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春雷と共に8

 その日の夜、私は高熱を出した。理由は、寒空の下で雨に打たれたからだった。爛やあの日、私を待機所まで送った男は、大丈夫であろうか。桃というと、私が一時的に行方不明になり、夜に体調不良になったりで、散々振り回すことになった。

 

 「お身体はどうですか?」

 

 お茶を持った桃が翌朝のすっかり日が昇った頃にやって来た。昨日帰って熱を出してから夢を見ることもなく、ずっと深い眠りについていた。

 

 「元気。昨日の頭痛と熱は嘘みたい。久しぶりに、心地よく眠れたほどよ。」


 嘘ではない。ここ最近は、寝付けない日や夜中に急に目覚めたりする日が幾度となくあった。昨日、出歩いた上に、稀な体験をしたことが原因だろうか。昨日のことを沈潜すると、突然現れた男、そして、普段見せない顔を見せた爛にお礼を言えてないことに罪悪感が芽生え始めた。


 「苑様、私と離れている間に、色々あったようですね。そう、例えば、希望が叶うようなこととか。」


 その言葉にドキリとする。間違いではないし、実は心の中で引っかかっていることがいくつかあった。まずは、爛の態度だ。いつも飄々として、私を馬鹿にしているのに、予想外の事態の時は、普段からは想像できない行動力を見せる。全てを知ったつもりでいた私が、恥ずかしくなった。桃は、見通しているのだろう。


 「……爛が、すごくいつもと違って見えた。」


 言葉を慎重に選び、口に出す。軽はずみな発言をすれば、現実がそっちに転びそうで怖かったこともある。


 「そうですね。私も驚きました。爛様が1人戻って来られた時、すぐに憂榮様に命じて、馬車の手配などをし、騎馬に飛び乗ったと思ったら、苑様を迎えに行くって。周りにも結構人が居ましたので、ちょっとした騒ぎになっていました。でも、肝心の苑様は、居なくて。雷は近くで落ちたようでしたし、私も含め、気が気じゃありませんでした。爛様は、本当に苑様を心配してくれていました。」


 「そう。本当にごめんなさい。私が移動したことでこんなことになるなんて。」


 桃の前でも爛は、私を心配してくれていたと知ると、申し訳ない反面、嬉しくもなる。想っているわけではないかもしれないが、少なくともそれなりの存在として爛は、私を認めてくれていたのだろう。

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