表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/186

第八十四話 狙うもの、狙われるもの

 そう考えた咲光さくやはある事を思い付き、智世さよを見た。



「少し外します。もしかすると一瞬だけかなりうるさくなるかもしれません」


「はい…? 分かりました」



 咲光はスッと外へ出るとすぐに屋根へ上った。


 膝をつくのは丁度智世の部屋の上。腰の刀を抜き、スッと眼前へ掲げる。刃は月明かりに照らされ、白銀に輝いている。

 流石に屋根に突き刺すのははばかられるので、眼前に掲げたまま、そっと目を閉じた。



(悪しきモノ、妖しきモノが、この屋敷へ立ち入りませんよう――)



 雑鬼ざっき対策と、そして今智世を狙うモノから護る為、この地を清め、あやかしが近づけないようにする。しかし、決して何日も持つような手ではない。あくまでも、事の解決と総十郎そうじゅうろうが打つ手が成されるまで。


 咲光はトンッと屋根から降りると、一声かけて智世の部屋へ戻った。室内では、智世が驚いた表情のまま戻って来た咲光と天井を交互に見た。



「今、すごい音がして……なんだか逃げて行ったようなんですが…」


「少しの間、妖が近づけないようにしました」


「そんな事が出来るんですか?」


「何日も持つものではありませんが、その場しのぎにはなります。今日はゆっくり休んでください」


「ありがとうございます」



 何をしたのか、智世は問わなかった。ただ、咲光の笑みにホッとしたような顔を見せた。

 そしてすぐ、咲光は穂華ほのかの姿が無い事に気付き、首を傾げた。



「穂華ちゃんは?」


「喉が渇いたって、台所に…」



 智世が最後まで言うより先に、咲光は反射的に部屋を飛び出した。家人を起こさぬよう音をたてないよう注意しながら。



(おかしい…! 屋根の上からは感じなかったのに、どうしてこんな近くに…!?)



 突然の妖気。それも屋敷のすぐ前から。


 屋敷はついさっき清められ、妖は近づくのを嫌がる。だからこの妖気の主も入ってこようとはしない。しかし、屋敷の前にいる。


 バッと塀を飛び越え川沿いの表通りに出た咲光は、つらりと頬に汗を流した。

 目の前に、宙に浮いているというよりも、まるで泳いでいるような、魚型の妖がいた。口には牙が並び、広がった胸ビレはまるで翼のよう。その先端は尖っていて月明かりに光っていた。

 その姿から視線を逸らさず、刀を抜いた。



(血の匂いはしない。大丈夫。穂華ちゃんは家の中…)



 妖の妖気が肌を刺す。例えそれが、これまで戦って来た禍餓鬼かがき虚木うつぎ、森の妖には及ばない程度のものでも、決して油断は出来ない。


 妖の眼光が咲光を睨む。屋敷に近づけず苛立っているのはよく分かった。ギリギリと牙が合わされ、ガサガサと不気味な音が鳴る。それが鱗から鳴っているのだと解ると、咲光は瞬時に飛び退いた。鋭く伸びたヒレの先端が咲光が居た場所を貫いた。

 退いてすぐ、咲光は距離を詰めるため地を蹴った。もう片方のヒレの先端が伸びてくる。先端を避け、過ぎゆく針を横から斬る。そうすればパキリと針が折れた。



(強度はそれほどじゃない)



 水中で泳いでいるかのように妖はスイスイと動き回る。自由なその動きを追いながら、咲光は刀を振るった。






♦♦




 雑鬼達が話してくれた二体の妖。町や町のはずれを探し回り、やっとそれらしい妖気の残滓ざんしを掴んだ照真しょうまと総十郎は、町のはずれまでやって来ていた。



(妖気は二種類あった。一つは追えなかったが、もう一つはこの辺り……)



 いかに総十郎であっても、消えかけている残りから探し回るのは苦労する。ここまで来たが、その妖気の主が必ずいるかは分からない。


 周囲を何も取りこぼさぬよう睨んでいた総十郎は、ある一点を見つめた。「神来社からいとさん」と照真も小さな声をかけてくる。二人は頷き合うと、その妖気のする方へそっと足を進めた。いつでも抜けるよう刀に手を添えておく。


 隠れようとしているのか、妖気は抑えられている。が、それが完全に消える事はない。僅か感じる気配を探る。


 進んだ先で、草木の間に身を潜めるように、その妖はいた。スッと開かれた目が二人を見つめる。



万所よろずどころの人間か…」



 照真と総十郎は、油断なく妖の前へ出た。


 それは、大きな獣型の妖だった。白い毛と鋭い眼光。その体は犬や猫より遥かに大きく、人が一人や二人は乗れそうだ。

 が、その姿を視て照真は内心で首を傾げた。



(あれ…? 妖気は、それほど強くも弱くもない。でも、人を襲ってるような禍々しさもない…。何だろう、この感じ)



 少しだけ違和感を覚えた。自分にとって、おっかないという表現はこの妖には結びつかない。が、あくまでそう言ったのは雑鬼。感覚の違いかと自分を納得させる。

 その隣で、総十郎が一歩前へ出た。



「最近、町で妖による行方不明事件が起きてる。お前の妖気も残っていた」


「だろうな。町には何度も行っている。だが、言っておくが、人間とは関係がない。俺の目的は人間じゃない」


「目的?」



 その言葉に、総十郎が眉間に皺を刻む。同じ表情を見せる照真にも「そうだ」と妖は頷いた。



「もう一体の妖の妖気も残ってた。そいつを知ってるか?」


「知っている。あれは俺の獲物だ。万所の人間でも邪魔はさせない」



 その一瞬、妖は照真と総十郎を睨み上げた。僅か強くなる妖気から、充分な位威嚇が伝わる。

 が、だからといって引く事はできないのが二人の仕事。



「どうやら、同じ目的のようだ。悪いが、邪魔になると言われても俺達も引けないな」


「勝手にしろ」



 そう言ってすぐ、妖が耳をピンと立てた。サッと立ち上がるとどこかを睨む。急に空気の変わった妖を視て、照真と総十郎も身構える。

 妖が睨むのは町の方。その目はどこまでも鋭い。



(何だろう。嫌な感じがする…)



 もやもやと正体の掴めない不安が急に生まれる。

 いてもたってもいられず、照真は駆け出した。その後をすぐに妖と総十郎が駆け出した。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ