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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

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第七十八話 元気をくれる笑顔

 様々な店が並ぶ中にある遊戯店。扉は開け放たれていて、客が出入りしやすいよう壁も吹き抜けに近い。よく見える店内だから、刀袋を背負った見知った二人の姿もよく見えた。



(なんでここに?)



 少々意外な発見処に総十郎そうじゅうろうは少し驚くと、店の暖簾をくぐった。入ってすぐに「いらっしゃい!」と店主の男性の大きな声が響き渡る。


 目の前には客が横に並び、玩具の弓を引いている。店の奥には段違いの棚が置かれており、その上には景品が並んでいる。矢の先端は丸く削られており、それで景品を倒すという遊戯だ。さらに、子供向けに輪投げの遊戯も行われていた。広めの店内は人々で賑わい活気づいている。


 弓遊びの客の中に、知った二人の姿もある。その傍には可愛らしい着物を着た女の子が二人。咲光さくやは年上の女の子と笑って話をして、照真しょうまは年下の女の子にやり方を教わっているようだ。

 そんな光景に微笑ましさを覚えながら、総十郎は二人の元へ向かう。


 ヒュンヒュンと風を切る音と、喜びや落胆の声。耳に入って来るだけで心が沸き立つ。そんな中に混じって、照真がビュッと狙いを定めて矢を放った。



「………あれ?」


「外れ。照真さん、下にずれちゃった」


「本当? これ難しいんだね」


「うん。…私も当てられないの…」



 照真の傍では女の子がぷくりと頬を膨らませている。

 そんな姿に思わずクスリと笑みがこぼれた。聞こえたのか、不意に咲光が振り返った。



神来社からいとさん。おかえりなさい」


「あ、本当だ。おかえりなさい!」


「ただいま」



 当然のように言ってくれる言葉が、少しだけこそばゆい。けれど嬉しい。


 咲光と照真と同時に、智世さよ穂華ほのかも総十郎を見た。そんな二人に咲光は総十郎を紹介する。



「私達と一緒に旅をしている。神来社総十郎さんです」


「あぁ、先程仰っていた方ですね。初めまして。先程、咲光さんと照真さんに困っていた所を助けて頂きました。天城あまぎ智世と言います」


「私は、妹の穂華です。こんにちは」


「こんにちは。咲光と照真と旅をしている、神来社総十郎だ」



 ぺこりと頭を下げる姉妹に総十郎も同じように返す。


 そんな三人を見つめていた照真は、ハッと思いついたような顔をすると、総十郎に駆け寄り、弓とあと一本になった矢を差し出した。



「神来社さん。これやった事ありますか?」


「あぁ。昔な。もう何年も触ってないけど」


「後一本残ってるんですが、どうですか? 俺がやっても当たらなくて…」


「ハハッ。難しいだろう。お前、小さい物狙ってたみたいだし。後ろから教えてやるから、最後の一回で取ってみろ」


「いいんですか?」



 パッと嬉しそうな顔を見せると、すぐに立ち位置に戻る照真に、総十郎も後ろに続く。「震えは消して。もう少し上」と教えてくれる総十郎に頷き、応えるようにパッと放たれた矢は、ぽふっと小さな巾着袋に当たった。

 その瞬間、見守っていた咲光達から小さな拍手が飛ぶ。照真も嬉しそうに笑みを浮かべた。



「お見事兄ちゃん!」


「ありがとうございます」



 店主の男性が、照真が当てた巾着袋を持って来てくれた。淡い桜の色をしていて、若い緑や花が清楚に刺繍された一品。

 照真はそれを大事そうに受け取ると、すぐに咲光の元に。



「姉さん。はい」


「くれるの?」


「うん。姉さんが喜びそうだなと思って」



 咲光の手に乗せられた小さな巾着袋。その贈り物に、咲光はふわりと笑みを浮かべた。



「ありがとう。照真。大事にするね」


「うん。どういたしまして」



 喜んでくれた嬉しさと少しの気恥ずかしさが混じる表情で照真も笑みを浮かべる。そんな姉弟を総十郎達も笑みを浮かべて見つめていた。








 遊戯店を後にした咲光達は、智世と穂華を家に送り届ける為歩き出した。その中でも会話に花が咲く。



「天城さんの家は、運び仕事を?」


「はい。船を使ったり、陸路を荷馬車で走ったりして、荷を運んでいます」


「大変だな。扱う荷は多いのか?」


「はい。お店がまとめて運ぶものだったり、今は個人が個人へ送る荷も受け付けています」


「家には沢山の運び手さんがいて、お兄ちゃんやもう一人のお姉ちゃんも一緒に仕事してるんです」



 へぇと咲光達三人から感嘆の声がもれる。


 運びの仕事は、言葉の通り荷物を運ぶ仕事だ、荷を預かり、届け先へ届ける。荷物を丁寧かつ迅速に扱わなければならず、体力も気力も忍耐も必要になる大変な仕事だ。

 咲光と照真の生まれ育った村ではそうそう利用する事はないが、都会ではよく利用され、少しずつその範囲は大きくなっている。


 智世と穂華は五人兄弟の下二人になるそうだ。二人の兄と、一人の姉がてきぱきと仕事をこなしているらしい。


 そんな話を聞きながら歩いていると、川沿いに一軒の家が見えてきた。家の隣に構えている店には『荷運び、天城』の看板が大きく掲げられ、運び手や客もよく出入りし、荷馬車には荷物も積まれ、忙しいのがよく分かる。

 店の邪魔にならないよう、智世は店とは別にある、家の門の前で咲光達を振り返った。



「ここで大丈夫です。わざわざ送っていただいて、ありがとうございました」


「いえ。こちらこそ、今日はとても楽しかったです」



 ぺこりと頭を下げた智世は、咲光の笑みに同じように嬉しそうに笑みを返した。

 その隣では、穂華がわくわくと目を輝かせ咲光を見上げる。



「咲光さん達はまだこの町にいるんですか? 私とっても楽しかったから、またお話とかお出かけしませんか?」


「いいの? 私達はまだこの町にいるから、また是非」


「やった!」



 嬉しそうな穂華に、智世は困ったように眉を下げ「妹がごめんなさい」と咲光に頭を下げた。



「上の兄も姉も両親も甘やかすから、まだ子供っぽい所があって」


「いいえ。邪気がない表情はとても元気をもらいます。穂華ちゃんの良い所だと思います」


「そうですよ。穂華ちゃんが嬉しそうに笑ってると、俺も元気もらえます。このままでいるのがきっと素敵です」


「ありがとうございます……」



 智世も妹を大事に想う優しい姉なのだ。照真の言葉に嬉しそうな顔をする。

 それを弟妹を持つ総十郎は見つめた。自分だってきっと、弟妹の事をそう言われると同じ顔をするだろうなと思いながら。


 頭を下げる智世と手を振る穂華に見送られ、咲光達はその場を後にした。情報共有の為、一旦神社へ戻る。神主に改めて挨拶をし、咲光と照真、そして総十郎は互いの情報を共有する事にした。






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