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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

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第七十五話 おっかない奴

 見送られながら茶店を後にした二人は歩き続ける。照真しょうまは眉間に皺を寄せながら顎に手を当てた。



「七人…。そんなに被害者が出てるなんて…」


「うん。共通点はないみたいだし、家の中でも出てくるなんて…。少し難しいね」


「もう少し詳しい人いないかな……」



 しかし、旅人の自分達があれこれと探っていると、時に不審に思われる。あやかし退治の為と堂々と言う訳にはいかないのだ。

 ふむふむと考えていた照真は、くるりと咲光さくやを見た。



「……探してみる?」



 誰を、なのかは咲光もすぐに解った。照真の言葉に頷くと、二人は探す為に足早に歩き出した。








 そしてやって来たのは、人通りの多い道を外れた所にある、広場。木々の茂るその場所は、静かで池もある。のんびりと散歩する人の姿もまばらな中、咲光と照真は歩き続ける。そして見つけた。


 歩道から離れた茂みの中に小さな物置小屋があった。その中から感じる複数の気配。

 照真はそれを感じ、ギィィ…と軋む扉を開けた。


 物置小屋には、箒やちりとり、台車や紐、桶や杓もある。しかしそれらに用はない。窓は小さな一つだけ。しかし、その硝子は一部割れてしまっていて外が覗き見える。


 一歩中に入る咲光と照真の耳に、こそこそ話が聞こえた。



「よく来る奴とは違うぞ」


「誰だ誰だ」


「退治人だ。刀持ってる。あれ普通のやつじゃないぞ」


「退治人だ。俺達斬りに来たのかな」


「悪い事してない」



 なんだよなんだよと聞こえる会話に良い感情はなさそうだ。かつて、それを菅原との仕事で知った照真は、脅かさないようそっと声をかけた。



「斬りに来たんじゃないよ。話を聞きたい事があって」


「なんだよ。退治人に話す事なんてないぞ」


「町で行方不明になっている人の事について聞きたいんだ」


「あー…あれか。あんなおっかない奴、早くどうにかしてくれよ」


「え? 見たの?」


「え?」



 咲光と顔を見合わせ驚く照真に、雑鬼ざっき達まで目を点にさせて姿を見せた。

 一匹が出てくると、ぞろぞろと姿を見せる。その数に少々圧倒されながらも、咲光は再度尋ねる。



「おっかない奴っていうのはどういう妖なの?」



 咲光の問いに、雑鬼達は顔を見合わせるとこそこそ話を始めた。

 咲光も照真も、じっとその話が終わるのを待つ。雑鬼達は何かを知っている。有力な情報になるかもしれない。


 こそこそ話を終えた雑鬼達は、今度は恐る恐る咲光と照真を見た。



「あのおっかない奴退治に来たのか?」


「その妖が行方不明者に関わってるなら。俺達は、それを解決させるためにここに来たんだ」


「君達を斬るような事はしないよ」



 まっすぐ頷く照真と、安心させるように伝える咲光に、顔を合わせた雑鬼達は、話に応じるというようにトンッと腰を据えた。



「おっかない妖が夜な夜なやって来て人を襲うんだ」


「だから人が消えて、人間達が騒いでるんだ」


「俺達も巻き込まれたくないから、町には出て行かない」



 雑鬼達は力が弱い。強い妖には恐れを抱くが、自分達に害がなければ関わらないというだけで済み、町に出ないという程にはならない。

 今回の妖は、雑鬼にさえ害が及びかねないのだと、雑鬼達は判断しているのだ。それを察し、咲光は一度視線を下げると、まっすぐ雑鬼達を見た。



「その妖を視た子はいる?」


「はっきり視た奴はいないぞ。妖気感じるだけで近づきたくなくなるからな」


「ちょっと視た奴が言うには、宙浮いてて、すぐ消えちまったって」


「消えた…?」



 すばしっこい妖なのだろうかと照真は首を捻る。


 その情報を頭に入れながら、咲光はもう一つ雑鬼達に問う。



「襲われた人達の事で何か知ってる事はある? どんな事でもいいの」


「人間なんてほとんど知らないぞー…」


「そうだなぁ」


「あ。ある。あるある」



 はいはいと手を上げた雑鬼に咲光と照真の視線が向いた。小さな手を精一杯上げている雑鬼に「何?」と少し身を乗り出して問うと、雑鬼もまた身を乗り出して教えてくれた。



「襲われた人間は強弱はあるけど、妖が視える奴だった」


「そういえば…。でも、はっきりじゃないぞ。ぼんやりーってぐらいで」



 まさかの共通点に咲光も照真も目を瞠る。


 妖をはっきり視認できる人は本当にまれである。感覚として感じ取ったりもやのように視える人は時折いる。今回襲われたのはそういう人達のようだ。

 視たり感じたりする事は、妖に視認されたと判断される事なので、襲われる事は少なくない。つまり、次に狙われるのも、そういう人である可能性が高いという事。


 咲光と照真は、まっすぐ雑鬼達を見た。



「そういう人、他には知ってる?」


「知ってるぞ。でも、後一人くらいだよな」


「うん。後は、俺達をはっきり視る事ができる一人だけだな」


「! それ誰……」


「大変だー!」



 その時、一匹の雑鬼が駆け込んできた。その慌てぶりに、小さい雑鬼と丸い雑鬼がバッと駆け寄って来た。



「たっ…たいへ……アイツらが…!」


「またか! よしっ。ちょっと行ってくるからな!」


「何言ってんだ。俺達も行くぞ!」


「仲間の恩人は俺達の恩人なんだからな!」



 なんだか急に物々しくなってきた。そんな雑鬼達に何も言葉が出て来なくなった咲光と照真だが、入って来た雑鬼に駆け寄っていた二匹の雑鬼と目が合うと、「ちょうどいい」と手招きされた。



「今話してた奴の所に案内してやる!」



 言うや否や物置小屋を飛び出す雑鬼達。戦いにでも行くかのような空気に、咲光と照真は顔を合わせると、その後に続いた。






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