金衣公子と共に3
城に到着すると、係の人がすぐに快く出迎えてくれた。
「こんにちわ。今日は、よろしくお願いします。春の祭事に向けて、城内から彩る予定です。各場所で違った雰囲気の飾りつけをお願いしたいです。今から場所を案内しますので。城の中の移動する際は、こちらの札をお持ちください。もし何か言われたときはこれを見せていただければ、大丈夫ですので。」
生け花を飾る各所を見て回りながら、簡単に説明される。
「今日は、お弟子さんもご一緒なのですね。完成が楽しみです。では、何かあれば遠慮なく聞いてください。私は、礼部にいますので。」
係の人はそう言うと、そそくさと仕事に戻ってしまった。
「よく話す人でしたね。」
ため息混じりに先生が言う。係の人は、私たちを案内する間、ずっと話続けていた。建物の役割や各部署など花を生けるのには必要のなさそうな情報まで教えてくれた。
「そうですね。後半、何を話していたかよく覚えていません。」
面白い人であったが、花を生けている間、ずっと近くに居られることを想像するとぞっとした。それから先生と私は、広場に置かれた花を適宜振り分ける。各場所には主役となる花がある。他と重複しないよう場所ごとに花をまとめていく。主役の花を引き立てるために使う。
「苑、今回、桜を生けなさい。場所は、大講堂にしようと思います。いいですね。」
この時期の桜は、各所の生け花の中でも主役に匹敵する。生けたことはあるが、私が任されるのは、もっと人に見られない場所であると思っていた。
「先生、私には荷が重くないですか。大講堂は人が集まる場所ですし。」
「どの場所で、誰が見るかわからない点は一緒です。私は、表門で桃を生けます。表門から一番遠い大講堂まで私が生けに行くのは酷でしょう。だから、私は、貴女にそこを任せます。自信を持つように言ってあったでしょう。何度も言わせないで。」
ああ、先生は、また棘があるとしみじみ思う。
「……精進します。」
さぁ行きましょう、そう言い、私たちは各自の仕事場へ向かった。