春雷の後に2
一方、桃は、爛を屋敷の外まで送り出し、苑の体調を伺った後は、与えられた自室には戻らなかった。苑がすぐに桃を呼ぶことはないだろうし、例え桃が部屋にいなかったとしてもさほど不便はしない。彼女は、基本的に自分で何でもできるし、たまに弱音を吐いたりするが、やはり根は強い女性なのだ。桃が向かった先は、苑の兄であり、恋人である朔の所だった。実のところ、桃は苑が居ないところで何度も逢瀬を重ねていた。だからこそ、恋人という立場に納まっているのだが。
朔は、屋敷の庭の一角で剣を振っていた。昨日とは打って変わって雲一つない晴天だった。桃は、お茶と菓子を準備し、朔の元へ持って行く。
「朔様、お茶お持ちしましたよ。」
そう声をかけると、真剣な表情をしていた朔は破顔する。桃が東屋にある机の上それらを置くと、朔はすぐにやってきて、椅子に座る。
「ありがとう。丁度、のどが渇いていたんだ。」
そう言うや否や、朔は、桃の準備したお茶を口に運ぶ。
「よかったですわ。」
返答しながら、桃も朔の正面に座り、朔のことを見つめる。
「そんなに見るなよ、照れるだろう。」
「ふふふ、私は、幸せだなって思いましたの。」
「俺も、幸せだよ。……でも、やっぱり、苑が気になる。姜家の人間がこんなことを言ってはダメなんだろうけど、俺は、あの婚約、あまり認めたくないと思ってる。」