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春雷の後に

 苑が爛を見送った後、桃は、爛を屋敷の外まで案内する。苑の部屋は屋敷の一番奥に位置していた。


 「苑って、大事にされてるんだね。秘蔵の姫ってところだね。」


 歩きながら、爛がぽつりと呟く。


 「姜家、ただ一人の女の子ですから。爛様、あの外套は誰の者か、ご存知ですよね。」


 「……桃ちゃんは、意外と鋭いよね。そう、あれは、きっと凌雅のものだ。」


 「どうして苑様に言わなかったんですか。」


 「言ったら面白くないだろう。手がかりがあるんだから自分で探した方がいいに決まっている。それに、知っていたら僕が一緒に返しに行く可能性も出てくる。」 


 「嫌なんですか。」


 「面倒なだけ。それと、何で女の子の所じゃなく男の所にわざわざ女の子連れてかなきゃなんないのって感じ。」


 「嫉妬ですね。」


 「嫉妬か。でも、苑を受け入れる男なんていないよ。あんなわがまま、近づくのはそこらの馬鹿と。」


 そう言いかけたところで爛は口を閉じる。


 「ま、苑には内緒。」


 「爛様、代わりといっては何ですが。」


 桃は、そう言い爛の耳に口づける程に近く寄り、そっと呟く。


 「苑様に婚約の話が上がっています。」


 弱弱しい声でそう言い、爛からさっと離れる。彼女は、声の雰囲気とは正反対ににこりと微笑んでいる。彼女なりの強がりなのかもしれない。そして、驚いたのは、苑のことだ。表情にこそ出さなかったが、苑に婚約の話が持ち上がっているとは、普段の発言からは全く想定外で、心をざわつかせた。


 姜家の屋敷の門を出ると馬車が止まっていた。その前には、付き人の憂榮が立っていた。


 「お待たせぇ。じゃ、桃ちゃん、苑の看病よろしく。」


 そう言い、爛は早々と馬車に乗り込み、憂榮は後に続く。 


 馬車に乗り込み、しばらくして憂榮は黙って外を眺める爛に言う。


 「あぁあ、昨日、苑が移動した理由がわかった。多分、凌雅だよ。あいつが苑を連れてった。」


 静かな声で爛は説明をする。


 「王家の。ですが、どうしてまた……。」


 「さぁ、あいつ動物みたいな感性があるからな。命狙われた時も家臣より早く気付いて撃退したとか聞いたし。」


 「それは、並外れていますね。爛様は、どうしたいのですか。」


 「僕は、どうしたいんだろうな。苑が誰かと特別な関係になるのは、少し嫌だ。」


 「たかだか一度出会っただけでしょう。しかも、苑様は誰か知らない。爛様の方が付き合いは長い。全くらしくありませんね。次、行きますか?」


 「……嫌だ。考えるから屋敷に帰る。」


 「わかりました。帰りましょう。」


 憂榮は、御者に行き先を告げる。爛は、上の空のままで、馬車ではその話題に触れることはなかった。

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