えます。あくまで政略、望んでそうなった訳では無いと」
「フフ、そうであるな。我も幼少の頃には、若干の反発はあった。王子としてでは無くただの子供としてな」
「ええ、ですので先ずはお互いの誤解が無いように良くお話をします。そうする事で、お互いの理解は深まるでしょうし、一つの共通認識が生まれます」
「ほう? それは一体何かね?」
「私情では無く、王侯貴族の義務としての認識です。恋慕は二の次、婚約はこの国の貴族として守るべき契約であると言う認識です」
「ふむふむ」
その話を聞いてマーヌが愕然とする。
思えばサーメルと腹を割った話をしただろうか?
彼が婚約に不満を持っていた事は知っていた。
それは自分も同じである、決して自分から望んで婚約をした訳では無い。
だが、彼女はそれを伝えなかった。
単純に今更面倒というのもあったし、どうせ王命で断ることは不可能なのだから、何をしても無駄だと適当に流していたというのもある。
サーメルにも問題はあったが、マーヌも大概ではあった。
「それでも上手く行かないのであれば、別のやり方をします」
「それは?」
「私のありのままの姿を見せるのです。将来の王妃として、夫となる王太子を支える為に必死に努力している姿を」
「それは何故かね?」
「言葉を尽くしても伝わらないのであれば、後は行動にてそれを伝えるのみです」
「なるほど。だが、筆舌にし難い程に愚かな男は、それを理解してくれるかな?」
「そこまでしても駄目ならお手上げですね。全てを国王夫妻、両親に伝え、王太子の選定の再考と婚約の見直しをお勧めします」
当然ながらマーヌは何もしていない。
サーメルに対して当てつけの様に己の力を見せびらかしただけだ。
「当然だな。では、国王夫妻や両親も当てに出来ず、他に王位を継げる者が居らぬ上に、王太子が別の令嬢にうつつを抜かしていたらどうする?」
かつてのマーヌの状況だ。
「それは困りましたね……。それでは、王太子殿下が寵愛する令嬢を全力で囲い込みましょう」
「ふむ?」
「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』と言う東方の国の格言に倣い、その令嬢を保護し、あらゆる悪意から守り、その令嬢の信頼を得ます」
エクセレンの言葉に衝撃を受けるマーヌ。
「流石の王太子殿下も、自分が寵愛する令嬢からの言葉なら聞き届けるでしょう。そうして信頼を得られれば此方の物です」
「フフ、中々良いな。して、その後はどうする?」
「はい。一定の信頼を得られれば、此方への態度も軟化するでしょうから、婚約破棄をされる事も無いでしょう。ですので、しっかりと婚姻を果たします。そして次代の王を生みましょう」
「令嬢はどうなる?」
「愛妾、寵姫が妥当ですが、王太子殿下が望むのなら、第二王妃という形だけの立場を作り、そこに収めます」
「ははっ、至れり尽くせりだな」
「その代わり政務は私が担当させていただきます。王太子……後の国王陛下には離宮にてゆっくりして頂きましょう」
それは王妃による実質的な王国の支配になる。
異を唱えたいが、国王が機能しないのならそれもやむを得ない。
実際マーヌはそれに近い事を、ザーマ国王に期待されていた。
「はっはっは。見事だよ。エクセレン嬢。スイゲンよ。良い伴侶を得たな!」
「はっ、私の自慢の婚約者ですよ」
恭しくも誇らしげにエクセレンを語るスイゲン。
「さて……参考までにエクセレン嬢の話を聞いてみたが、その方らはどう思った?」
反論はあるか? と聞く国王に対して、アナフィスもマーヌも何も言えなかった。
特にマーヌはエクセレンとの格の違いに打ちのめされる。
マーヌとてエクセレンの言った事は実行出来なくは無かったはずだ。
でも出来なかった。
そんな事を考えもしなかった。
特にこれと言った事をせず、サーメルに不満を持ちながらダラダラと破綻した関係を続けていた。
無能無策も良い所だった。
「結論が出たな。アナフィスよ。お前は彼女に、この王に並ぶに相応しい資質はあると、今一度断言出来るか? ああ、そう言えば、お前自身も色々と根回しが足りなかったな」
アナフィスもマーヌを婚約者に据える為の準備を整えてはいなかった。
婚約破棄の断罪劇は、咄嗟に機転を利かせたものであった。
故にその後のプロポーズはその場の勢いと、インパクト重視の為に行った。
公の場での宣言なら、覆される事は無いだろうとの計算も入っていた。
それは国王としては行き当たりばったりで、後の事を考えてない軽率な判断と認識している。
アナフィスを見限ったのは、マーヌの家格や能力の問題だけでは無かった。
完全に後継者の芽は絶たれた。
その後、アナフィスとマーヌは項垂れながら王の間から退室する。
国王並びに第一王子達はその後姿を見送った。
「やれやれ……一時のヒロイック的な感情に流されたか……」
国王は嘆息する。
アナフィスだけでなく、キビシュ王国の貴族の一部は、短期だが別の国に留学している。
自分の国だけでなく他の国を見る事で、視野を大きく広げる為だ。
時折、何を血迷ったか格下の国の、無能な令嬢や令息に入れ込む者が出て来るが、まさか自分の子からそれが出て来るとは思わなかった。
手助けをしてやるだけなら良いが、自身の婚約者にするとは愚かにも程がある。
大抵この手の者達は、後に現実に気付き、後悔するのだ。
理想と現実のギャップに気付いた時、こう思う。
『こんなはずじゃなかった』と。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。