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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

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第九十五話 やっぱりこの人も凄い人でした

智世さよにちょっかい出して来る雑鬼ざっきへの対処にな」



 総十郎そうじゅうろうは隣に座る智世を見て言った。その言葉に智世は目を瞠り鳴神なるかみを見る。

 鳴神は頼もしい表情で智世を見つめた。



「雑鬼にちょっかい出されてるのは君だな?」


「…はい」


「……えーっと、その子は?」


「妹の穂華ほのかです」


「こんにちは」



 鳴神の視線が穂華に向くと、すぐに穂華はぺこりと頭を下げた。それに鳴神も「こんにちは」と頭を下げ、そっと総十郎を見た。

 その視線に「知ってる」とそれだけを返せば十分だったようで、鳴神もそうかと改めて智世を見た。



「俺と神来社からいと達は出来る事が違うんだ。神来社達は刀で戦うが、俺は刀は使わない。代わりに術を使う」


「術……?」


「そう。だから対処も出来るんだ」



 智世と穂華の首がコテンと横に傾くのを見て、総十郎も苦笑い。そりゃいきなり言われても分からんよな。

 が、鳴神はそんなの気にしない。「よし」と膝を打つと威勢よく告げる。



「君の家に案内してくれ」


「え……」


「あ、やっぱり気心知れてる奴が一緒がいいか。妹ちゃんと、照真しょうまも来てくれるか?」


「はい」



 いきなり言われてももう驚かない。スッと立ち上がった照真は、同じく立ち上がった鳴神に続く。ズンズンと部屋を出ていく鳴神に、智世と穂華は慌てて立ち上がってついて行った。


 そんな二人を、咲光さくやと総十郎はそうなるよね…と言いたげな目で見送った。






♦♦




 町の中を意気揚々と鳴神が歩く。その後ろを照真達が続いた。


 戸惑っている智世と穂華に、照真は術を使って人とあやかしの境界を保つ事ができると教えた。感心して聞いていた智世と穂華も緊張や戸惑いは薄れていく。

 と、照真が思い出したように鳴神を見た。



「鳴神さん。どうして“とう”だって言ってくれなかったんですか?」


「あれ? 何で知ってんだ? 神来社に聞いた?」


「いえ。日野ひのさんが教えてくれました。同時に神来社さんが“頭”だって事も…」



 それを知った時の驚きが蘇る。無意識にムッと表情に出てしまう照真に、思わず振り返った鳴神がハハハっと笑う。



「だって俺、まだまだだもん。名乗れるほどじゃねぇし」


「えぇ…。でも神来社さんは、実力は申し分ないって…」


「全然だ。……俺はまだ全然追いつけない」



 何を追いかけているのか。鳴神の視線はどこか遠くを見ている。

 それを問うにも言葉が出ず、先に鳴神が智世を見た。



「視えるのは生まれつきか?」


「はい」


「そうか…。それは大変だな」


「…鳴神さんも…やっぱり、視えるんですね…」


「あぁ。といっても、俺は視えるようにしてるから視えるだけで、君とはちょっと違うんだ」



 悪いなと言うように下げられた眉に、智世はフルフルと首を横に振ったが、照真は少し驚いた。


 退治衆たいじしゅうには、勾玉を身に着けている事で視える者が多い。祓衆はらいしゅうには、程度は異なるが元々視えるという人が多い。だから、鳴神もそうだと思っていた。


 照真の視線に気付いた鳴神は、スッと着物の下から首にかけた勾玉を取り出してみせた。



「俺もこれ頼り」


「……そうだったんですね。俺てっきり…」


「まぁ、これ持つ前に、妖気に当てられて視えた事はあったけどな」



 視えない。という事はつまり、視える者より霊力が弱いという事。霊力は術を扱う上で、決して無関係ではない素質。



(鳴神さんは、それでも“頭”に……)



 総十郎が「実力は申し分ない」と言ったのは、お世辞でも何でもないのだと解る。


 鳴神はもう前を向いていて、照真の視線に振り向かない。その背中に照真は必死について行った。








 やがて四人は天城あまぎ家に到着した。

 店の邪魔にならないよう家の壁沿いで止まる。照真達が鳴神を見ると、すでに鳴神の視線は壁の向こうに向けられている。



「うーん……。照真。ここ清めた?」


「姉さんが。妖の侵入を防ぐために」


「成程。それで妖気がないのか…。智世ちゃん。悪いがお邪魔してもいいか? 出来れば君の部屋へ行きたい」


「はい。どうぞ」



 家の玄関扉を開け、照真と鳴神はお邪魔する。そのまま智世の部屋まで向かうと、鳴神は周囲をクルリと見やる。

 その姿に、照真も首を傾げて問うた。



「鳴神さん。どうやって対処をするんですか?」


「雑鬼が勝手に入らないように結界を張るんだ」


「結界…?」



 首を傾げる穂華に鳴神は頷いた。そして、懐から数珠を取り出すと、それを手に絡め、パンッと拍手かしわでを打った。






♦♦




「それじゃあ、結界を張ってもらうために鳴神さんに協力をお願いしたんですか?」


「あぁ。俺は張れないから。この町は西に管轄を持つ鳴神の、ギリギリ管轄内だからな」



 留守番をする咲光は、総十郎に鳴神を呼んだ理由を詳しく聞いた。


 成程と頷いた咲光は、初めて“頭”に管轄がある事を教えてもらった。北は日野、西は鳴神、南西を雨宮あまみやが管轄している。雨宮と言う祓衆の“頭”には会った事がないので、知るのは名前だけ。



「まぁ、管轄っていっても国の全土じゃない。それぞれの定住地から馬走らせてすぐ向かえる所だ。抜ける場所は衆員全員で補うし、“頭”同士で協力する事もある」


「定住地から測っているなら、神来社さんの管轄は本部周囲というわけではないんですね?」


「あぁ。俺はあちこち回ってるから、赴く場所そこが管轄って感じだな」


「広大ですね」



 笑う総十郎に咲光も口元に手を当てた。

 “頭”である総十郎は、勿論他の“頭”と深い仲だろう。咲光は知っている日野と鳴神を思い浮かべる。



(日野さんとは、先輩と後輩って感じもあったけど、鳴神さんとは友達みたい)



 総十郎と鳴神の年相応の姿が見えて嬉しい。なんて、言えそうにないけれど。






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