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金衣公子と共に4

 私が担当することになった大講堂は、城の表門から離れた位置にあった。祭りごとの際などに人が最も多く集まる場所で、一度に最も多くの人に花を見られる場所であると言っても過言ではない。先生に任せてもらえたことが嬉しくないと言えば嘘になるが、やはり不安はいつまでも付きまとう。


 生け花に使う花を傷つけないようにまとめるが、桜だけは特に気を付けなければならない。そして、花を生ける花器も開けてみるまでは何が入っているかわからないが、貴重なものが入っているに違いなかった。結局、必要なものを運ぶだけで3度も往復することになりそうだった。城内では何度か人とすれ違ったが、その度に桜を折ったりしないよう細心の注意を払う。


 最後に運ぶのは、花器だ。木箱に大切に納められたそれは、ずっしりと重かった。運んでいる最中、何度も地面に下し、安定するように持ち直しながら進む。あと少しで到着する、そう思っていると曲がり角から人が出てきた。重い物を持っていたこともあり、瞬時に止まることができず、ぶつかる。大した衝撃ではなかったはずだが、持っていた木箱が重く、あっけなく後ろに倒れ始める。しかし、この花器だけは絶対に離してはいけない、そう固く思い私自身に降りかかるであろう地面との衝突を覚悟した。が、その衝撃は訪れなかった。代わりに私の左手が引かれ、腰を支えられた。思わず閉じていた目を開いても、その人物と私の間に木箱があるため顔が見えない。しかし、相手の香が私の嗅覚を刺激する。あの時のように他の匂いは混じってはいなかったが、これはきっと、否、絶対に春の嵐の日に出会った男だと確信した。

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