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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

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第六十九話 家族

 すぐに綾火あやか総十郎そうじゅうろうを見て首を傾げた。



「でも、総兄。どうしてお二人を家に? 私達に紹介してくれるためじゃないでしょう?」


「それもアリかとは思ったけど、本題は別だ。総元そうもとも交えてちょっと仕事の話をな」


「なぁんだ」



 浩三郎こうざぶろうは少し残念そうに頬を膨らませる。それを見て総十郎は「悪いな」と笑みを返した。


 咲光さくや照真しょうまはぱちりと瞬き顔を見合わせる。「来てくれ」と言われついて来たが、まさかそんな目的があったとは…。少しだけ緊張してきた。



「でも、しばらくは居るんでしょう? お二人も」


「え…」


「あぁ。父さんには言った。急だが母さんにも言わないとな」


「あ、総兄が弟子連れて来たって言ったら、「ご馳走と部屋の準備しないと」って言ってたから、承知してると思うよ」


「今まで総兄が誰か連れて来た事なんてなかったから、なんか嬉しそうだった」


「……そうか」



 南二郎なんじろうと浩三郎の言葉に、思わず苦笑いが浮かんでしまった。

 後で改めて二人の滞在を許してもらおうと決め、咲光と照真を見ると、申し訳ないような顔をしていた。



「今までも世話になった神社や寺があるだろう? それと同じだ」



 そう言う総十郎に南二郎も同意するように頷いた。その頷きに、咲光も照真も顔を見合わせ「はい」と頭を下げた。







 それからすぐ、咲光と照真は総十郎の母の元へ挨拶に行った。


 台所で食事の準備を進めていたその女性は、総十郎の呼び声に振り返り、そそっと駆け寄って来る。

 その女性に、咲光も照真も顔には出さなかったが驚いた。とても五人の子供がいるようには見えない若々しい人だった。



「ただいま戻りました。母さん」


「おかえりなさい。総十郎。うん。怪我もないみたいで良かった」



 心配してくれる母に総十郎も眉を下げる。母の視線はすぐに咲光と照真に向けられた。

 そしてパッと表情を明るくさせる。



「この子達がお弟子さん?」


「あぁ。村雨むらさめ咲光と、照真。しばらく家に泊めたいんだ。いいですか?」


「勿論っ!」



 嬉しさの笑みが咲く。その笑みに総十郎も笑みを返し、咲光と照真も「お世話になります」と気持ちよく頭を下げた。


 夕方には戻って来た総元に、改めてご挨拶。



「家ではゆっくりしておくれ。総十郎が人を連れて来るなんて初めてでね。子供達も楽しそうだが、失礼をしたら遠慮なく言ってくれていいからね」


「はい。皆元気で、話をしても楽しいです。会えた事は、私達にとってもとても嬉しい事です」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。仕事の話はまた明日に。今日はゆっくり休んでおくれ」


「ありがとうございます」



 神来社からいと家来訪日は、楽しい声に包まれ、緊張もすぐに解けていた。








 食事もお風呂もいただき、与えてもらった部屋で寛ぐ。ふわぁと照真は布団に寝転がった。

 その目は少し嬉しそうに天井を見上げている。咲光は鏡台の前で髪を梳いていた。



「神来社さんが総元の息子さんっていうのは驚いたけど、なんだか本部って言っても普通のご家庭で、ちょっと安心する」


「そうだね。ご兄弟も凄く仲良くて、皆神来社さんが好きなんだね」


「うん。妹の明子あきこちゃん、神来社さんにずっとくっ付いてた」



 ご飯を食べる時もずっと隣に座っていた。総十郎が寛いでる時も膝に乗っていた。

 思わず「いつもあぁなの?」と照真が南二郎に聞いたくらいだ。南二郎も「前回戻ってすぐ仕事に行ったので、今度は阻止しようとしてるんです」と笑っていた。それが聞こえていたのか総十郎も苦笑いを浮かべていた。



『…明子。俺が仕事行くって言ったらどうする…?』


『! 総お兄ちゃ……いるって言ったっ…!』



 ハッとショックを受けて今にも泣きそうに瞳を潤ませる明子に、「行かない行かない!」と総十郎は慌てて訂正していた。見てる側は微笑ましかった。

 夕食後の光景を思い出し、咲光もクスリと笑う。



「明子ちゃんにとって、神来社さんはあんまり会えないお兄ちゃんだから、帰って来た時はいつも嬉しいんだって」


「それは嬉しいだろうなぁ」



 微笑ましさを感じる。仲の良い兄弟達を見つめる母と父の眼差しも、とても優しいものだった。

 あやかしと戦う組織をまとめる一家だとはとても思えない。どこにでもいる仲の良い家族だ。



「神来社さん、一体総元も一緒に何の話なんだろう…」



 総元を交えてという事は余程重要な話なのだろう。その話に自分達が混ざっていいのか。総十郎がどういう事を考えているのか。

 今はまだ分からない。



「私達もって思ってくれた、神来社さんの気持ちには応えたいね」


「うん」



 外は静かだ。自然の澄んだ空気が優しく包んでくれた。








 夜が更けた頃。

 総十郎は父と縁側に座っていた。総十郎の目は、昼間の事を思い返して優しく細められる。


 総元はそんな総十郎に視線を向ける事無く、じっと前を見つめていた。



「咲光と照真に話を?」


「したいと思ってる。どちらにしろ、あの二体の事は話すけど、()()については父さんが駄目だと言うならしない。そういう決まりだ」



 総元はそっと目を伏せた。

 咲光と照真は、子供達ともすぐに打ち解けた。総十郎もそれを微笑ましく見つめていた。

 普通に暮らしていれば、きっと二人も今頃家族と笑えていたはず。知っている。あの二人が戦って来たこれまでを。



「分かった。お前がそう言うのなら、二人にも話そう」


「! 父さん…」


「お前がそう言う子達なら、きっと大丈夫だ。……あの子達は、強くなるかな?」


「…あぁ。俺は、そう思うよ」



 父と息子の久方の会話を、上空の月が優しく見守っていた。






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