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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

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第九十二話 逃げるが勝ち

 通常の魚からは想像も出来ない甲高い断末魔が響き渡る。

 そのまま刀を深く突き刺そうとした総十郎そうじゅうろうだったが、痛みに身をよじる魚型のあやかしの抵抗で振り払われた。


 タンッと照真しょうまもまた地に着地する。距離を開けて獣型の妖も地面に足をつけた。


 ポタリと血を滴らせながら、魚型の妖が牙を鳴らす。



「照真。まずは阻止だ」


「はい!」



 咲光さくやから教えてもらった水移動。まずは、それを阻むための手を打たなければいけない。






♦♦





「水移動…。これで行方不明になった人の謎も解けたな」


「はい。水があったから…」



 きゅっと眉を寄せた咲光に総十郎も表情に険しさを見せる。


 水と水。ただ流れる水ではなく、恐らく少なくても貯水されている水。湯船のように。水たまりのように。

 でも…と照真は顎に手を当てた。



「この町で水のない所って、それこそないですよね?」


「あぁ。水のない所を望むより、水があっても、どうやって近づけないかを考えた方が良い」


「神威で阻む事が出来ます」


「そうだな」




♦♦






 照真と総十郎は駆け出す。そこに獣型の妖が加われば、すぐにでも川へ逃亡しそうだったが、そこは総十郎が早かった。

 振り下ろされる刀を除け続ける魚型の妖は、総十郎の狙い通りに川から引き離されていく。そこへすぐさま、照真が川の前へ陣取り、拍手を打った。



(絶対に水で移動はさせない!)



 川という入り口を塞げば、ここからすぐに町へ移動される事はない。後は自分達で別の入り口となりそうな、水の噴出による水たまりを作らせない事。そして、ここで倒す。


 川から引き離した総十郎は、照真の清めが川への侵入を阻んでいるのを感じ、再び地を蹴った。今度は斬るつもりで。

 魚型の妖には、獣型の妖が挑んでいる。ぶつあり合う妖力が吹き荒れている。が、今は獣型の妖が押されているようだ。加勢するように照真と総十郎が挑む。


 二人と一体の姿に、魚型の妖がえた。バキバキと鱗が立つ。



(来る!)



 鱗のつぶて。照真が緊張すると同時に、ドドドッと鱗が撃ち出された。


 まっすぐ動いていた照真も縦横無尽に襲い来る鱗に足を止められ、方向転換を余儀なくさせられる。その中で、総十郎は弾く鱗を見極め、ザッと魚型の妖の懐へ躍り出た。

 その刃が斬る…と思った瞬間、魚型の妖が地面に水を噴出させた。その勢いで後退する。



(! なんっつー避け方を…!)



 思わず舌打ちが零れてしまう。が、すぐさま刀を地面に突き刺した。



(――神よ)



 願い、乞う。そしてすぐに刀で飛んで来る鱗を弾き飛ばした。鱗はすぐに魚型の妖の身体へ戻っていく。


 二度も阻まれ、魚型の妖が歯を鳴らす。宙に浮いているその身は、まるで水中を泳いでいるよう。尾ひれがゆらゆらと揺れている。



(この妖、攻撃する事よりも、逃げる事に迷いがない)



 一歩間違えればすぐに逃げられる。それを感じ総十郎も眉間の皺を深くさせる。

 照真が川へ近づけないよう神威を張ったが、それはここ一帯の話であり、もっと上流や下流となると神威が届かない。


 魚型の妖の移動速度を考える総十郎の前で、魚型の妖がぐるりと身を反転させた。



「!」



 すぐさま照真と総十郎も地を蹴る。地を走るよりも宙を泳ぐ妖の方が速い。

 ギッと奥歯を噛んだ二人の前でドゴォッと大きな音が響き、魚型の妖が地に落ちた。



「逃がすか」



 底冷えするような低く唸る声が魚型の妖に落とされる。その身を踏みつけられた魚型の妖はじたばたと暴れるが、逃がしてくれる気配などない。ギィッと獣型の妖をひと睨みした直後、ギャンッと獣型の妖から痛みの声が上がった。

 片方のヒレから伸びた針がその身を貫いたのだ。



「! 大丈夫か!?」



 ドンッと地に倒れた獣型の妖に、すぐに照真が駆け寄る。自由になった魚型の妖だが、すぐに浮き上がる事は出来ずじたばたともがいていた。そこをすかさず総十郎が斬りかかる。

 斬りつけると同時に浮き上がり、致命傷に至らない。総十郎は魚型の妖を睨むと、逃げる妖をすぐに追った。


 照真に駆け寄られた獣型の妖は、痛みをこらえながら身を起こす。貫かれた箇所からも、動いて開いた傷からも、血が流れている。それに、先の鱗のつぶての攻撃も受けたのだろう。あちこちから血が流れ、その傷もかなり深い。



「っ……じっとしてた方が…」


「俺に構うな! 奴を倒すまではっ、絶対に死なない……!」



 悲壮な決意が、その目をまだまだ強く輝かせる。その強さに照真は何も言えなかった。


 立ち上がり、魚型の妖が逃げ方向へ走り出す。照真もその隣を走った。明らかに速度は落ちていた。

 向かった先では、総十郎が戦っていた。すでにヒレの針が斬り落とされて地面に転がっている。

 照真も獣型の妖も、すぐに戦闘に加わった。


 そんな中、魚型の妖が身を翻した。どこかへ逃げると思った総十郎は、その先に小さなため池を見つけた。



(まずい…!)



 このままでは逃げられる。そう思った時には強く地を蹴った。

 が、総十郎よりも獣型の妖が速かった。そして――



「!」


「!?」



 牙と、刀が、魚型の妖に突き刺さった。






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