春雷の後に3
朔の声は、冷静だった。庭に咲いている牡丹の蕾を見つめている。
「朔様は、もしかして爛様と、と思っていらっしゃいますか?」
「えっ、どうしてそれを。」
「私は、爛様と苑様が、と思ったからです。」
「桃もか。でも、どうして。」
「あの2人って、お互いに憎まれ口を叩いていても、何だかんだ仲が良いのです。苑様の性格について行けるのは爛様だけでしょうし、爛様もどうしようもないですけど、それを分かって苑様も一緒に過ごすこともあるんですよね。2人して、独りを楽しんでいるようで。例え、お互いに恋愛感情が無いとしてもきっと意識をすれば、鞘に納まると私は思っているんですけどね。」
思っていることを率直に述べる桃は、腑に落ちないような表情になる。昨日のことがどうしても払拭できない。誰もにとっても想定外の出来事だったのだ。昨日のことは、夜のうちに桃は朔に話していた。
「俺も爛のことは好きだし。もし、そうなれば、きっと楽しくはなるよな。苑は、実際、婚約のことどう思っているんだろうな。」
「嫌だとは、ずっと言っています。ただ、さっき聞いたのですが、苑様は、昨日、男性に助けていただいたようで、その特徴を聞いた爛様が言ったのですが、その男性は、王凌雅かもしれないと。私、苑様を王凌雅に会わせたくありません。苑様は、王家に関係する人物であるとしか思っていないようですが、苑様は、その人物に、直々に外套を返しに行こうとしているのです。もし、自分を助けた相手が婚約者なら苑様であろうと心が揺らいでしまうかもしれません。それだけは、阻止したいのです。」
「俺は、それで苑が幸せになるならいいと思うけど。」
「もちろん、私も苑様の幸せが1番です。でも、やっぱりよく知らない相手は、不安なんです。ずっと近くにいた分、絶対に幸せになってほしいんです。その道は、爛様しかないと。王家との婚約ではなく、覇家との婚約だったらと、どれだけ願ったかわかりませんわ。」
「ただ、家同士の約束だから、そこが正式に決まれば、どうにもならないからな。」
「爛様に苑様のことを言ってしまいました。きっとそれを聞けば……。」
「そうだな。爛がもし苑のことが好きなら、あいつも何か作を練るだろうな。午後から出かける。とりあえず、早い内に凌雅に外套を返すよ。侍女が借りたとか、適当に言っておく。苑には、早めに返さないといけないものだって言われたといって、俺が持って行ったと説明してほしい。」
「わかりました。昼食の時にでも苑様の部屋からそっと持って来ますね。」
苑の知らないところで、事態は変化していく。まだ、春が始まったばかりの昼下がりのことだった。