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縁と扉と妖奇譚  作者: 秋月
第六章 天城編

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第六十七話 万所本部

 北の町から、万所よろずどころの本部があるという場所まで、のんびり歩いて日が経った。


 旅の途中には、野宿をしたり、町で宿を取ったりした。総十郎そうじゅうろうから鍛錬をつけてもらう事もでき、照真しょうまは心も弾んでいた。咲光さくやも三人の旅の楽しさを感じていた。喜んで楽しんでくれる二人に、総十郎もいつもとは違い、この旅を楽しむことができていた。


 そして、総十郎の案内で、咲光と照真は都会の町を歩き、やがて見えてきた大鳥居を唖然と見上げた。


 広大な敷地を有しているのだろう一帯は、まるで森のよう。山とは違い丁寧に整えられているが、人の手が入っている最低限のようだ。それでも荒れているようには見えない綺麗な場所。


 これまで立ち寄った神社よりも遥かに大きい。思わず立ち止まった咲光と照真の傍を、多くの参拝者が通り過ぎていく。その数にも照真は圧倒された。



「こ、ここが…?」


「そう。表向きは普通の神社だけどな」


「ふつっ……って、かなり大きいですよね?」


「まぁ、広さはあるな。一般参拝者が入れるのはほんの一部だし。その奥がその数倍も広い。ここは歴史も長いからな」



 さらりと総十郎の口から出て来た言葉に、咲光も照真も開いた口が塞がらない。そんな二人に総十郎はどうしたと言いたげに首を傾げる。

 どうにも二人の足が動きそうにないので、総十郎はポンポンッと背を押した。



「じゃ、行くぞ」



 背を押されて咲光と照真が歩き出す。大鳥居の端を歩いてくぐる。頭上を、天にまで届きそうな鳥居が見下ろしている。



「!」



 鳥居をくぐり、一歩足を踏み入れた途端、咲光と照真はピリッと軽く身を刺すような感覚を覚え、背筋が伸びた。その、打たれたというような表情と伸びた背に、総十郎はクスリと笑う。

 その感覚は自分も感じる。それには毎度背筋を正される。決して慣れるものではない。



「か…神のおわす場所だ…」


「うん…。解る…。この感覚…」



 もうすでにここは、神の領域。これまでにも神社の空気が違う事は感じていたが、ここまではっきりと強く感じたのは始めてだった。

 体が震える。けれど、あやかしと対峙する時の恐怖のようなものではない。



(震える…。怖いけれど、心を自然と落ち着かせてくれる)



 ふぅと息を吐いて空を見上げる。咲光と照真はゆっくりと歩き出した。周りを人々が行き交う。

 その中で、咲光は総十郎を見上げた。



「ここは、とても神の空気が強いんですね。こんな感覚初めてです」


「そう感じるのは、お前達がそれだけの感覚を養い、扱える神威が強くなった証拠だよ」


「そうなんですか…? でも、俺達はそんなに強い神威は…」


「そう思ってるだけで、日々の鍛錬は神威にもちゃんと反映されてくるもんだよ」



 ニッと解っているのだというような笑みに、咲光と照真も顔を見合わせ首を傾げた。

 が、それ以上総十郎が何かを言うような気配はないので、咲光もそれには追求せず、別の事を総十郎に聞く事にした。



神来社からいとさん。お参りをしてもいいですか?」


「勿論」



 快い返事に、三人は参拝者の流れに乗った。

 玉砂利の足元は歩くたびに音が鳴る。木々のおかげが空気は涼しいものだった。


 一般参拝客が入る事ができる奥に、立派で荘厳な拝殿が見えてきた。拝殿の奥には本殿があるが、そこには入る事は出来ない。

 拝殿の前までやって来た三人は、礼をして拍手かしわでを打った。



「こっちだ」



 参拝を済ませ、今度は総十郎の案内で歩き出す。


 奥へ奥へ行けば、人の姿もなくなる。だんだんと人の声もなくなり、自然の音だけが耳に届く。周囲の景色は草木の緑と、所々配置された岩になっていく。


 澄んだ空気の中を歩いていた照真は、行く先に建物を見つけた。


 緑の門が続いている。その先に平屋の大きな建物があった。ふとその左手を見れば、また別の建物がある。吹き抜けになっているようなその建物の前は、広い庭になっている。最初の平屋の建物は、庭に向けて東屋あずまやのような建物も伸びている。



(ここが、万所本部……?)



 緑の門を抜ければ、平屋の建物がはっきり視界に広がった。立派な屋敷だなと思う照真の傍で、「あ…」と何かに気付いたような咲光の声が聞こえる。

 その声に前を見れば、照真も同じように気づいた。


 屋敷の前で掃除をしている一人の人物に、見覚えがあったのだ。総十郎も足を止め、咲光も照真も同じように足を止めた。



南二郎なんじろう



 総十郎の言葉に、その人物は振り返った。驚いた風なく振り返ったが、咲光と照真を見て意表を突かれたように目をみはった。


 間違いなく、自分達の万所の入所の試しを仕切ってくれた南二郎だ。それが分かり、再会の嬉しさもあって、咲光と照真は駆け寄った。



「咲光さん。照真さん。お久しぶりです」


「お久しぶりです! お元気そうで何よりです」


「お二人も。ご活躍も聞いていますよ」


「活躍なんてとんでもないっ。まだまだです!」


「いえ。お二人がしてきた経験はとても凄いものです」



 確かな頷きが笑顔と共に向けられる。咲光も照真も顔を見合わせ、眉を下げた。


 そんな咲光と照真も後ろからのんびり歩いて来た総十郎。その姿に南二郎は視線を向けた。



「おかえり、総兄」


「ただいま」


「今度はちょっとくらい長居するよね? 泣くよ?」


「………分かってる。一応そのつもりだ」



 どこか意地悪く言う南二郎に、帰宅を喜ぶ総十郎の笑みが引き攣った。そんな総十郎を見て南二郎はクスクスと笑う。

 が、そんな二人を交互に見て、咲光と照真が目を点にした。



「…あの……神来社さん…」


「えー…実はな…」


「おや。総十郎。お帰り」



 咲光と総十郎の言葉とは別の人物の声が、一同の耳に届いた。


 玄関の扉を開け、一人の男性が姿を見せる。咲光と照真は見知らぬ人物に口を閉ざす。

 南二郎はその人物に向き直り、総十郎は何故かなんとも言えない表情を見せる。が、その男性の言葉に答える事にした。



「…ただいま」


「父さん。総兄が弟子連れて来たよ」


「あぁ。咲光と照真だね。初めまして」


「初めまして…」



 状況を呑みこみ切れず、咲光と照真はパチパチと目を瞬かせるしかなかった。






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